337 日向子、衝撃⁉
キメを襲って来た謎の物体、この推察を進めるにあたって突然始祖より放たれた衝撃発言
日向子は未だにその意味を理解出来ずに固まっていた
〈何も驚く事はない。竜族や我らバンパイア族、不老不死の存在は全て世の理から外れた存在なのだ
日向子は竜族とキマイラ、そしてバンパイア等の細胞核を取り込んでこの世界の理を既に脱しているのだよ〉
(。。。え?って言う事は…つまり…どういう事???)
始祖の言葉は日向子の脳内に全く入って来ない
竜核を得た時に竜族の長老に聞いた内容の方がまだ耳に入って来た程である
「…理を…外れているとどうなりますか?」
(ふむ、特に問題はなかろう?単に不老不死になったり細胞1つから復活出来る能力を得たり…種族により様々だが肝心なのはその身に宿る魂の在り方よ)
始祖の言葉には日向子を労る優しさが含まれていた
内容は理解出来ずとも日向子は落ち着きを取り戻していったのだ
「…そっか、そう言われれば最初全く使えなかった魔術が使える様になったのも変だな、って思ってたけど…」
(私、化け物になっちゃってたんだ…)
という言葉はシルグ達や始祖、ラクルを侮辱する言葉だと気付いて思わず呑み込んだ
〈いや、別に飲み込まずとも良い。確かに我等の存在はこの世界の生物から見れば特異な化け物に等しいだろう〉
始祖は日向子が呑み込んだ言葉を代弁する
〈だが生ける者の本質は生命体てしての活動ではなくその心の在り方に帰結するのだ〉
始祖の言葉に含まれる感情が日向子の惑いにスッと染み入る
「…そっか。そうですよね‼私の体がどうであろうと私は私。今まで知り合った人達との関係が断ち切られる訳でもないし変わりなく接してくれているし」
日向子は持ち前のポジティブシンキングにより落ち込みを華麗に回避したのであった
「それよりもこの物体の正体を暴く方が先決ですよね」
〈う、うむ。そうだな〉
始祖も日向子の立ち直りの早さに一瞬たじろいだが直ぐに本題へ切り替える
〈そもそも水晶体から熱線が出たと言う事であれば初見の物体でもおおよその推測は出来るぞ?〉
「え?そうなんですか?」
〈うむ、この技術は確かこのドラール王国が隆盛を誇っていた時代、敵国が運用していた魔導兵器だった様な覚えがある〉
「え…じゃあドラールの他にもまだこんな危ない兵器を持っている国があるんですか?」
日向子は始祖の話を聞いてどんよりとした顔を隠せない
〈…いや、それはない。何せその敵国はドラールが滅ぼしてしまったからな〉
「?なら何でこんなモノが未だに動いているんですか?」
〈…うーむ、それは分からぬ〉
結局調べてみないと何とも言えない、と言う事なのだろう
日向子はキメに分かった範囲を説明した後に今度は謎の物体の出所を探す旅に出る事になったのであった
。。。
「うーん、取り敢えず草原に戻って来たけど此処からどう探せば良いんだろう?」
日向子達は今、謎の物体が襲って来たスラストア共和国付近の草原に舞い戻っていた
《とにかく敵が残した残滓がないか付近を捜索して見よう》
テンションが低い日向子を奮い起こす様にキメが手掛かりを求めてナノ細胞群を周囲に放つ
「…」《…》
この段階で既に何もする事がなくなってしまった2人は暫く無言で立っていたが
キメがその静寂に耐えきれず手元にあった弁当(スラストア領内の食堂で購入した)を広げて日向子に勧めた
《主、ナノ細胞群が手掛かりを拾って来るまで昼食をとろう》
「そうね、ただボーッと待っていても仕方ないもんね」
…チチッ…チチッ…ピィー…
草原のど真ん中、座って昼食を取る2人の周りには小鳥がさえずる声と穏やかな風が吹いている
「…久しぶりにノンビリした時間を過ごせてるわね、何か不思議」
肉が挟まったパンを頬張る日向子はキメに皮肉っぽく呟く
《南半球に来てから更に忙しくなっているからな、確かに久しぶりだ》
転移能力を使いはじめてから物事が加速した様に動き出して休む間もなく動いていた
その為折角の新天地も観光すら満足に出来ないままこうして草原で昼食を食べているなんて考えると不思議過ぎる
…チチッ、チチチッ‼
《!!》
「…来たわね…」
小鳥のさえずりが急に慌ただしくなり何処かに飛び去った次の瞬間、後方から何かが飛来して来るのをキメのナノ細胞群が察知した
…ヒューーーン…ズサッ
[ギギッ、目標ヲ発見。コレヨリ殲滅作戦ニ移行スル。]
既に身構えていた2人の前に現れたのは例の謎の物体だ
「キメちゃん、今回は生け捕りだからなるべく回避行動を取っていて‼後は私が何とかするから」
《分かった、早目に頼む‼》
謎の物体はやはりキメだけをターゲット認定しているらしく日向子を一切警戒していない
キメは最初から回避行動を取るつもりなので余程の事がない限り負傷はしないだろう
こうして謎の物体との二度目の戦闘が静かに始まったのであった




