340 分解と襲撃
謎の物体はその形状から「ドール」と便宜上名付けられバンパイア族の識者達により調査されていた
〈ふむ、ではこれより解体作業を行う〉
ある程度外的所見を終えた始祖はドールの内部を調べる為に慎重に時空間結界を解き始める
始祖の持つ瞳力によりドール内部の動力の流れが解明され結界を解除しても暴れ出さない様に脈路を切断出来る様になっていた故の分解になる
〈先ずは…左腕部を解体せよ〉
始祖の命によりピエール達が慎重にドールの左腕部を確認していく
〈…素晴らしい…ドールの腕腕には一切の継ぎ目が御座いません…〉
白磁に似た光を放つ外格の内部を調べたピエールはその精巧さに舌を巻く
ドールの関節部分には継ぎ目すらなく凡そ分解なぞ出来ない様に見受けられた
〈…左腕背後にある突起に触れてみよ〉
始祖は既にお手上げ状態に陥っているピエール達に指示を出す
…カタン、
〈し、始祖様‼さ、左腕が外れました‼〉
始祖の指示通りドールの腕の付け根にある突起物に触れると容易に左腕と胴体が分離する
〈うむ、次は同じ要領で右腕を外せ〉
…カタン、
おぉ…
ピエールの手元を見つめる識者達からも感嘆の息が漏れる
〈次は左足だが…腰の部分に何か他と違う感触はないか?〉
〈は?はい‼今お調べ致します〉
幾ら始祖とは言え全てが見えている訳ではない
その強力な瞳力によりドールの力の流れ流れを読み更にはその力の分岐点を言い当てているのだ
両碗の分岐点は腕の付け根、背部に集中し、脚部の分岐点は腰の部分で分岐している為にそう指示を出しているのだ
ピエールがドールの腰周りを慎重に調べると確かに他の表面とは違う手触りの部分を発見した
人間の気の流れで言う所の丹田部分の素材が他の表面よりも硬質な手触りなのに気付いたのだ
〈ご、御座いました‼此処で御座います‼〉
ピエールは興奮しながら始祖に報告する
〈うむ、その部分には魔方陣らしきモノが見える、誰ぞ解読し対抗術式を付与せよ〉
識者の中でも魔方陣に詳しい者がピエールの前に進み出るとドールの丹田付近にあると言われた魔方陣の解読に着手する
〈…この小さき個体にこれほど複雑な術式を盛り込むとは…〉
識者は脂汗をかきながらドールの丹田にある魔方陣を読み解く
数十分後、識者はドールの丹田に指を当て対抗魔方陣をその上から付与を始めた
…カタン、カタン、
おぉ…
ドールの両足は少しの間を置いて両足とも外れた
〈し、始祖様‼〉
〈ふむ、いよいよ本番だな。ピエール、先程の部分の反対側、つまり臀部に似た素材が使われている部分がある筈だ。探せ〉
〈はっ‼〉
ピエールは大汗をかきながら手足の外れたドールの体をまさぐっていく
不老不死であるバンパイア族、ピエールの外見は40代前半に見受けられる
40過ぎのオッサンがツルツルのドールの体を真剣な表情でまさぐる姿はシュール過ぎて笑えない
〈ご、御座いました‼〉
〈ではその臀部にある異質な部分に魔力を通しそのまま脊髄をなぞる様にして首筋にある紋様に指をあてろ〉
〈…は。〉
まさぐっている途中で日向子からの冷たい視線に気付き自らの行為に変態性があると気付いてしまったピエールはそれでも始祖の指示通り臀部にある硬質部分に指先から魔力を通し途切れない様に背中を通過
先程調べた首筋にある紋様部分に指を近づけた
…シュウゥゥゥ…パカッ‼
〈あ…⁉〉
先程迄継ぎ目1つなかったドールの胴体部分がピエールの魔力に反応し、丁度体側面から2つに割れまるで玉手箱の様に開いた
〈し、始祖様?〉
慌てるピエール達に対し始祖は落ち着き払っている
〈ふん。ピエールよ、何者かの手により造り出されたモノならば機能維持の為に必ず整備方法がある筈なのだ。
余は単に動力の流れを追ってその整備しやすい形にしただけに過ぎぬわ〉
始祖はピエール達の狼狽ぶりをいつの間にか用意されていた肘掛け付きの豪華な椅子に座って眺めている
「…始祖さんはドールの分解方法を知っていたの?」
日向子は始祖の無駄のない指示に疑問を持って問いただす
〈うむ、知らぬ。単に視えているモノをそのまま伝えているだけだな〉
始祖は言葉が少なく日向子を更に混乱させるが途中で(まぁ始祖さんレベルだと何でもアリなのかな?)と言う考えに行き着きそれ以上の質問を諦めた
胴体部分の構造が顕になった事で識者達は驚愕の声を洩らす
永き時を生きる彼らにも知りえぬ術式や原動力となっている部品等腕や足とは比較にならない程の技術がそこに存在していたからだった
〈こ、こんな技術は見た事がない‼〉
〈そもそもこの体を駆動させている素材は何なのだ?〉
〈…未知の領域に踏み込んでしまっている様だ…〉
感動・落胆・羨望・絶望、様々な感情が入り乱れる現場に突如緊張が走ったのは次の瞬間だった
…ィィィーーーン…チュドッ!!
ドールを分解している識者の前に盛大な土埃が舞い上がった




