354 デバインシステムをハックせよ
識者達に誘われ日向子達は兵器を収用している部屋に戻って来た
〈現在兵器同士の相互送受信装置は解除されておりますので司令機が万が一暴走しても誘爆はしない様になっております〉
先頭を歩いていた識者が日向子達に説明する
〈日向子、これからあの司令機にどうやって取り掛かるのだ?〉
ラクルは日向子達が今から行う作業を聞いていないのでそれを訪ねた
「うん、分解は可能になったみたいだけどデータ…司令機の記憶を探るのに恐らくハックした方が早いと思うのよ」
〈ハック?とは何だ?〉
聞き慣れない言葉にラクルが首を傾げていると日向子はうーん、と悩みながら説明しだした
「えっと…私やキメちゃんはキマイラの能力で調べたい相手にナノ細胞を送り込んで情報を探ったり操ったり出来るのね」
〈あぁ、それは知っている〉
「それを機械でやるのよ」
〈…なるほど〉
ラクルは以前日向子やキメ達の行う事を目撃した事もあるのでその説明で十分納得が出来たが
側で説明を聞いていた識者達には一体何をするのかが全く伝わっていなかった
〈あの…それはどういう作業なのでしょうか?〉
識者達の恐る恐る伺う態度を見て日向子が諦めた
「ん!案ずるより生むが易し!百聞は一見にしかず!よ‼」
《〈〈〈!!??〉〉〉》
異世界に前世の諺など持ち出しても余計に混乱するだけなのだが日向子は一切お構いなしに司令機の前に対峙した
「これからこの司令機の記憶回路に潜り込むからキメちゃんは万が一の時の為にバックアップしてね」
《!?りょ、了解した!》
キメの返事を確認すると日向子は指先からキマイラ細胞で出来た触手を司令機の装甲の隙間に潜り込ませた
補足しておくとただ触手を司令機であるデバインシステムの中枢に這わせた所でハッキングは出来ない
キマイラ細胞は生体、デバインシステムはあくまでも機械
それを繋げるのは日向子が持つ前世の知識「機械と生体のニューロンを繋ぐシナプス」のイメージだ
勿論日向子自身全く興味がなかった分野なのでうろ覚えも甚だしい
看護師として興味を持ったのは義手を筋肉から出た電気信号で自在に動かす技術だがこれも専門外なので(凄いな)と思った程度である
だがこんな曖昧な記憶が逆に概念に囚われない新しい着想と結果を生み出す
日向子の出した触手のニューロンがデバインシステムのニューロンに難なく繋がり擬似的なシナプスがその接続を強固にする
アニメや映画でしか叶わなかった未知の接続が今実際に実現してしまったのだ
「あ。繋がった」
〈本当か(ですか)!?〉
まさか、と思っていたラクルや識者達は目を見開いてその衝撃を受け止める
蓄積された技術や知識を以て解析し、物理的接続を試してその情報を取得する
研究者達が苦心して手に入れるというプロセスを日向子は一気に吹っ飛ばしたのだ
〈そ、そんな…〉
〈あんな事が可能なのか?〉
識者達の動揺を余所に日向子は次々とデバインシステムの障壁を打ち破りコアへと侵入していく
この様子は識者達が接続しておいたモニターに刻々と表示されている
。。。ピー、ピー、ピー、ピー、
「未知ノ力ガメインシステムニ侵入。障壁システムヲ攻撃シテイマス。」
予備動力でスタンバイモードになっていたデバインが謎の侵入者に反応して再起動した
「対ハッキング障壁無効、秘匿領域への攻撃ヲ確認。自爆モードニ移行シマス」
アースベイカーの全ての兵器にアクセス権を持っているデバインは敵に拿捕された場合に備えて自爆機能を搭載している
ビービービービー‼
「自爆モード移行失敗。修復モードヲ使イ復元シマス」
「修復モード起動不可。ソノ他のシステムモ接続ヲ切断サレテイル模様」
「エラーエラーエラーエラー…」
デバインは今の状況が全く把握出来ずにパニックに陥る
自爆も許されず侵入も防げない現状で唯一出来る事はコアチップに蓄積されたあらゆるデータの消去しかなかった
「コアチップノ初期化ヲ選択。初期化後物理的破壊機構ヲ実行」
デバインシステムのコアチップには最終手段としてメインシステムから完全に独立した物理破壊機能が装備されている
チップを初期化しただけでは復元されてしまう可能性を否定出来ない為この物理破壊機能がデバインシステムの最後の砦なのだ
デバインシステムが機械的な自死を選択したその時、感覚的に感じる機能を搭載されていないデバインが初めて「甘い匂い」を感知した
「…こんにちは、えっと…聞こえてるよね?」
初めて知覚した「匂い」と共に聞こえて来た「言葉」にデバインは更に混乱をきたす
「否否否否否否…感知不能。」
既に認識の許容外に陥ったデバインの処理機能に再び声が届く
「安心して。もうあなたを作った創造主は既に滅んだわ…今のあなたは自由なの」
…一体コノ声ハ何ヲ言ッテイルノダ?我ノ創造主ガ既ニ滅ビタダト?
「否。創造主ハ絶対的存在デアル。依ッテ滅亡シタトイウ事実ハナイ。」
デバインは自らを創造した存在の絶対性を信じて疑わない
だからこそ未知の存在(日向子)の言葉に惑わされる事はあり得ないのだ
…ピポ?ピピピピピピピピ…
頑なに拒否をし続けたデバインの脳裏(?)に急に新たな情報が流れ込んで来た
それは敵国であるドラール王国の滅亡はおろか創造主であるアースベイカー国でさえも遥か昔に滅んでしまった、という事実だった
「ピポ⁉デハ我等ノ存在意義ハ…」
「大丈夫。私達があなたを生かすわ」
未知の声は彼の存在意義を否定せず生かすと告げている
「…貴方ハ…新タナ創造主カ?」
「えっ?」
暫しの沈黙の後未知の声はその事実を肯定した
それ以降全てのセキュリティを解放したデバインシステムは識者達の解析に身を委ねる事になったのであった




