328 日向子フォート爆誕⁉
《…一体これは…?》
シーワルスを担いで戻って来たキメは目の前にある氷の門柱に顎が外れそうになっていた
確か食材を手分けして探しに出た時にはただの洞穴だったその入り口は古代ギリシャ神殿の如き巨大な柱に囲われている
内部に入ってからは顎どころか骨盤が外れそうになりその場で崩れ落ちた
単に掘っただけの凍土は滑らかな氷の壁と床に覆われ両脇にはやはり氷柱が何本も作られている
「あっ、おかえり~‼」
呆気に取られたキメの前に何かをやり遂げた‼と言った表情の日向子が奥から現れてキメを出迎える
《あ、主…これは?》
「えへへ…凄いっしょ?」
何ら悪びれる事もなく自慢気な日向子はやっと立ち上がったキメの手を引いて中を案内する
カツン、コツン、カツン…
氷で出来た床は滑らない様に表面がエンボス加工され硬度はかなりのモノなのか硬い靴音を響かせている
《主…?》
「ん?あぁ、キメちゃん待ってるだけじゃ退屈だったからね、部屋作りしておこうかな~って思ったら思ったより嵌まっちゃって…」
入り口から数十メートルある廊下を進むと左右に部屋が現れる
「ここが厨房でぇ、こっちが寝室ね?で、こっちが…」
日向子の説明をキメは遮る
《そうじゃなくて…あんな短時間でどうやったらこんな姿になるんだ?》
キメの疑問は尤もだ
食材探しに出かける前、この洞穴はキメの部分変異による掘削と日向子の手甲剣で一時間程かけて掘り進めたばかりだった
なのに今この場所は掘りっ放しの洞穴ではなく宮殿調に仕上げられているのだ
しかもキメが見た時の規模の5倍はある
《硬い岩盤を此処まで加工するのにそんな短時間で出来る訳が…》
「あー‼ソコ?それはね、大地と水の加護を途中で使い始めたら捗っちゃったのよー」
何の気なしに言い放つ日向子
どうやらオーシュとラルドから譲り受けた加護を混合使用する事で掘削も加工も容易にこなせた様だ
「凍らせるのにはシルちゃんの風の加護使ったのよ」
《。。。》
竜族より譲り受けた加護(魔法)を3つ、同時に使用してこの迷宮は誕生したらしい
これは同じ因子を譲り受けたキメにも理論上は可能なのだろう
だが実際にやったとしたら能力の同時励起に体が耐えられずに自己崩壊を招くだろう
正に知らぬが仏、日向子の能力がなければなし得なかった奇跡だったのだ
《(それにしても…)》
キメは見事な迷宮を見回してため息をつく
《…主》
「ん?」
《仮の拠点に此処までする必要はあったのか?》
…ヒューピィーヒュー♪
誤魔化そうと口笛を吹こうとした日向子の口からは情けない音が漏れでていた
《(…深く考えるのはよそう…)》
キメは思考を放棄した
どうせ詰め寄ってもまともな答えは返って来ないのだ
であれば日向子に乗っかって誉めた方が良い。そう判断したのだ
《…凄いな、流石主だ》
「でしょー⁉頑張っちゃったんだからっ♪」
「キラーンッ☆」という音が聞こえて来そうな日向子の変わり様にキメはホッとした
結局案内された迷宮内部は部屋数大小合わせて10、地下部分に巨大な貯蔵庫と階上部分に設けられたホールを合わせて12もの部屋が作られていた
《…気のせいかこの迷宮内は暖かいな》
「でしょ?種明かしはね…これっ‼」
日向子が指差したのは岩をくり貫いて作った暖炉の中で赤熱化した玉が高速回転していた
「じゃーんっ‼名付けてエアストーブぅ~っ‼」
そう言われてもピンと来ない。
説明を求めると日向子は何でもない様に答えた
「ほら、火を使おうと思っても薪もないでしょ?だから風の加護で空気の玉を作って回転させたの」
空気同士の摩擦熱によって暖を取ろうと考えた日向子の発想は良かったが1つ問題があった
加護(魔法)により生み出した空気の玉は物理的抵抗を全く受けずただ単にクルクル回るだけだったのだ
それを一捻りして抵抗を生み出してからは早かった
加護の一部を切り摩擦力を生む事に成功した日向子は今度はその玉を暖炉内に固定する方法を編み出した
暖炉内部に玉を覆う空気膜を張り固定化に成功、永久機関を生み出したのだ
《(え?何だこれは?)》
細胞を能力ごと取り込んで真理を得るキメすらもその原理に理解が追い付かない
そんな高度な技術(魔法)であるにも関わらず日向子は平然と成立させてしまっていたのだ
無知は罪なり、の逆を行く無知こそ万能なり、を体現している日向子の発想力は常識という枠に囚われる事がなかった
こうして完成した迷宮に日向子は「日向子フォート」と名付け今後のドラール王国探索の拠点として有効活用(?)していく
後日談にはなるがこの後の展開で地中に沈んだ日向子フォートは近隣から濃密な魔素を集めダンジョンコアを生み出し
本当の意味での迷宮として後世の冒険者達に難攻不落の迷宮として有名になるのはこれから数百年後である
当然ながらこの時の2人が知る由もない




