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ゾンビーナ!  作者: とれさん
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358 疑念


〈…ふむ、その声は日向子と呼んだのだな?〉


一通り日向子の話を聞いた始祖は片肘をついて思案顔になる


「ええ、聞いた覚えがない男の人の声で「手を出すな」とも言っていたわ」


2人が考察しているのは日向子がドラールの兵器にアクセスした時に聞こえた謎の声の主である


〈少なくともドラールの兵器に対して何らかの警告を与える為に語りかけたのであろうが…何故干渉してきたのか動機も分からぬな〉


手を出すな、とはドラール王国の兵器をこれ以上調べさせない為の言葉なのか他の事案に対してのモノなのか、ヒントが無さすぎる


「…とにかくドラールの兵器を調査しようとして聞こえたんだからこれ以上の調査は後回しにした方が良いのかもね」


〈そうだな、念の為に後回しにして先ずはアースベイカー国の解析をしても差し支えあるまい〉


という事でドラール王国の遺物の調査は後回しにする事に決まったのだった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…すな…

…手を出すな…

…出せば世界のバランスが…

…俺は○×※△…この世界の…


。。。ハッ!?


急に飛び起きた日向子に番をしていたキメが驚いた


《…!?主、大丈夫か?》


「…えっ?…夢だったの?…驚かせてごめんね」


ここは日向子の為に用意された仮眠室


兵器回収で獅子奮迅の働きを見せた日向子に始祖やラクルが用意した部屋だ


キメは先刻の不思議な声に対する備えとして側で見張りをしていたのだ


「ねぇ、キメちゃん…キメちゃんはどう思う?」


日向子は謎の声の目的が分からずキメに訊いてみた


《う…ん…良く分からんが触れてはならぬモノに主が触れるのを警告している様に受け取れるな…》


「…なるほど、そうかも知れないわね…」


アースベイカーの兵器を調べる為に触手による侵食を行ってもそんな声は聞こえなかった

だがドラールの兵器、というか魔導核となっているあの魔物にアクセスしようとした途端あの声は警告を発して来たのだ


兵器自体に対する禁忌なのか?とも思うがそれならもっと前に既に何度か触手を使っている


「…やっぱりあの魔物がキーポイントね…」


赤い結晶内でコアとして生きているあの魔物、あれが恐らく誰かの禁忌に触れているのだろう、と日向子は推測した


(かと言って調べない訳にもいかないわ…どうしよう?)


日向子の思考は今後如何に禁忌に触れずに兵器を調査するか、に没頭していったのである


不思議な夢を見て目覚めてしまった日向子はキメと一緒に朝食をとるべく始祖達がいる倉庫へとやって来た


倉庫では始祖達の指示の下、識者達が24時間体制でアースベイカー、ドラール両国から回収した兵器を調べている


その一角に用意された仮設食堂に日向子達が現れると識者の1人が声をかけて来た


〈日向子様、キメ殿、本日のメニューはこちらでございます〉


手慣れた所作でメニューを渡して来たのはバンパイア族の識者の中でも食文化に精通した識者だった


「ありがと、ミハルさん」


日向子は手渡されたメニューをサッと一瞥して目を見張る


「あれっ?これって…」


日向子が驚いていたのはそのメニューの内容がどことなく日本食に近いモノだったからだ


「…魚の煮付け、しぐれ煮、魔物肉のジンジャー炒め…これなんかまるで生姜焼きじゃない」


〈はい、今回は西方で栄えた国の失われた調理法を復活させております〉


識者、というより料理人ミハルは寝る間を惜しんで働いている同僚達の為に過去に滅んでしまった国の調理法を復活させて楽しませていたのだ


「と言う事は既に滅んでしまった国なのね…何で滅んじゃったの?」


〈言い伝えによると度重なる地震の後、襲って来た津波に国ごと呑まれてしまったそうです〉


「そう…」


地震大国から転生してきた日向子は軽い既視感を覚えながらミハルの説明を聞いている


「えっと、私はこの魔物肉のジンジャー炒めを」


《俺はこのしぐれ煮?というのを頼む》


〈かしこまりました〉


ー数分後ー


〈お待たせ致しました~〉


「…うわぁ~、やっぱり生姜焼きじゃん♪」


日向子は目の前に置かれた皿を見て感動している


《む?このしぐれ煮というのは美味しいな》


キメは早速しぐれ煮に手をつけている


「この野菜の盛り付けといい肉の切り方と言い…やっぱりこれって日本の生姜焼きをそのまま再現してるわよね」


《モグモグ…主、食わないのか?》


「あ、うん。勿論食べるわよ?」


日向子は目の前に出された生姜焼きを食べる前に生前行っていた仕草を無意識にしている


「いただきまーす‼」


はむ…


「美味し~い‼」


豚肉と魔物肉の違いはあれど甘じょっぱいタレが絡んだ肉は生姜の風味のおかげか臭みもなく肉質も柔らかい


〈日向子様、如何ですか?〉


ミハルは夢中で食べている日向子に感想を聞く


「うん、懐かしいよ‼これって本当に滅亡した過去の国の料理なの?」


〈はい、これらの料理は全て古文書に記された西方の国の調理法によって再現してあります〉


「…もしかして…その滅亡した国って日本って言うんじゃないでしょうね?」


〈いえ、文字が掠れていて読み取ず国名は推測でしかないのですが恐らく「ジャングオ」という国だと思われますが…〉


「…そう…」


《モグモグ…?》


日向子の表情が翳ったのをキメが気付いて首を傾げる


「もしかしたら今の時代がとんでもない未来で本当は異世界でもなくて…とか思ったけど勘違いみたいね」


日向子は何となく安堵した表情になり残っていた生姜焼きを食べ進める


「ふぅ、ご馳走さま。とっても美味しかったわ」


〈それはどうもありがとうございます〉


《こんな美味しい食文化があった文明が滅びたとは勿体ない話だな》


「えぇ、本当に」


2人は日本食もどきに舌鼓をうち食後にキメに請われて生前の世界の料理話に花を咲かせたのだった

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