5 私、どうなってるの?
ゴメリが急患としてウシャ爺の治療を受けている間日向子はずっと看護師としてウシャ爺のサポートをしていた
「こりゃ一体どうしたんじゃ?魔物にでも殴られたのか?」
ゴメリの重篤ぶりにウシャ爺は魔物の襲撃を疑った
「いぇ…私がちょっと…」
「んはっ?こんな時に冗談を言うでない、見ろ。肋骨が4本折れて肺に刺さっとる。
それだけじゃなく内臓も破裂しとるんだぞ?人の力ではこうはなるまい?」
「本当なんです…」
「かぁ~…最近の娘は馬鹿力なのかのぅ?」
「…すいません…」
「とにかくこの飲み薬と軟膏で治るじゃろ。後は自宅に連れて行って寝かせておけば直ぐに良くなるじゃろ」
「ほっ…ありがとうございました」
ースッー
「…ブッ⁉お、お主そんな軽々とゴメリを…?」
「えっ?あぁ、ゴメリさんって見かけより軽いんですよ?」
「…んな訳あるかいっ‼お嬢ちゃんが負わせたってのもこれで信じるわぃ…」
「あ、あの…ゴメリさんの家が分からないんですけど…」
「あぁ、ゴメリの家は玄関を出て左に歩いて三軒目の家じゃよ」
「分かりました。あの…治療費は…」
「んなモン後でえぇ。早く寝かせて来い」
「はい」
ーガチャ…キィー…バタンー
「ヒナと言ったかの…あの娘、人の膂力を超えとるわぃ…」
「あ、ここかな?」
日向子はゴメリを担いで教えられた家に入った
「ここがゴメリさんの部屋かぁ…あ、ベッドがあった‼」
日向子はベッドの上にゴメリを下ろす
「う…ん…アメリ…」
(娘さんの名前かしら?)
ゴメリはうなされている
(私のせいで怪我させちゃって…病院で治療してたら3ヶ月は掛かってるわ…)
日向子は酷く落ち込んで立っていられない。
フラついて近くの椅子に腰を下ろした
「私の体、どうなってるのかしら…ゴメリさんをあんなに軽々と持ち上げたりあんなスピードで走ったり…」
頭を抱えて考えてみるが分からない
「う。。。」
「あ、お水とか汲んでおかなきゃ‼ご飯とかも作っておかないと‼」
日向子はキョロキョロと辺りを見回して台所を探す
冷蔵庫などない世界では食材を買い置く習慣はないので保存の利く食材以外は全てその日揃えなくてはならない
「お金持ってないし…カントさんに頼んで少し分けて貰おう」
日向子はカントの家に向かうのだった
。。。
ートントントン…ジュー…グツグツ…ー
「…うっ…ここは…ア、アメリか⁉」
ゴメリはいつの間にか自分の家に寝かされ物音で起きたのだが…
台所に娘が立って料理を作っているのを見て驚いた
「あ、ゴメリさん‼目が覚めましたか?」
日向子はゴメリの声に気付き振り向く
「…そっかぁ、ヒナちゃんか…」
今着ている服は娘の遺した服だったので完全に見間違えてしまった
娘は10年も前に死んでいるのだ、いる訳がなかった
「台所勝手に使ったごめんなさい、それに…怪我させちゃってごめんなさい‼」
日向子はゴメリに涙混じりに謝る
「あはは、痛てて…そんなに謝る事ぁねぇよ、ヒナちゃんに殴られて気絶するなんてなぁ…
オラぁも随分ヤキが回っちまったもんだぁ」
「あ…いえ…実は…」
日向子は正直に今までの経緯をゴメリに話した
ゴメリは日向子の話す内容に目を白黒させていたが脇腹の鈍い痛みが真実だと物語っていたのだ
「そっかぁ…ヒナちゃんになぁ。信じらんねぇけんど後でウシャ爺に聞けば分かるこったしなぁ」
ゴメリは全て聞いても合点がいかなかったが倒れたゴメリを背負って片道一時間はあった道のりを引き返し
ウシャ爺の所に駆け込んだのは紛れもない事実なのだ
「オラぁもヒナちゃんに謝らねばのぅ…そっだに強いなら心配なぞせんでも1人で行けたっちゅうに…」
「そんな…私は強くないです…」
確かにオペ看をしていた時、同僚から力持ちだねと冷やかされた事はあった
だが今の力は冷やかしのレベルではなかったのだった
「…あ‼ゴメリさん、ご飯作ったから食べて下さいね‼」
日向子は出来上がった料理をテーブルに並べる
「…こりゃうまそうだ」
「えへへ…ここの料理は分からないから我流だけどどうぞ。」
「ん?こりゃあうめぇよ‼ヒナちゃんは料理上手だなぁ」
「良かったぁ‼コンソメとかないし味に自信がなかったんです」
「そんだらこたねぇよ。うめぇ‼」
「あはは、お世辞でも嬉しいです」
ゴメリはお代わりを何回もして日向子を驚かせたがやはり体がダルいのか食べ終わるとそのままベッドに戻って寝てしまった
「ふぅ、ゴメリさんは大食漢だったのね。驚いちゃった」
汚れた食器を洗い残り物を片付けると椅子に腰掛ける
「さっき見つけたけどアレがお嫁さんと娘さんかしら?」
そう言う日向子の目線の先には1枚の絵が飾られている
写真もない、絵の具もおそらくないか高額なのだろう。
木炭の様な線で描かれた二人の女性は満面の笑顔を湛えていた
「ゴメリさん、早く良くなって下さいね?明日また来ます…」
ぐっすり眠っているゴメリに小声で声を掛けると日向子はそっと玄関の扉を閉じた