376 見知らぬ世界
「…もう既に私が知っている世界ではないのね…」
哀しい顔でモニターの画面を眺めている日向子
カズヤが監視用に放っていたビットを利用させて貰い北半球で日向子に縁のある場所を確認していた
日向子がゴメリと出会い住んでいたピレネー村があった場所はいつの間にか森に侵食され木々に埋め尽くされ
ドルネ商会があったマンライも戦争でもあったのだろう、荒廃していて既に土地ごと捨てられている感じだ
コロンの両親がいたサザンスも昔は漁師町という印象が強かったが今では貿易港としてすっかり姿を変えていた
哀しげに変貌してしまった縁の土地土地を眺める日向子にキメとシルグは労りの言葉をかける
それで少し持ち直した日向子は地殻的に脆い部分を見つけては「見えない楔」を打ち付けていく
この楔は更に次元の狭間に落ちない様にする為のアンカー役でもあり現在の場所から北半球を安定した空間に引き戻す為の牽引フックの役割も果たす予定だ
楔を打ち込む作業をしている間、デバちゃんとキメに頼んで生存者…というか現在も存命中の既知の存在を捜索して貰った
《…まぁ当然だがラルド殿とオーシュ殿は健在、後はバンパイア族に見知った者が数名…と言った所だった》
「そっか、仕方ないよね…」
次元の狭間に落ち時の流れが変わってしまった北半球
長寿の魔物であれば…と僅かな望みを持って捜索して貰ったが数百年という時間はその可能性も削っていた
かと言って日向子の救いたいという気持ちは翳る事はなかった
嘗ての知り合い、仲間達の子孫の未来を守る為に全力でこの北半球を救うのだ!と決意を新たにしていた
。。。
2日後、シルグが四竜の仲間であるラルドとオーシュを連れてドラコニア城に戻って来た
2人の後ろにはバンパイア族でも色々と日向子達に尽力してくれた元老院のメンバー達等がちらほら見え隠れしている
『…シルグに話は聞いた。まさか世界が半分次元の狭間に囚われていたとはな…』
事情を聞いたラルドはよもやの事態に嘆息する
『既に起きてしまった事象を嘆いていても埓があかん。日向子が呼んだ理由はそれではないのだろう?』
オーシュは日向子が何故此処に既知の者達を集めさせたのか、理解している様子だった
「うん…今から皆に話すね」
日向子達はワイトを含めた全ての魔物達に城の大広間に集まって貰い今後の北半球の行く末について説明した
『…なるほど…元通り、とはいかないのか…』
日向子の説明を聞いて口を開いたのはドラゴンキングダムの王、ワイトだった
〈あの…始祖様やラクル様はご健勝なのでしょうか?〉
おずおずと言った感じで訊ねて来たのは元老院最長老にして南半球に出向いているピエールの息子ドノバンだった
「うん。こっちでは数百年経ってるけど南半球は皆と別れてから数年しか経ってないしね
識者の皆も…ピエールさんも元気に残存しているドラールとアースベイカーの兵器を調べているわよ」
〈そうですか…良かった…本当に良かった…〉
ドノバンは四竜達に断りを入れて始祖達がいなくなった後のバンパイア族の「その後」を話し始めた
始祖とラクルという強力な指導者をいっぺんに失ったバンパイア族は急速に力を落としそれにつけこんだ周辺国が侵攻を開始
百年という戦乱でお互い相当の被害を受けて国が荒れ人族の国も幾つか滅んでしまったそうだ
現在この不毛な戦いは双方の弱体化に伴い形だけの休戦協定が結ばれているらしい
〈…主を欠いた我々は不甲斐なくも始祖様とラクル様が護っていた領地を侵され…あわす顔もございません…〉
「そんな…ピエールさん達だってきっと全力で守って来たのに…」
日向子の態度はピエール達バンパイア族の面々には今までの苦労を労われた様に感じられ…気づけば全員嗚咽を漏らしていた
「とにかく…ピエールさん達は立派に領地を守って来たんです、自分自身を卑下する必要はないですよ!」
日向子はピエール達を優しく労っていたのであった
。。。
バンパイア族が落ち着きを取り戻してから話し始めた内容はある意味今まで話されたどんな話よりも重かったかも知れない
『…今生の別れ、になると?』
「はい」
日向子はハッキリと首是した
分離してしまった大地を再び元の姿に戻す事は神でも出来ない
いや、やって出来ない訳ではないのだが既に分離してその状態で安定してしまっている2つの半球を再び繋げると下手をするとその余波で対消滅を起こしかねない
ならば…北半球と南半球、お互い独立したままで安定化させられれば現在大した影響が出ていない南半球を巻き添えにする事なく存在させる事が可能である
日向子がこう話すとラルド達は難しい顔で考えこみピエール達は明らかに落胆していた
バンパイア族達にしてみれば既に失ってしまった強者達が戻って来さえすれば現状など一瞬で盛り返す事が可能なのだ
起死回生どころか再び元の強大な一族への返り咲きも可能な両目名の存在への期待は日向子の一言で呆気なく散ってしまったのだ
〈そんな…〉
日向子はそんな雰囲気を全て俯瞰で眺めていた
力になれる部分に於いては死力を尽くす覚悟ではあるが神とて万能ではないのだ
暫くの沈黙が流れた後、最初に口を開いたのは日向子だった
「…出来るかどうかは分かりませんが…始祖さんとラクルさんにこの現状を相談して何とか打開出来る案を模索して貰ってきます!」
そう言うと日向子は皆の前から姿を消した
数分後、再び現れた日向子の隣には。。。
〈ふむ、情けない顔をするな、ピエールよ。余がお主達を導いてやろう〉
〈っ!。。。始祖様。。。〉




