351 警告
スラストア城内に集められた貴族達は自分達の私欲を剥き出しにしドラールやアースベイカーから得られる未知の兵器を我が物にせんと否定の言葉を発したツヴァイ王やアーチ王を遠回しに非難していた
報告に関しては王2人に任せないと全く見知らぬ小娘が話した所で埒があかないと判断した日向子達が予想した筋書きになぞらえて敢えてアーチ王達にも下手に出て貰っていた
報告が終わり貴族達の独占欲が仮にも一国の王である2人を直接非難する迄に達したのを見計らっていよいよ日向子が口を開いたのである
これはアーチ王、ツヴァイ王、そしてアイン王にも事前に了解を得ての流れだった
流石に貴族達が2人はおろかアイン王にまで食って掛かるとは思ってもいなかったが
アイン王達にしてみればそこまで王政内部が腐敗しているという事実を突き付けられたに等しいのでこの段階で貴族達の大粛清はやむやし、という表情になっている
「そもそも貴様は何者なのだ!此処は中央スラストア共和国の王城であるぞ!」
「貴様如きに我々と対等の言葉を交わせる権限なぞ与えてはおらぬわ!」
報告会場となっている広間は先程迄アーチ王達を非難していた貴族達が口々に日向子に敵意を向けて大混乱の様相を呈して来た
「。。。ちょっと黙ったら?」
日向子の言葉にあれだけ荒れていた広間が一瞬で凍り付いた
日向子は言葉で威嚇した訳ではない。例えその手段を使っても身の程知らずな貴族達は罵る事を止めなかったであろう
日向子は言葉に合わせてバンパイアアイの能力と自身の威圧を併せて貴族達に放ったのだ
「う…ぐ…⁉」
「な、何を…?」
格下相手には雄弁な貴族達も生物の根幹である強者への恐怖心には抗う事は出来なかった
それまでアーチ王達の後ろに控えていた日向子は貴族達の狼狽ぶりを尻目にずい、と2人の前に進み出た
「勘違いして欲しくないんだけど私は貴方達と交渉をしに来た訳じゃないわ」
流石一国の王を担うアイン王達はそれでも何とか日向子からの威圧に耐え平静を保っている体を崩さなかったが
我欲に満ちた者達は日向子が発する威圧に平静を保てず立ち上がっていた者は椅子に崩れ落ちる様に腰を落とし座っていた者も身体を仰け反らせる様に硬直している
そんな中、日向子は淡々と言葉を続けた
「今回発見された数々の遺物は既に火口に投棄したわ。あれは私達が保持して良い技術じゃないのはかの国々が自滅してしまっていた事でも分かるでしょ?」
相変わらず威圧に抗えず言葉を発する事が出来ない貴族達は顔を歪ませて非難を表していたがそんな事は日向子はお構い無しだ
「…日向子殿、確かにあれらは要らぬ戦を生み出し民を、国々を滅するかも知れないが転用すれば民の豊かさを紡ぐ事も出来たのではないか?」
アイン王は敢えてこの言葉を投げ掛けた
それに対して日向子はその答えを皆にゆっくりと告げる
「えぇ、確かにそういう可能性もあるでしょう。でもドラール王国にせよアースベイカー国にせよ調べた所完成されていたのは殺戮兵器だけよ?
それを一般に転用するよりも軍事力として保持したくなるのはどの国々、貴族でも同じでしょ?」
日向子が言いたいのは軍事力として保持した場合、その技術は機密扱いになってしまいとても民間への転用など見込めない事なのだ
平和利用だ何だと言葉で取り繕っても結局取得してしまえば平和とは程遠い
「私達は北半球から来た異邦人です。だからこの南半球の素晴らしい統治には感嘆していました
それを過去の遺物でバランスを崩さない為にも投棄を決めたのです」
アイン王達は深く頷いて日向子に賛同の意を表した
だが解かれた威圧から立ち直った貴族達は息を吹き返した様に日向子に食って掛かろうとしている
「そなたは…余所者であるにも関わらず我々の権利に…」
「よせ!皆の者!」
アイン王は深く息を吸って再び口撃しようと息巻く貴族達を一喝した
「…我々は永き時を経て今の治世を得た。これを崩しかねん遺物を得たとして誰にその矛を向けるのだ?」
そう、この南半球に於いてスラストア共和国を頭として全ての国々は1つに纏まっているのだ
新たに軍事力を得た所で争う先もないこの治世にソレを望む者は極論すればこの治世を転覆させようとしている反逆者と言われても仕方がないのだ
我欲に目が眩み自身の利ばかり考えていた貴族達の主張は本来であれば反逆罪に問われても仕方ない事だった
なのに何故?
それは既にこの会場は日向子の掌の中で踊らされていたに過ぎないのだ
貴族達も少し冷静になって考えてみれば自分が何故こんな我欲を隠しもせずにいきり立ったのかが分からない
ふと我に返った貴族達はその動揺を笑う日向子に気付いて睨み付けた
「き、貴様!何かしたのであろう!」
「あはは、やっと気付いたの?この場にいる段階で「自制心」を取り除かせて貰ったわよ
アイン王様達は流石ね、我欲よりも民の事を第一に考えてるのが分かる素晴らしい王様達よね」
その言葉を聞いて貴族達は一斉に沈黙した
その後の話し合いはアイン王主導のまま進み遺物の件は日向子の責任に於いて放棄する事に決まった
暴言を吐いていた貴族達には特に罰が与えられた訳ではないが今後話し合いの場での発言権は失ったも同然なので却って罪に処された方が良かったのかも知れない
こうして終了した会議により今回の一件は幕を閉じたのであった




