361 絶望と出会い
「な。。。何これ…?」
ドラールの兵器が暴走し、それが切欠となって巨大地震が発生した
その被害状況を確認しようと北半球へ転移した日向子の目の前にはかつて存在した大地はなくただ何もない虚空が広がっていた
「え?ど、どういう事?」
日向子の大切な仲間達も領土も国も人も動物も魔物も全て消え去っている事に日向子の理解が追い付かない
「えっ?えっ?ウソでしょ?」
日向子は翼を広げあちこち探し始めたが虚空には日向子の見知ったモノは一切残されていなかった
「あ…あぁぁぁぁぁ…っ‼」
現実を少しずつ理解し始めた日向子の口からは激しい感情のぶつかり合いが叫びとなって出始める
「あぁぁぁぁぁっ‼ウソ!ウソ!」
現実を受け止めたくない、これは現実ではない!その錯乱が更に深みを増して日向子を混乱の坩堝に落とし込んでいく
「…ゴメリさん…テロンちゃん…ニルちゃん…皆…」
戻ればいつも日向子を出迎えてくれた仲間達は跡形もなく消え失せている事実…
絶望的な光景に日向子の心は張り裂けてしまった
虚空で何も考えられずただ漂っているとソレは突然現れた
「…警告が遅すぎた様だな…」
「だ、誰っ!?」
日向子の察知能力でも捉えきれなかったその声の主は突然日向子の前に現れた様でソコにずっと存在していた様にも感じる
「あ、ごめんな。俺はカズヤ、君と同じ転生者であり元ゾンビさ。今はどういう訳か多次元世界の神様とかやってるよ」
「…」
もう意味が分からない
この人は神様なの?
でも転生者で元ゾンビとか言ってるし…と言うか私が元ゾンビだったのを何故知っているの?
多次元って何?分からない…
予想外の出来事の大渋滞に混乱する日向子を見て目の前の自称神様は頭をポリポリと掻いている
「混乱しちゃうよね?やっぱり…とにかく順を追って説明するから先ずは落ち着こうか?」
そう言うとカズヤは寛げるソファーとテーブル、ティーセット等を具現化して座る様に勧めた
「まぁ座ってお茶でも飲んでよ」
「…はい…」
おずおずと座り勧められるがままにティーカップに口をつける日向子
「…美味しい…」
「でしょ?良かったぁ~」
本当に久しぶりに味わうミルクティーは適度な甘さを口一杯に広げつつ気持ちを落ち着かせてくれた
「じゃあ…先ずは何処から話そうか?」
自称神&元ゾンビのカズヤという男性は語り聞かせる様にゆっくりと説明を始めたのだった
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「…と言う訳。」
カズヤの話は前世だったら荒唐無稽過ぎてドン引きしていた内容だったがゾンビとして転生して今までを生きて来た日向子には決してあり得ない話ではなかった
ーカズヤ曰くー
カズヤ自身ゾンビとして異世界に突如転生させられた1人だった
色々足掻いたりする間に出会いと別れがあり具現化魔法によりついに神に至る
最初に転生した世界やその他の世界を統べる神に昇格して気付いたのは意図的に召喚されず次元の狭間に「落ちた」地球人の多さだった
彼らは地球で「死んで」狭間に落ちる
その為に転生したとしても死んだまま異世界に飛ばされ殆どは誰にも気付かれる事なく魔物等に喰われてしまっていたそうだ
カズヤの場合は現在彼の奥さんであるリリスに見守られ無事神格を得たが大抵はゾンビとして転生し、次第に自我を失っていき滅してしまう
それを何とかしようとカズヤは考えた
彼の編み出した監視システム「ビット」により世界は常に監視下に置かれもし日向子と同じ様な境遇で転生した場合はそれとなくサポートを入れる
そんな事を繰り返して数千年、理由は分からないが狭間に落ちる転生者の数が減少していったそうだ
「日向子ちゃんはここ数百年で久々の狭間転生者だね」
「え?そうだったんだ…」
狭間に落ちる転生者が途絶えて暫くの時間が過ぎ、久々にアラートが鳴った為出向いたら日向子が転生していたらしい
「僕が転生して一番困ったのは先ずは言葉だったからね、最初から言語理解のスキルを付与して…後は動きがゾンビになるから肉体を活性化させて一般人とそう変わりなくしておいたよ」
思い起こしてみれば怪我はしていたものの最初からゴメリさんと話したり違和感なく受け入れられたのはカズヤの付与等があったお陰らしい
「あ、それと最初魔力を持ってなさそうだったから後付けで色々追加出来る様にしたかな?」
キマイラであるキメとの出会い、バンパイアや竜達との出会いもある程度はカズヤの手によって必然的に会える様に操作されていたようだ
「でもねぇ…あの魔導具は触れたらアウトなヤツだったんだよ」
「もしかして…ドラールの兵器にあった魔導核ですか?」
「うん、あれは魔法の中でも外道中の外道、禁忌に指定されてて暴走すると僕でも制御が難しい危険な道具なんだよ」
それを聞いて日向子は消えてしまった北半球とソコに住んでいた仲間達、人々の行方を訊ねる事にした
「あの…」
「あぁ、それはね…僕でも正直分からないんだけど…予測を挟んで良いならある程度は説明出来ると思うよ?」
カズヤは日向子が聞きたかった事を察してくれたようだ
「今現在消失してしまったこの星の半分は恐らく次元の狭間に飛んでしまっていると思う
あの魔導核が持つエネルギーは大した事はないんだけどこの星は以前の大戦で北半球と南半球が地殻ごと分離してたでしょ?
その影響なのかあんな魔導核が誘爆するだけで星としての引力から半分逸脱しちゃったんだよ」
「じゃあ…」
「本来なら半分が消失してる訳だからね、もう半分も引きずられる様に次元の狭間に消失する筈だったんだけど元々半分に割けてたのが良かったのかな?
半分を残したまま安定しちゃったんだよね、多分」
カズヤは首を傾げながら予測を話してくれた
「神様…」
「カズヤで良いよ」
「じゃあ…カズヤさんなら北半球を元に戻せますか?」
日向子の切実な願いをカズヤは真摯に受け止め言葉を紡ぎだしたのだった




