45 3位と5位決定戦
ー翌日ー
昨日日向子によって破壊された客席も大工達の徹夜作業で何とか修復が完了し大会は一時間遅れで開催された
「それでは5位決定戦を行う。鋼鉄の騎士マール、白銀の麗人リース、前に‼」
ワァァァァッ‼
マールとリース、二人は静かに対峙する
「では始めっ!」
「フッ…俺が5位決定戦とはな…世界は広いな。」
「私も今回上には上がいるって事を身に染みて分かりましたよ」
「お互いまだまだ、と言う事だな」
「はい。でもこの試合、手を抜く事はしませんよ?」
リースは双剣を構え間を詰める
「俺もだ。」
マールも最初から蛇腹剣の拘束を解いて鞭の様にしならせる
ジャラララ…ガッ‼キィン‼
蛇腹剣の不規則な軌道にリースは距離を取らざるを得なくなり二歩程後退する
(このままでは距離は詰められそうもないわ…)
目の前でうねる様に動く蛇腹剣の軌道をリースは離れて観察する
「…今までこの剣の弱点を克服する為に様々な工夫をしてきたが所詮邪道だったな」
マールはそう言うと蛇腹剣を元に戻し拘束を掛ける
「!?」
「このままでは更なる高見には行けぬ、と言う事だ。さあ、お互い死力を尽くして戦おうではないか!」
マールは剣と剣、力と力で戦おうとリースに言ったのだ
「では…参ります‼」
ダッ‼シャッ!キキィーン‼
「おい、何か凄ぇぞ?」
「あんなデカイ剣をよく正面で受けてるな…」
リースはマールの剣を双剣をクロスさせて受けているが蛇腹剣は刃の形状がノコギリの様にギザギザで受ける度にダメージが大きい
本来なら可能な限り避けてカウンターを狙うのがベストだが敢えてリースはそれを行わなかった
ガッ‼ガリッ…パキンッ‼
とうとうリースの剣が剣撃に耐えられず折れてしまう
「お、おい‼どうすんだよアレ…」
観客も固唾を飲んで見守る
「…やはり折れてしまったわ…でもここからです‼」
リースは折れた剣を逆手に持ちかえ今までとは違う構えをする
「刃折れても尚挑む者、か。正に我らの目指す道だな」
「ええ、私はこの試合に勝ち先に進みます‼」
「では行くぞ‼」
マールは肩口に剣を構え踏み込んでから全力の袈裟斬りをリースに放つ
リースはこれを左手の剣で籠手受けし力を横に流す
しかし圧倒的な膂力の違いで左に体の軸がブレそうになるのを堪えその力を回る力に転じた
…ピタリ
二人は突如動きを止めた
リースの左手の剣がマールの溝尾の手前で寸止めされていたのだ
「…参った」
「勝者リース‼」
ウォォォォォッ‼
観客席は一瞬静寂に包まれたが審判の判定を聞いて割れんばかりの歓声をあげた
「大丈夫か?リース殿」
マールはリースの左腕を気遣う
決め手に見えた左手の剣は折れた左腕では支えきれず地面に落ちている
「折れていたのを知っていたんですね…では何故?」
「フッ…それが分からぬ俺ではない。
君が右手の剣を使うのが先か躱された俺の剣を引いてから攻撃に移るのが先か、
火を見るより明らかだろう?」
リースとマールはお互いの健闘を称え笑いあった
会場を降り控え室に戻るとゴメリがリースを待っていた
「隊長…私は…私の闘いはどうでしたでしょうか?」
「うむ、見事だったぞ」
ゴメリはリースを素直に称賛した
「…うぐっ…ひっく…隊長~っ‼」
緊張の糸が解れたのかリースは大粒の涙をボロボロと溢しながらゴメリの胸に飛び込んだ
「流石は俺の右腕だった隊員だ、あの状況で更に踏み込んで剣撃を受けるとは並大抵の胆力では出来ないぞ?」
ゴメリはリースの頭をポンポンと叩きあやすように宥める
ゴメスの策略により軍を辞し更に暗殺されかかったゴメリ、権力に抗い虐げられ更に刺客を送られたリース、
二人の苦しかった時は今漸く終わったのだった
一方会場では3位決定戦のアナウンスが進行役により行われていた
「先日の騒動で罪人ゴメスは投獄され事実上の棄権と見なす。よって3位決定戦は武術師チェンの不戦勝とする‼」
観客席はどよめくが順当な事だと納得し惜しみ無い拍手をする
「尚5位になった白銀の麗人リースはゴメスの棄権を以て第4位となる」
ワァァァァッ‼
先程の激闘で感激した観客はリースの順位繰り上げにも拍手を送る
「明日は決勝戦、居合いのエモンと日向子の闘いを予定しております。皆様のご来場をお待ちしております」
進行役の宣言により本日の試合は終了した
ー護衛兵兵舎ー
「「「「カンパーイ‼」」」」
今日はゴメスの一件の解決とリースの健闘、そして死んだと思われたゴメリの復活劇を祝してパーティーが行われた
「リース隊長、飲んで大丈夫なんですか?」
シジルは激闘を制し満身創痍だったリースを気遣う
「大丈夫だ、隊長から貰った薬でもう何ともない」
「え?そんな…?折れていたのに?」
「ウシャ爺特製の飲み薬と軟膏だ、体が真っ二つになったゴメスも今牢獄で元気になってるぞ」
ゴメリはシジルの心配を笑い飛ばすがシジルを始め隊員達もどうも納得がいっていない
「そうだろうな、これは目で見てみないと信じられんだろう」
ゴメリは皆の前にウシャ爺特製の飲み薬と軟膏を置く
「…これって万能薬なんですか?」
「ああ、どうやらその様だ。原理はさっぱり分からんがな…」
持ち込んだゴメリにすら謎の効果を持つウシャ爺特製薬は「蘇りの秘薬」として高値で売買される様になったのだった




