357 凶兆
3人と一機のみで進めた回収作業も早半年に差し掛かろうとしていた
今回の作業は南半球の諸国には秘匿したまま行わなければならなかったのでこれだけの時間が掛かってしまったのだ
とは言えたった3人(と一機)で南半球全てに展開している兵器達を処理・回収しているのにたった半年でほぼ成し遂げているのは異様としか言えないのだが。
「デバちゃん、此処にまとめて置いておくから後はよろしくー」
「ピポポ、らじゃ」
〈日向子、識者達の解析が停滞し始めたのでこれから会議を始めるぞ〉
「了~解、じゃああと少ししたら施設に戻るね」
〈頼む〉
アースベイカー製の兵器の回収時にはデバちゃんのユニット配置指令でバンパイア領にある研究施設へと移動出来ていたが
ドラール製の兵器の回収には日向子が直接出向いて回収する必要があった為
日向子の負担を考えて識者達がアースベイカーの地下軍事施設に派遣されて解析作業に当たっていた
北半球では既に廃れた魔力による兵器作成コンセプトは長寿種であるバンパイア識者達も古文書等を片手に推論を重ねて漸くというレベルなので暴走覚悟の解析作業は困難を極めていたのだった
会議とは識者達が行き詰まった部分を日向子が触手を使って調べそれを伝える作業と言っても過言ではない
日向子の場合兵器本体に触手によりアクセス可能なのだが理論や知識が伴わない為に上手く説明が出来ない
それをシンクタンクである識者達が聞いて最適解を出していくのだ
…スッ…
〈っ⁉おぉ、日向子様でしたか‼〉
識者達が集まっているアースベイカー地下軍事施設の片隅に転移で現れた日向子に識者の1人が驚きつつも出迎えた
「驚かせちゃってゴメンね?始祖さんに呼ばれたから来たんだけど…分からない部分があるんだって?」
〈はい…アースベイカー国の兵器についてはデバインシ…デ、デバ殿のご協力により情報開示が行われましたので順調に進んでいるのですがドラール王国側の兵器は生体(魔物)が使用されているので不可思議な部分が多く解析に手間取っているのです…〉
仮にも数千年を生きその中で様々な学問、研究を修めて来た識者達にとって「分からない」はある意味屈辱的なのだろう
日向子に事情を説明する最中も端々から悔しさを滲ませている
〈日向子様‼〉〈日向子殿‼〉
2人の会話を聞いて気付いた他の識者達も縋る様な目で日向子に声を掛ける
「あはは、じゃあ会議の前に少しアクセスしてみるわ」
識者達の懇願に近い声に負けて日向子は近くにあったドラール製兵器に近付き核となる魔物の結晶に手を伸ばした
指先から伸びるキマイラの触手が核にピトっと接触し日向子が目を閉じる
ナノ細胞が核の壁をすり抜け中にある魔物の内部に侵食していく
すると日向子の脳裏に魔物に与えられた指令がログとしてズラズラっと流れ出す
(うーん…これって兵器に搭載される時に与えられた命令よね?この魔物の自我みたいなのは初めからないのかしら?)
日向子は指令のログの海を更に深く潜り魔物自身の記憶や自我がないか調べる
…すな…
「えっ⁉」
…出すな…
…手を出すな…
…日向子…手を出すな…
魔物というより誰か人の声が聞こえた日向子は慌てて触手を引っ込めた
〈ひ、日向子様?〉
その様子を伺っていた識者達は何事かと日向子の身を案じた
〈日向子様?だ、大丈夫ですか?〉
「…えっ?あ…うん、大丈夫。心配させてゴメンね?」
側にいた識者が固まっている日向子に声を掛けると慌てて日向子が謝罪する
〈…何かあったのですか?〉
謝った後も核を見つめてボーッとしている日向子に識者が訊ねるがその言葉に日向子が改めて首を振る
「ううん、何でもない。さぁ始祖さんも待ってるだろうし会議を始めましょ?」
そう言うと日向子は識者達と共に施設の一角に設けられた会議室に向かって歩きだした
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〈…ではドラール製兵器に関してはもう少し時間が必要だと言う事だな?〉
先ほどの解析で何も答えが得られなかった事を受けて始祖はそう理解した
「うん。中の魔物に自我があるのか、それともただの器として存在しているのかももっと時間が必要だと判明したわ」
〈ふむ、では我々は先にアースベイカー製の兵器の解析に尽力し、その後ドラール製に着手しよう〉
基本コンセプトが相反する2つの国の兵器はデバインシステム(デバちゃん)がサポートしてくれるアースベイカー製兵器を優先して解析する事になった
《主、俺はデバちゃん殿と共に再び各地を回って兵器回収をするって事で良いか?》
「うん、お願い。私はここに残ってドラール製兵器の解析を続けてみるわ」
《分かった、無理はするなよ?》
「ありがと」
キメはデバちゃんと共に会議室を後にする
〈ラクルよ、お前もキメ達と共に回収作業に向かうが良い。日向子が抜けた穴を埋める為にもな〉
〈は、始祖様〉
始祖の後ろで控えていたラクルはキメ達の後を追って会議室から出て行った
〈では私達は再び解析作業に戻ります〉
ある程度の方向性を話して解散となった会議室には日向子と始祖が残っていた
〈…話してみよ〉
「えっ?」
始祖は思案顔の日向子に声をかけた
そもそもこの会議が始まる前から日向子の心はここに在らずといった感じだった
〈確か会議の前に侵入を試みたのであろう?それからおかしいとなれば侵入時に何か感じたからであろうが〉
頬杖をついて指でテーブルをトントンと叩く始祖の目は日向子の異変に気付かないとでも?と言わんばかりに日向子を真っ直ぐに見つめていた
「うん…実はね…」
日向子は先ほどあった事を始祖に語りはじめたのであった




