34 ゴメリ死す⁉ part1
「それでは第3回戦第9試合を始める。斬撃の悪魔ゴメリ、特別招待選手ヒューイ!」
「おー、今日は扇はどうしたんだぁ?」
「バ○殿みたいで笑えたのによぅ、ギャハハ‼」
「悪魔って笑かす為のフリじゃねぇのかよー‼」
…日向子の宣伝は確実に人の心に刻み込まれた様だ
「ぐぐっ‼これも宣伝、神獣運輸の為だ…」
ゴメリは歯軋りしながらじっと耐える
「フッ、随分と有名になられたな。ゴメリ殿」
(ん?この声は…?)
ゴメリは何処かで聞き覚えのある声を発するヒューイに警戒を強める
対するヒューイは全身灰色の布を纏っていて顔すら見えない
「ゴメリ殿、お覚悟を」
「何?」
「では始めっ!」
二人のやり取りを遮る様に審判の号令が発せられた
ー…スッ…ー
(…この構え…何処かで…)
ゴメリは構えたヒューイに既視感を覚えている
「では先ずは剣撃にて参る」
ーシャッ‼キィーン‼ー
ヒューイの下段からの斬り上げにゴメリは何なく受けを取り上段から振り降ろす
ーヒュッ‼シャッ‼ガキン‼ー
ゴメリの斬撃を引いて捌き横に一閃を仕掛けるがゴメリもこれを太刀で受ける
「おいおい、チンドン屋じゃなかったのかよ」
「いいぞー‼頑張れー‼」
二人の緊迫した剣技に観客は一気に呑まれた
「…流石ゴメリ殿、剣では敵わぬか…」
ヒューイは肩口を抑えて血を確認する
ゴメリの剣速の鋭さに初手で躱しきれていなかったのだ
「お前は…誰だ?俺と闘った事があるのか?」
「…それは今話す必要はありません。貴方は今此処で死ぬのですからね‼」
そう言うとヒューイは指を口に咥える指笛を鳴らす
「ピューイ‼」
…「ゴァァァッ‼」
突如獣の咆哮が会場に響き壁が崩れ落ちる
瓦礫を踏み砕いて現れたのは中型魔物最大のブラッドベアだった
「きゃあ⁉」
「な、何で此処に魔物が⁉」
「逃げろ‼逃げるんだー‼」
突然の魔物の出現に会場はパニック状態に陥った
「ゴァァァッ‼フッフッ‼」
ブラッドベアは逃げ惑う観客には目もくれずゴメリを睨み付けつつ接近してくる
「…まさか貴様テイマーかっ⁉」
「フッこの日の為に血を吐く思いで身に付けたのだ、魔物に食われて無様に死ねえっ‼」
ヒューイは急に素を出した
「その口調は…デント…貴様デントか⁉」
「フッ、漸く思い出したか‼7年前貴様に恥をかかされて生き地獄を味わったこの怨み、今こそ晴らさせて貰うぞ!」
ヒューイの指笛でブラッドベアがゴメリに突進する
「ガフッ‼」ーブンッ‼ー
ゴメリはブラッドベアの突進を躱し剣撃を加えるが魔物の反射神経は人間のそれを遥かに凌駕する、
躱されたと見るや身を捩り前足をゴメリに向けて横に払った
ードギャッ‼ー 「ぐあっ⁉」
太刀の腹で受けたゴメリだが力負けしてそのまま吹っ飛ばされた
…「かはっ‼」
壁に強く叩きつけられたゴメリは血反吐を吐く
「フハハッ‼あの斬撃の悪魔が情けない‼積年の怨みはまだまだ晴らせない、容易くは死なせないぞ!」
ヒューイはブラッドベアの背に乗って突進してくる
ードドッ、ドドッ、ドカッ‼ー
「がっ‼」
ブラッドベアの突進を避けきれず宙を舞うゴメリ
「クハハッ‼無様だな、ゴメリ‼このまま踏み潰してやろうか?」
ーズシッ、ズシッ…ドシリー
「ぐあっ‼」
ブラッドベアの前足がゴメリの腹の上にのし掛かる
「これまで…か…」
急にゴメリの体から力が抜ける
「何っ⁉もうくたばったのか⁉」
ヒューイは慌ててブラッドベアから飛び降りゴメリの鼻に指を当てる
「…死んでるよ…死んじゃったよぉ‼もっと…もっと苦しませてから殺ろうと思ってたのによぅ‼」
ヒューイは怯えるブラッドベアを殴り付ける
「あーっ、何なんだよ‼俺の怨みは何処にぶつけたら良いんだよっ‼」
ードカッ‼ー
ヒューイは忌々しげにゴメリの体を蹴り上げた
「こら!大人しくしろ!」
今更ながら護衛兵と親衛隊がヒューイを捕縛しにやって来た
「…チッ、行くぞ‼ブラッドベア‼」
「ゴァァァッ‼」
ードドッ、ドドッ、ガガンッ‼ー
ヒューイを乗せたブラッドベアは壁を突き破って逃げて行った
「た、隊長!」
シジルは慌ててゴメリに駆け寄る
「…隊長…」
破壊された会場にシジルの小さな声が響いた
ー夕刻、親衛隊宿舎ー
「そうか!死んだか!」
ゴメスは机を叩いて叫んだ
「はい、護衛のシジルが邪魔をして確認は出来ませんでしたがシジルや護衛達の様子から死んだモノと思われます」
「何っ?確認しておらぬのか?」
「はい…遺体はそのままシジル達が護衛兵宿舎に運び去ってしまって…親衛隊は触れる事すら叶いませんでした」
「うーむ、だがヒューイの事だ。殺していなければ逃げはしなかっただろう」
「はい」
「フフン、俺の邪魔を散々しくさったゴメリもこれで居なくなったな。フハハッ‼」
ゴメスは隊員を退室させると満足気に杯を傾けた




