339 製造元?
謎の物体は始祖の時空間能力により固定され現在全員で体表面を確認中だった
〈…始祖様、この物体の表面は恐らく焼結品と思われます〉
〈水晶体はどうやら結晶ではなく何らかの生体だと考えます〉
〈視覚や聴覚器官がない所を見ると何か別の器官が備わっているモノと思われます〉
流石バンパイア族の識者達、触れずに鑑別しているのに次々と結果と予測を組み立てていく
〈焼結…ではこれの表面は焼成されておると言うのか?〉
始祖は識者の推測に呆れている
日向子の前世では高い硬度を持つ焼結品が存在していた為それほど気にはならなかったがこの世界で焼結品と言えば皿等の食器類を指す所謂「焼き物」だからだ
「始祖さん、私の世界ではセラミックという非常に硬い焼き物とかあったんです。
宇宙…えっと超高温や極低温にも耐え摩擦にも強い、凄い素材だったんですよ」
日向子は前世の記憶を頼りに始祖に説明を加えた
〈ふーむ、セラミック…か。それは陶磁器とは違うのだな?〉
「えぇ、確かかなり高度な技術を使わないと出来なかった筈よ」
〈となるとこの物体は高度な技術を所有する者が作成した事になるが…〉
始祖はブツブツと呟きながら識者に物体をひっくり返す様に命じる
〈⁉…これは…?〉
仰向けの状態からひっくり返すと識者は驚嘆の声をあげる
「どうしたの?」
〈は、それが…ここに紋様が刻まれておりまして…〉
識者が物体の首筋を指差している
〈これは…〉
謎の物体の首筋に刻まれた紋様は日向子も覚えがある紋様だった
「え?これってスラストア共和国の紋章?」
そう言いつつ日向子が取り出したのは南半球にある各王国の紋章が刻まれた記章だ
「…うーん?似てるには似てるけどちょっと違うかな?」
スラストア共和国の紋章は中央にグリフォンがあり背景には3つの剣が鉾の様に組み合わされている
外周はポル○ェの様な盾っぽく象どられている
一方謎の物体にある紋様は楕円の中にグリフォンに似た生物、そしてその生物の背後に盾と鉾が描かれている
〈…日向子、この紋様は以前話したドラール王国と敵対していた国の紋章だ〉
。。。
ここに来て過去と現在が繋がり謎の一端が解れ始めていくのだった
ーーーーーーーーーーーー
…カツーン、カツーン、カツーン
ガチャ…ギギィ~
スラストア領内のとある地下室、その扉が音を立てて開く
「遅くなりました」
「構わぬ。」
術式が施され知る者しか開けられない地下室の扉を開けた男、それはボルピア領の子爵チューイスだった
以前日向子の手によりボルピア領内の小作人制度が大きく変えられてしまった時、
大地主であったチューイスは大きな損害を被り日向子を恨んでいた
一方チューイスを待っていた人物は黒いフード付きマントを深く被りその正体はようとして知れない
「あの小娘は北半球より呼び寄せたバンパイア族と共にドラール領内を掌握、現在遺物を調査している模様です」
チューイスは憎々しげに報告を終え恨みの籠った瞳を対峙する人物に悟られない様に顔を伏せた
「…チューイスよ、その方の懸念はいずれ消え失せるであろう。その日向子とか言う娘とバンパイア族とか申す魔物の死を以てな」
腹に響く低音がマントの人物の口から発せられると小心者のチューイスはそれだけで足腰が震える
「は、ははっ‼貴方様がそう仰られるのであれば私、チューイスは枕を高くして眠れそうです‼」
マントの人物はテーブルにある杯を持ち口元に近付ける
「…竜の末裔である我輩がその様な下賤の者共に自ら手を煩わさずとも…彼奴等は既に自滅の道を歩んでおる」
グッと杯の中の酒を飲み干しマントの人物は席を立つ
…シュウゥゥゥ~…
立ち上がったマントの人物の足元に魔方陣が浮かび上がるとそのまま闇に溶け込む様に姿を消してしまった
「あと少し…あと少し我慢すれば我が領地どころかゴスピア領位は分け与えて貰えるのだ、それまでは我慢せねば…」
元々尊大なチューイスが彼の人物にへりくだるのには理由がある
マントの人物はチューイスを手駒として使役する代わりに彼に広大な領地と膨大な益を約束してくれたのだ
ロンガ達の陣頭指揮で次々と小作人が土地を開墾し、小さな地主コミュニティを築く中
元々の地主達が所有していた土地は借り手を失い荒れ始めてしまった
ファングとかいう竜族がゴスピア国国王ツヴァイとの協定を結び独立した小作人達もその協定に基づき税金を納める以上国家としては元地主達の直訴があるとは言え深く干渉は出来なかった
国家に納める税金とは別に更に課税して農民を苦しめていたチューイス達元地主は収入のあてを失っていたのだ
自身の巻き返しを計り更に裏切った小作人達に艱難辛苦を与え可能ならファングとかいう竜も葬る
この身勝手な理屈によりチューイスはマントの人物に傅いているのだ
「…ククク…先ずはあの小娘達の死に様をじっくり拝見させて貰おうか」
チューイスは地下室の扉を閉めると踵を返して長い廊下を歩いていった




