336 謎の物体と日向子の秘密
日向子とキメは今、スラストア共和国近郊の草原で突如襲撃してきた謎の物体(残骸)を調べようとしていた
《…主、これは一体何なのだ?》
「…うーん…何となくお人形っぽくはあるんだけど…何故私達、キメちゃんを襲って来たのか全く分からないわ…」
2人の目の前に転がる残骸は日向子の記憶にある人形に近い
但し子供が喜んで遊ぶ様な人形とは違いその個体は何の装飾もなくツルツルとした簡素なモノだ
更に言うならその不気味なボディに仕込まれた水晶体、小さな体躯からは考えられない程の熱線を放っていた
「これって…もしかしたらドラールと関係あるのかしら?」
今日向子が思い至ったのはかのドラール王国にある高度な兵器群だ
確かにドラールのオーパーツと考えれば理不尽な襲撃も日向子達を狙うのにも説明はつく
だが日向子達は既に滅びてしまっていたドラール王国内のシステムを停止させてから始祖達を呼んだ筈だ
(…もしかしたらスタンドアローン状態の兵器がまだ何処かに潜んでいるのかしら?)
この状況で考えられるのはドラール国内のコントロールとは別に独自に起動を続けている兵器が未だに存在している可能性である
これ以上の推察は無駄だと察した日向子は目の前に転がる物体を詳しく調べようと手を差し向けた
…ジジッ、ジッ‼
「《!?》」
バガンッ‼…ジュウゥゥ…‼
謎の物体から変な音がした為に2人が距離を取るとその物体が突然破裂し、中から出た液体により体が溶解を始めた
《主っ‼まずいぞ‼》
キメは目の前の証拠が溶解していくのを食い止めようと慌てて近寄ろうとしている
「ダメッ!私に任せてっ!」
不用意に近付くキメを言葉で制した日向子は風と水の加護を使い瞬間的に物体を氷柱の中に閉じ込めた
…ビキキキキッ!
幸い物体から溢れ出す溶解液(?)は凝固点が低かったのかそれ以上の融解をせず物体と共に固まってくれた
「ふぅ、何とか原型だけは保てたわね…」
氷柱の中の物体は溶解液が吹き出した頭部を除いて辛うじて原型を留めていた
日向子とキメはその氷柱を地面から切り離すと唯一見識がありそうな始祖に見せるべく転移を開始したのだった
…スッ…
2人の姿は始祖をはじめバンパイア族の識者が現在調査の為に駐留しているドラール王国の中心地に現れた
〈日向子か、それは何だ?〉
たまたま外にある兵器の残骸を調査していた始祖は日向子の姿に気付くとその手にある氷柱に目が留まった
「あ、始祖さん‼丁度良かった。これ、スラストアの草原で私達にいきなり襲い掛かって来たんですけど…見覚えありますか?」
日向子は始祖に氷柱を見せるがどうも反応が鈍い
〈…誰ぞ、手の空いている者は此方へ‼〉
始祖は周囲にいる識者を呼ぶと2人程こちらに向かって駆け寄って来る
〈は、始祖様。如何致しましたか?〉
〈…この氷柱の中身なのだが…どう推察する?〉
どうやら始祖も見た事はないらしく駆け寄って来た識者に意見を求めるしかなかった様だ
〈…これは…?日向子様、少しお伺いしても宜しいでしょうか?〉
識者の1人が日向子達に説明を求める
「うん。今はかなり溶けてしまってこんな感じだけど元々は人形っぽくて眉間と掌に水晶の様な珠が埋め込まれていたの。
その珠からかなり高温の熱線を放っていたのと遭遇してから避けているキメちゃんのスピードに段々対応していく様な感じがしたから私が斬って止めたのよ」
〈?…日向子様は襲われなかったのですか?〉
「うん。最初から何故かキメちゃんをターゲットにしていたみたいで私には全く目もくれてなかったわ」
そう考えると若干違和感が伴ってきた
あの場にいたのは日向子とキメの2人、なのに何故この物体はキメだけを殲滅しようと動いていたのか?
攻撃速度の上がる謎の物体に慌てるキメを見かねて日向子が斬撃を加えても尚この物体は日向子を認識していなかった様にも感じられた
〈うむ…日向子様とキメ様の「違い」ですか…〉
日向子の証言を聞いた識者、バンパイア族随一の識者でもある元元老院配下、ピエールは腕を組んで思考を深くしていく
〈…最初この物体が現れた時、何か発したりしていましたか?〉
「えっ⁉…えぇ、確か「目標」が何たらとか言ってたわ」
〈となるとこの物体の目的は目標…つまりキメ様を認識してから攻撃に移った、と言う事ですね?〉
ピエールは日向子の証言からある重要な一点を抜き出した
「…あ、そうか‼「目標」に認識されたのなら誰かから指示を受けて接近したって事になるわよね?」
〈流石日向子様、ご明察です〉
そう、この謎の物体は最初からキメをターゲットに行動し、発見したから攻撃を加えて来たのだ
〈それと…日向子様は現在人の理を外れていらっしゃいますので…〉
ピエールがとても言い難そうに進言する
「えっ⁉それって一体…?」
日向子の驚きを察してピエールは更に言葉を重ねる
〈日向子様の体内には竜核が宿られていらっしゃいますよね?〉
「あ、うん。」
〈もしかするとこの物体は生命体と認識しなかった可能性もあります〉
「え?どういう事?」
ピエールの発言に日向子は衝撃を受ける
〈ふむ、その点に関しては余が説明しよう〉
ピエールの進言を静かに聞いていた始祖が混乱する日向子に落ち着かせる様な口調で語りかける
〈ラクルから聞いたが日向子は以前一度ラクルの手により命を刈り取られそうになったそうだな?〉
「はい、死にそうになった所をキメちゃんとシルちゃんに救って貰いました」
〈余が推察するに日向子はラクルから致命傷を負わされた時にキメとシルグより細胞等を供与され復活したのであろう?〉
「はい」
〈その時に竜核を得て竜族の持つ加護、つまり魔術も使える様になった筈だ
その段階で日向子の体はこの世界にある生命体の「理」を脱し別次元の生命体に変異したのだよ〉
…日向子は始祖の言葉の意味が全く理解出来ていなかった




