373 北半球を救え part4
…スッ…
日向子達は暫くぶりに北半球の大地を踏み締めた
場所は恐らくゴルド領、日向子達が領主として管轄していた場所付近である
日向子の能力では補完出来ない情報量は使徒であるデバちゃんと知識の渦をクラウドでリンクする事で飛躍的に保持・管理が可能になっている
「…まるで知らない街ね…」
日向子達が救い、興したゴルドの街は既に変貌を遂げ過ぎて日向子の見知らぬ街となっていた
日向子は偶然通りがかった男性に声を掛けてみる
「あの、」「ん?なんだい?」
「えっと…ウシャ…じゃなくて製薬会社とかあったと思うんですけど」
「あぁ、あの会社はとっくに潰れたよ」
「潰れた!?…んですか?」
「ああ、初代が大きくして一時凄い羽振りが良かったんだがなぁ…弟子だか子供だかがとんでもない薬害事件起こして賠償に金がかかって…お嬢ちゃんあの会社の関係者かい?」
「いえ…じゃあ神獣運輸って会社は…?」
「ああ、そっちはほれ、あそこだ」
男性が指差す先を見ると大きな建物が見える
「あそこは社長がいなくなって一時とんでもなく業績が落ち込んだらしいんだがな、当時の社員達が頑張ったお陰で今じゃ王家お抱えの運送会社になってるよ」
「そう…ですか。ありがとうございました!」
「ああ、気をつけてな」
男性と別れ3人は神獣運輸の建物へと歩いていく
《…主、神獣達も数百年となると多分…》
「ん…分かってる。分かってはいるけど…行ってみたいの」
《そうか》
日向子は重い足取りで神獣運輸の建物に近づいた
玄関先には創設者である日向子の碑が建てられていた
「…皆こんな風に私の事を…」
碑文には創立メンバー達の日向子に対する思いや願いが書かれその下に彼女達の功績がしたためられている
《ほら、》
キメが差し出したハンカチで日向子は自分の顔に涙が伝っているのに気付く
任せきりのまま姿を消した形となってしまった懺悔の念が涙となっていつまでも溢れ出していた
。。。
日向子達は神獣運輸の建物の裏へと回ってみる
ソコには厩舎があり神獣運輸で使役されている神獣達が飼われている様子だった
…!!??ブルルッ!!!
「あ…えっ!?」
厩舎の端の方、一頭のスレイプニルがヨロヨロと立ち上がり日向子達に興奮している
「ニル…ちゃん?」
ヒヒーーンッ!
「ニルちゃん!」
数百年の時を経て出会えたスレイプニルのニルは年老いて現役の神獣達とは別の厩舎に入ってはいたが日向子の姿を見て興奮して嘶いている
「だ、誰だっ!」
日向子達がニルの近くに行こうとすると1人の男性が厩舎の陰から躍り出て来た
ガタガタと震える手には鍬が握られている
「…驚かせてごめんなさい。私、ニルちゃ…ソコのスレイプニルとはお友達なんです」
日向子は一度ニルという呼び名を言って誤解を解こうとしたが…説明しても理解して貰えないと判断して少し言葉を濁した
「はっ!ニルの友達とか…そんなウソ誰が信じるものか!神獣泥棒だろ、お前ら!」
やはり信じては貰えない
震えながらも対峙しようとする男性が後退りしながらニルの檻に近づいた時
ニルはその男性が持っていた鍬をサッと咥えて明後日の方角に放り投げてしまった
「あっ!?こらっ!お前を守ってやろうと思ってたのに!」
ブルルッ、ヒヒンッ!
「…え?本当にお前の知り合い…なの?」
どうやらこの男性はテイマーとしての才能があるのか、ニルの言葉が理解出来る様だ
ニルの訴えに耳を傾ける男性。
暫くすると信じられない、と言った表情で日向子とニルを何度も見返している
「えっ!?この人があの日向子さんだって??…そんなバカな…」
誰だって信じられないだろう
創設者である日向子が今、数百年も経ってから姿を現したなどと
「混乱させてごめんなさい…少し事情があってね。やっと帰って来れたのよ」
「なっ!?…バカな?…じゃあ…本当に…?」
「えぇ。証明は出来ないけど…本当の事よ」
「ちょっ、ちょっと待て…しゃなくてお待ち下さい!」
男性は慌てて神獣運輸の建物に飛び込んでいく
。。。そして数分後、1人の女性を伴って再び日向子達の前に現れた
「…まさか…本当に日向子様ですか?」
「えぇ。驚かせてごめんなさいね」
「いえ!私はスリ曾曾曾祖母の子孫ヒルダと申します。ご先祖様から日向子様の特徴等が伝わっておりましたので…まさか本当に…」
日向子が突如消えた後の神獣運輸、残されたスタッフ達は日向子がいつ帰って来ても良い様に日向子の特徴や確認方法等を子孫に代々申し送りをしていた様だ
「ニルは退役してかなり経ちますが創設当時からいる彼が日向子様の事を見間違う筈はありません
…しかし…まさかこんなに時間が過ぎてからお姿を…」
驚きで言葉が詰まるヒルダ
日向子はヒルダになら今までの経緯などを打ち明けても良いのでは?と考えていた
「ヒルダさん、でしたっけ?」
「はい!」
「もし可能であれば創設メンバー達の子孫達を集めて貰えますか?お話したい事があります」
「あっ、分かりました!」
ヒルダは日向子の言葉に弾かれた様に建物内に駆け出していく
それを見て日向子はさっきから嘶いているニルに近付いて抱きしめる
「ニル…急にいなくなってゴメンね…」
…ヒヒン…
数百年ぶりの再会にお互い暫く抱き合ったままだった




