35 ゴメリ死す⁉ part2
ーエレモス城護衛兵舎内霊安室ー
「うぅ…隊長ぉ~…」
シジルとリースはゴメリの遺体の前で号泣している
「畜生‼きっとゴメスの息が掛かった刺客だったんだ‼」
「…私がもっと注意をしていれば…」
二人の後悔の念は既に日が変わっているにも関わらず一向に静まる気配はない
「隊長…ゴメリさぁ~ん‼」
リースはゴメリの変わり果てた姿に縋りついて泣いた
ー…ポロ…ー
。。。「ぎゃああああっ⁉」
「リ、リース隊長‼幾ら何でも隊長の遺体の首をもぐなんて‼」
「ぁぁぁぁ~~~っ…ん?」
「えっ?あれっ?何?」
「…これ、作り物だわ…」
「えぇっ⁉一体誰がそんな真似を?」
二人はパニクって何が何だか分からなくなっている
ーギィィィ…ー
「…俺だ」
二人がドアを見ると死んだ筈のゴメリが立っていた
「⁉ひぃぃぃっ⁉」
「なんまんだぶなんまんだぶ⁉」
「あ、ごめんなさいね。説明する時間もなくて…」
ゴメリの後に続いて入ってきた日向子が二人に深く頭を下げる
そしてこのトリックを説明しだした
リースに刺客が向けられたと分かった時、ゴメリは日向子に助力を頼んだ。
日向子は直ぐにゴメリの対戦相手がゴメリに向けられた刺客の可能性が高い事を懸念し対策を講じたのだ
と言っても魔法で分身を、とか無茶な事ではなく日向子は直ぐ様ピレネー村に舞い戻り
ウシャ爺に頼んで新薬の製作を頼んだのだった
ウシャ爺が作ったのは既存の特製薬にこの前見つけた希少な薬草をブレンドした「フルポーション」的な薬で
死んでしまえば効かないが瀕死なら外傷は全て治してしまうという薬だった
試合前に日向子はゴメリに薬を渡し
「もし予想が当たっていたら無理に戦わず防御に徹し見計らって死んだフリをして」
と頼んだのだ。
ゴメリほどの上位者であれば防御のみに徹すれば余程の事がない限り死ぬ迄の深手は負い難い
そして死んだフリをする事で黒幕を炙り出す訳だが今回は黒幕が分かり易かった為監視も楽だった
「ゴメリさん、やっぱり今回の刺客騒ぎはゴメスが絡んでるわ。
さっきもゴメリさんの死を聞いてめっちゃ喜んでたもん」
「やはり…と言うかアイツしかいないんだがな。で、この後はどうするんだ?」
「ゴメリさんはこのまま姿を隠しておいて。リースさんを狙った訳がまだ判明してないからね」
「成る程。今まで是が非でも手に入れようとしていたのに一転刺客に狙わせているからな…
そういえばヒューイはどうした?」
「あぁ、あの人はシロ達に監視させてる。何か追跡なら任せて‼って顔で尻尾振ってたから」
(…まぁ猟犬って言葉もあるし得意分野なんだろうな…)
「よし、では俺はこの宿舎に隠れさせて貰うぞ、良いか?シジル」
「はい‼お任せ下さい‼」
「リース、お前はゴメスの目的が判明する迄身辺に気をつけろよ」
「了解。注意を払っていれば余程の事がない限りは私だってそう簡単には落とせませんよ」
「あはは、その意気だ‼」
霊安室の中は先程の悲痛な空気が嘘の様に晴れて活気に満ち溢れていたのだった
ー翌日ー
「えー、本来であれば本日より準々決勝戦が行われる予定でしたが昨日の魔物襲撃事件により
会場が破壊されてしまいましたので明後日より再開とさせて頂きます‼」
武闘大会会場前で主催者側スタッフが本日の延期を通達している
「ちぇっ!折角足を運んだってのによぅ‼」
「仕方ねぇさ、何せあんな魔物が出たんだし会場がぶっ壊れてたんじゃ試合を楽しめねぇじゃねーか‼」
「くそっ‼今日はやけ酒だー‼」
アナウンスを聞いて観客はぞろぞろと散っていった
「よし、予定通りね。じゃあ今の内にシロ達と合流してヒューイ達を捕まえよう‼」
日向子は城下町の外へと向かった
ーエレモス城郊外の洞穴ー
「クソッ‼クソクソクソクソクソクソクソクソッ!」
ヒューイとブラッドベアは昨日の騒ぎから逃げ洞穴の中に潜んでいた
「この俺の手でゴメリの息の根を止めたかったのに…まさかあんなに簡単に死んでしまうとは‼クソッ!」
ヒューイの怨嗟の声が呪詛の様に洞穴内に響き渡る
「相手の強さを高く見積もってブラッドベアを連れて来たのが間違いだった…」
ヒューイは己の作戦が当初の目的を果たしたとは言え失敗した事をずっと悔やんでいた
「…次はリースを殺らないと…目を掛けて下さったゴメス様に詫び様がない」
ヒューイは厳戒体制となっているであろう城下町にどう侵入しリースを殺害するかを思案する事でモヤモヤを振り払おうとした
ー郊外、林の中ー
「ウォン♪」
「シロ、ご苦労様。会いたかったよ」
「…ハゥン☆」
シロは日向子に撫でられ蕩けている
「「クゥン…」」
その光景をペスと田中が羨ましそうに悲しげな鳴き声を出しつつ眺めている
「ペス達もありがと♪」
「「ワフン♪」」
二匹も誉められ機嫌を直す
日向子達は小声で戦略会議を始めるのだった




