353 オーパーツとしての兵器
日向子達は識者から目録の説明を聞いて唖然としていた
「じゃあ…この兵器達は技術云々よりも使われている素材や加工技術がずば抜けているって訳ね?」
〈そうです。確かに魔導核を利用した半永久機関や様々な術式が組み込まれておりますがそれらは失伝しているだけで調べていけば必ず我々でも再現は可能です
ですが…外核を構成している物質が全く未知の素材なのとこの素材をこう継ぎ目もなく加工する技術は恐らく再現不可能でしょう〉
そう言われて日向子は目の前に置かれていた兵器の表面に触れてみる
鉱物であれば冷ややかな感触が伝わってくる筈なのに逆にほんのりと暖かみを感じる
感触で近いのは加工された木材の様だが木材なら地中のマグマに突入した瞬間に蒸発してしまうだろう
言われて気付いたが表面には全く継ぎ目がなくどうやって繋がっているかすら分からない
これが恐らく識者達に不可能と言わしめた古のテクノロジーなのだろう
日向子の知識には溶接という方法もあるのでそれらしい痕を見つけようとしたがそもそも表面は塗装されていないためその案も即座に否定された
前世の技術水準を以てしても数千度を超えるマグマの中で活動可能な素材や構造は実現出来ていなかったのだ
「よくよく見るとやっぱり凄いわね…ところであの司令機は何処に保管されているの?」
〈あ、はい。再稼働されると困るので一旦動力源を切り離してあちらに〉
「ふーん…じゃあまだ再稼働はさせてない訳ね?」
〈ええ、何が起こるか分かりませんからね〉
確かに司令機が行動可能状態になって現況を把握すれば最悪捕獲された兵器全てを自爆させる判断をするかも知れない
「他の兵器達との連絡手段とかも判明していないのかしら?」
〈それは他の兵器の内部に送受信機能の様なモノを発見しておりますのでもう少し解析が進めば相互間の通信指令は遮断可能かと思われます〉
「そう、じゃあ先ずはその通信装置の解析と遮断を最優先でお願いします」
日向子達が考えている「手段」を用いても万が一の事態は避けたい
日向子達は識者達にそう伝えると話が済む迄ティータイムと洒落こんでいた始祖と共にラクルがいる謁見の間へと移動したのであった
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〈成る程、始祖様でも分かりませんか〉
ラクルは万を数える程生きていると言われている始祖の叡智にかの2国が使っていた技術があるかと思って訊ねたがあっさりと否定されてしまっていた
〈ラクルよ…余を何だと思っておるのだ?今迄の時を全て生きていたのであれば肉体は耐えられても精神が持たぬぞ?〉
言われてみれば始祖はバンパイアの祖となってからも何度か「瞑想」と称して表舞台から退いていたりしていた
最近だと元老院の裏切りで表面上の死を余儀なくされていたのだ
不老不死に加え不滅とも言える始祖の肉体は恐らく滅ぼすのは不可能だと考えるがそれに対して精神は些か貧弱だと考えている
〈お主も多くの友や家族の死を見送れば余の言った事も骨身に滲みるでたろうな〉
始祖はラクルの実父であるとは言え生きた時間は雲泥の差だ
「あれっ?そう言えばラクルさんって今何歳位なの?」
2人の会話を聞いていた日向子はふと以前から思っていた疑問をぶつけてみた
〈む?細かくは覚えていないが7百年程ではないか?〉
「な、7百って…」
〈何を驚く?始祖様は数万年と言われているぞ?〉
「…年の差婚にも程があるわね…」
ガックリと膝をつく日向子に驚いたラクルは慌てて安否を訊ねたがどうやら体調が悪い訳ではないらしい
その様子を見ていた始祖が気付かれぬ様にニマニマしていたのを日向子とラクルは見逃していたのだった
《主、そもそも年齢など我々の感覚では相当薄れているぞ》
日向子の気持ちを察したキメはやんわりとフォローを入れている
「…もしかしてキメちゃんも…」
《俺は…2百年位じゃなかったか?》
「年上とかお爺ちゃんとかそういうレベルじゃないじゃないの…」
ここで漸く日向子も長寿種と言われる生物の時間感覚が身に染みたのだ
「…あれっ?じゃあキメちゃんとシルちゃんの細胞貰った私も…」
《あぁ。恐らくと言うか確実に長命だろうな》
〈シルグ殿は四竜の1柱だからな、余と同じかそれ以上の長命と言う事だ。となれば日向子も万年…〉
「せっ、セクハラよーーーっ‼」
ビターーーンッ!
〈ゲフォアアアッッ!?〉
《〈始祖様(殿ぉ)ぁっ!〉》
レディの年齢を言及しようとした始祖は回避不能なビンタを右頬に食らってキリモミ状態で遥か彼方の壁にすっ飛んで激突していた
止めるどころか動作したのも見切れなかったラクルとキメはその場でただただ始祖の名を叫ぶ事しか出来なかったのであった
数時間後危うく不滅の肉体を滅せられそうになった始祖が本当の意味で復活を果たした時、
識者達の不休の努力によってアースベイカー国、ドラール王国双方の送受信機能を解読、遮断に成功したと報告があった
〈む。。。では参ろうか〉
始祖は立ち上がろうとしたがまだダメージが抜けきれていないのか足元がふらついている
〈し、始祖様!ここは私共にお任せ下さい!〉
慌てて駆け寄ろうとした識者が始祖に向かって悲痛な訴えを投げ掛ける
〈む…では頼もう〉
流石にこのまま向かっても話にならないと判断した始祖は再び椅子に腰を下ろして休む事にした様だ
固い決意を胸に日向子達を誘う識者達の影で当の本人は首を傾げている
「…ちょっと大袈裟?何だか私が悪いみたいじゃない…」
それを聞いていたラクルとキメは内心不用意発言をした始祖も悪いが何も全力でビンタする事はなかったのに…と思いため息をついた
だが全力には程遠かった為に本人にはこの思いが伝わる事はなかったのであった




