46 ついに決勝戦‼
ー翌日ー
「今から決勝戦を行う‼居合いのエモン、日向子、前に‼」
ワァァァァ~~~~ッ‼
会場は今大会一番の歓声に包まれる
国王も観戦する御前試合となる決勝戦は今までとは違う緊張感に包まれていた
「わぁ、何かドキドキしてきちゃったな」
「…正直日向子殿の闘いぶりを見てきて俺の刀が届く自信はなくなった。だが全力を尽くさせて貰うぞ」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします‼」
二人は静かに対峙した
「では…始めっ!」
これから始まる闘いはエレモス武闘大会史上伝説となる
「ん?日向子殿、手甲剣は出さないのか?」
「受けるだけなら手甲で出来るしね、相手をなるべく傷つけたくないのよ」
「優しいな…本来なら無用なモノだが日向子殿程の力量があればそれは慈愛にもなるのだろうな…」
「実はね、ちょっと力を込めると千切れちゃうんです…」
「ん?」
「討伐の時ってあちこちから襲ってくるでしょ?そういう時は手加減出来なくて…
魔物が死角から来て慌てて殴ると…体とか頭とかが…」
…ゴクリ…
エモンは日向子の言葉に生唾を飲み込んだ
日向子には武器を必要ではなかったのだ
技術云々ではなく単なる身体能力のみで相手を屠る事が可能なのだ
柄を握るエモンの掌に汗が滲む
「…帰れるかな?故郷に…」
少し涙目になっている様な気もするが日向子にも審判にも観客にも見えなかった
「じゃあ行きます‼」
日向子は相変わらず散歩にでも出掛けるかの様にエモンに近づく
エモンは必殺の間合いにこんなに大胆に侵入してくる相手は見た事がなく一瞬戸惑うが体が気持ちとは別に反応していた
ーシュカッ‼…⁉ー
必ず斬れる「筈」の間合いから日向子が消えた
エモンが思わず刀の切っ先を見るとその先に日向子が立っていた
「なっ⁉」
そう、日向子はエモンの放つ刀よりも速く平行移動したのだ
「まさか…刀に逆らわず平行移動するとは…」
一般の居合いでの抜刀は剣速が時速150kmと言われている
秒速に直せば約41mである。
エモンは達人の域に達しその剣速は一般の倍はあるにも関わらず日向子は反射でその剣と平行移動したのだ
エモンはふと日向子が歩いてきた場所を見る
地面が抉れその移動速度が人智を越えて行われた事を如実に表していた
「…敵わんな、やはり…」
エモンは嘆息するが抜刀した刀を再び鞘に納める
「敵わぬまでもせめて一太刀。」
日向子はエモンの目から光が消えていない事が分かると見た事のない構えを見せた
「エモンさん、ちょっと試させて貰うね」
ーブッッッ‼…ビシッッ‼ー
日向子が試したのは「只の正拳突き」であった
ただパンチを繰り出しただけなのに数メートル先の地面に亀裂が走った
「な、何だ⁉」
「んーと、衝撃波…かな?」
「衝撃…だと?」
日向子はこの世界に来てから脳内のリミッターが外れ人体の限界点を越える力を出せる様になった
本来生物が持つ可動の限界点に対する無意識の「自制」がないのだ
その為に人並み外れた膂力を発揮出来る
「あれっ?」
日向子は自身が医療に携わっていた経験から肝心な事を忘れている事に気が付いた
例え脳内リミッターが外れ崩壊度外視の力を振るえたとしても骨や関節、
筋繊維や内臓、構成物がその力に耐えられる筈がないのだ
(…何で耐えられるんだろ?)
日向子の頭は試合よりも自身の体に意識が移ってしまった
「今だ!」
エモンは突然何かに気を取られた日向子に渾身の抜刀を放つ
試合中に気を取られる方が悪いのでこれは卑怯とは言わない
「うーん?」
ービュッ‼スカッ⁉ー
エモンの渾身の抜刀すらも日向子は「片手間」に避けてみせたのだ
「…日向子殿」
「え?あ、はい‼」
「今の貴方の態度は私に対する侮辱でしかない」
「…ごめんなさい…」
「敵わぬまでも、と思っていたが貴方の闘いに関する志は命を懸けるに値しない様だ」
エモンは刀を納め降参を口にする
とそのまま背を向けて会場から立ち去ったのだった
「しょ、勝者日向子‼」
「何だそりゃ‼こんなんで終わりとか有り得ないだろー‼」
「俺達ゃ賭けてんだ‼納得いく訳ねぇだろ‼」
「ご、ごめんなさい‼」
日向子は観客に向かって深々と頭を下げた
。。。
「ま、まあそこまで頭下げられちゃ怒るに怒れないよな⁉」
「あ?あぁ‼日向子ちゃんは悪くないさ‼」
さっきまで激昂していた観客達が何故か許し始めた
日向子のお辞儀で強調された「胸の谷間」に釘付けとなった観客達は思わず許してしまったのである
「…全く…現金と言うかエロオヤジと言うか…」
リースを始め会場にいた女性陣は男達の鼻の下を見て呆れている
こうして別の意味で「伝説」となったエレモス国武闘大会は何とも言えない尻すぼみ状態で幕を閉じたのであった




