42 大会の行方
「それでは続いて準決勝第1試合を行う。居合いのエモン、戦鎚の覇者ゴメス」
「エモンー!ゴメスなんかに負けんなよー!」
「…ふっ、観客共め…まさかエモンが私の策略に掛かっているとは夢にも思うまい」
ゴメスはほくそ笑む
前の2戦は大会実行委員に圧力をかけて自分優位の組み合わせに変更させた
だが準決勝ともなるとそうはいかない、それぞれ勝ち抜いて来た猛者達だ。
そこでゴメスは金と権力を以てエモンを脅したのだ
《もし言う事を聞かねばお前の家族ごと不幸になるぞ?この金で楽しく暮らした方が良いだろ?》
ゴメスの取り巻きはエモンの身辺を洗い彼の家族構成を調べ上げた
病弱で常に床に臥せっている妹
これがエモンの弱点だった
金にモノを言わせ治療費の保証と当座遊んで暮らせる金を握らせる
従わなかったら無実の罪で妹もろとも捕縛し投獄するぞ、と脅す
《…分かった。その話、受けよう…》
エモンの答えを聞いて歪んだ笑みを見せるゴメス
。。。
これが試合前に行われた卑劣な取り引きだった
「では始めっ!」
ゴメスは悠然とした構えでエモンを待ち受ける
どうせ手加減して掛かって来るのだ、その油断に乗じて殺してしまえば口封じにもなる
ーゴソゴソ…ドサッー
「ん?何をしている?」
「お前の悪巧みには乗らん。この金は返すぞ‼」
審判が何かを床に叩き付けたエモンに注意する
「エモン‼それは何だ⁉」
「これはゴメスに受け取った八百長の報酬だ!主催者の中にもゴメスの息が掛かってる人間がいるぞ!」
「な、何を言うのだ!」
ザワザワザワザワ…
エモンの突然の告白に会場はどよめきに包まれる
「やっぱりか、どうも対戦相手がゴメスの都合の良い組み合わせばかりだと思ってたんだよな」
「イカサマなら賭け金返せ!」
「主催者が加担してたんじゃ八百長も良いとこじゃねーか!」
観客が壁を乗り越えあわや暴動が起きそうになったその刹那エモンが叫ぶ
「皆待ってくれ‼確かにこのゴメスは数々の策略で様々な悪事を働いた‼
だがこうして露見した以上これからは嘘偽りのない純粋な試合となる。だから最後までやらせてくれ!」
暴徒化しかけた観客達もエモンの叫びに我に返る
「俺は…俺にはこの試合に勝って金が必要なのだ!病床の妹を助ける為に!」
ーシーン…ー
「…分かったぁ‼負けんなよ‼」
「勝って妹さんを助けてやれよ‼」
観客は席に戻りエモンを応援しだした
「ぐぬぬ…俺の提案をはね除けただけでなく観衆の面前で恥をかかせるとは…」
「お前の不正など先刻承知だったのだ‼日向子殿によってな!」
「な、何だと?」
そう、日向子はゴメスの悪辣さを鑑みて次の一手を打っていたのだ
緒戦も2戦目も組み合わせを変える事で優位に運べるだろうが上に行けば勝ち上がってきた選手と戦わざるを得ない
その上で優位に立とうとすれば脅すか金の力で相手を屈服させる筈だと日向子は読んだのだ
事実ゴメスはエモンを脅し金を握らせて勝利を確約させた
日向子は事前にエモンにその予想を話し「ある取り引き」をした
《私は自分の会社の宣伝が出来て目的は果たせたから優勝したとしてもお金は貴方の妹さんの治療費に使って
それよりも今は不正を正しゴメスを追い落とす事が先決なの。協力して‼》
エモンとしても正々堂々と勝利し、賞金を得ようとしていたのだ。
不正が明るみに出て大会自体が消滅してしまえば賞金など夢と消えてしまうのだ
「おい、試合が終わり次第ゴメスを拘束するぞ‼」
会場の全ての入り口に護衛兵の憲兵が守備体勢にて立ち塞がる
「ふふ……ふはははっ!どうしてこうなった?そもそも証拠もないのに何故俺が拘束されねばならんのだっ!」
「…証拠ならここにある」
…ドサッ
「ゴ、、ゴメリ⁉…貴様何故生きて…ヒューイではないか‼」
「貴様が刺客を雇い俺とリースを殺害しようとした事はヒューイが自白した。観念するんだな」
「ば、馬鹿な⁉ドン底から救ってやり世話までしてやってのに口を割る筈が。。。はっ⁉」
「語るに落ちたな、ゴメス」
「更にこの人達もね。」
日向子は縛り上げたゴメス子飼いの部下を5人担ぎ上げてその場に落とした
「「「ぎゃっ⁉」」」
「この人達、余程貴方に虐げられてたのねぇ、直ぐに今までの悪事を話してくれたわ。憲兵の前でね」
「く、くそぉっ!貴様達まで裏切るのか⁉この俺を‼親衛隊隊長にして次期宰相候補のこの俺を‼」
「残念ながらそれはないぞ?」
「お、王様‼」
ゴメスの悪態を否定する様にエレモス国王が憲兵を伴って現れた
ザザッ…‼
その場にいた親衛隊、護衛兵、憲兵達が全員王に跪く
「皆面を上げよ。」
「お、王様‼これは何かの間違いです‼」
ゴメスは往生際悪く王に身の潔白を訴え出る
「そちの悪事は全て露見しておる。加担した者共、そしてお主の父ゴンザも更迭しておるぞ」
「な。。。何だとぉ⁉」
「ゴメス!王に対して無礼は態度は極刑に値するぞ‼」
「良い良い。それよりもこの場を収めるのが先決だ」
王様は観衆達に静まる様、兵に命じた




