40(幕間)ヒューイの憂鬱
…ピチョン…ピチョン…
「…うっ…ここは…」
ヒューイは顔に落ちる水滴で目を覚ました
「あぁ、そうだったな…ここは護衛兵舎の牢屋だった」
護衛兵達による連日の詰問、拷問にヒューイの感覚は麻痺していた
「…それにしても嫌な夢だった…あの日の悔しさをまた味わう事になるとはな…」
ゴメリに恥辱を味わわされたあの日、あの日がなければヒューイは国を捨てる事もテイマーに身を貶める事もなかったのだ…
~今から7年前~
ガッチャガッチャガッチャ
「ははっ‼今日の魔物は手応えがなかったな‼」
「そんな事が言えるのはヒューイ分隊長だけですよ」
護衛兵の兵舎に騒がしい甲冑の音を響かせて男達が帰還する
ーバターンッ‼ー
「ゴメリ隊長‼南の森に発生した魔物20数体、ヒューイ率いる風の団が討伐致しました‼」
「うむ、ご苦労。暫くゆっくりと休むが良い。」
「お言葉ですが私全く疲れておりません‼このまま引き続き警戒任務にお回し下さい‼」
「…お前は大丈夫でも部下は疲れておるだろう?休ませてやれ」
「…はっ。」
ヒューイは隊長であるゴメリの力量を尊敬はしていたが護衛兵の運用に関しては思う所があった
「チッ…いつまでも手緩い事を言ってるから親衛隊達にナメられるんだよ」
「分隊長…そんな大声でぶっちゃけないで下さいよ…」
「はっ‼聞かれて困る事なぞないさ‼兵は戦ってこそ兵なのだ、それをやれ休めだのやれ退けだのとゴチャゴチャと…」
「でも分隊長、ゴメリ隊長が着任してから兵の消耗は激減しましたよ?ある意味成功し…」
バキッ‼…ドサッ
「…お前は誰の配下だ‼」
「ヒュ、ヒューイ分隊長の配下です‼」
「なら余計な色気を出さずに直属の上司に従っていろ‼」
「は、はっ‼」
当時のヒューイは己の力を過信し、また慢心していた
。。。
「おい‼また分隊長とゴメリ隊長が言い合っているぜ⁉」
「かぁ~、またかよ?ヒューイ分隊長もしつこいねぇ…」
「隊長!そのお考えが甘いと言っているのです!兵は駒、長の命令を聞いて動けば良いだけです‼」
「それはある意味正解だ。だが自分で考えて動く事を抑制すればそれは只の木偶人形なのだよ。
お前は先程長の命令を聞いて云々と言っていたが現にお前が長の命令を聞いていないじゃないか?」
「…ぐっ…しかし…」
「兵とて人間、疲れもすれば怯えもする。長となる者はそれらを汲んでやらなければ人心を得られぬぞ?」
「…クソッ!てめぇはいつもそうだ!表に出ろ!力でねじ伏せてどっちが上か分からせてやるっ‼」
「…貴様の発言は軍紀違反だ。今は見逃してやるから大人しく戻れ。」
「うるせえっ‼この及び腰野郎!」
「…仕方あるまい。その誘いに乗ってやる」
ー護衛兵舎鍛練場ー
「おい‼分隊長と隊長が決闘だってよ⁉」
「マジか⁉とうとう隊長がキレたか?」
ゴメリとヒューイの周りには護衛兵達で人集りが出来る
「ここで俺に負けたら立つ瀬がねぇぜ?えぇっ⁉隊長さんよぉ‼」
「…ゴチャゴチャ言わず掛かって来い」
「くっ、その余裕こいてる様が気に食わねぇんだよ‼」
ヒューイが抜刀する
ゴメリは脇に置いてある修練用の木刀を抜き構える
「チッ‼余裕かましやがって‼負けた時の言い訳か?」
「野良犬を躾けるのに刃物はいらん、掛かって来い」
「クソッ‼途中で泣き入れんなよ‼おりゃあっ‼」
。。。
「…く、くそ⁉何故隙がねぇんだ…」
ゴメリに打ち込んでから十数分、ヒューイはしこたま打たれて地面に突っ伏していた
「…分からぬか?ただ掛かっていくだけなら犬にも出来る。人は考えて行動してこそ人なのだ」
「畜生…畜生…」
「これで終わりだ。救護室に行って手当てをして貰え」
ゴメリはそういうとヒューイに背を向ける
「ナメんじゃねぇ~っ‼」
ヒューイはゴメリの背後から斬りかかった
ードシッ‼ー…ドサリ…
「誰かヒューイを救護室に運んでやれ‼」
「はっ‼」
。。。
「…ここは?痛ててて…」
「救護室ですよ、分隊長。隊長が運んでやれって」
「クソッ‼どこまでも俺を子供扱いしやがって…」
「分隊長、もうやめましょうよ。隊長は斬撃の悪魔って異名を持つ化け物ですよ?
それに正直隊長の言ってる事の方が正しいじゃないですか…」
「煩いっ‼黙れ黙れ黙れっ‼」
「このままだと分隊長の下に誰もいなくなっちまいますよ?」
「離れるなら離れればいいさ‼所詮その程度の奴等なのさ‼」
「…」
こうしてヒューイの人望は失われ数ヶ月後、魔物の襲撃を偽装して人民の財産を簒奪し軍から追われる事になる
乞食に身を落としていたヒューイをゴメスが拾いテイマーとしての人生を与えられる迄辛酸を舐めたのだ
。。。
「アハハ…今考えると酷ぇ逆恨みだが…俺は恩義だけは忘れねぇ‼あの人を守る為ならこの程度の責め苦など大事ないわっ‼」
薄暗い牢屋の中でヒューイの力なき声だけが響いていた




