308 王達への謁見 part2
デスピアの街中で予言めいた言葉を聞いた日向子は気になって始祖にもう少し詳しく説明をして貰う事にした
「住民の不満が溜まっているのは分かります。
先代の王様、アーチ王のお兄さんが有事に住民を蔑ろにして籠城をしていた位ですからね…
でもそれが何故アーチ王へ向けられるんですか?」
先代は先代、アーチ王はアーチ王ではないのか?と日向子は言いたげだった
〈うむ、論理的には日向子の考えは正しい。だが見失った民の怒りの矛先が次代の王に向けられる事はままある事なのだ〉
始祖は民衆感情を軽んじてはならない、という事を若きアーチ王にキチンと認識させる必要があると日向子に説いているのだ
〈人族の王は余の一族や魔物の一族と違い血脈と世襲に拘る。祖先の王が偉大であればある程今世の王は比較され糾弾されもしよう
特に今の様に有事で民の心が荒んでいる時はその怒りの抜け口を用意しない王は例え有能でも捌け口として暗殺される事もあるのだ〉
「…スケープゴート、か」
〈?魔物の名か?〉
「ううん、私の前世の世界ではスケープゴートとか人身御供って言う言葉があって…要は集団心理を抑え込む為に贄を用意して矛先を贄に向けさせる事で平和を保ったりするって意味なんです」
〈…正にそれを言いたかったのだ。不満の矛先を何処かに反らさねばそのアーチ王が一身に受けなければならぬ時もあろう〉
流石は支配階級の意見だ、これは早くアーチ王に伝えなければ…
ザッ、ガシャン‼
「貴様達は何者だ‼これより先は一般の者が足を踏み入れて良い場所ではないぞ‼」
日向子は始祖との話に夢中になっていて気付けば城の入り口付近迄辿り着いていた様だ
日向子は門兵に例の紋章を見せると門兵が動揺した
「こ、これは?」
「ゴスピア国ツヴァイ王、スラストア共和国アイン王、そしてアーチ王連名の認可証です
これを王様に見せて日向子が来たとお伝え頂けますか?」
「し、暫し待たれよ‼」
門兵はもしこの認可証が本物であれば初期対応に失敗していた事に気付き慌てて城内に駆け込んで行く
ものの10分もしない内に死にそうな顔で門兵が走って来た
「はぁ、はぁ、ひ、日向子様‼先程は失礼致しました‼我が王は謁見の間においでですのでどうぞ‼私が責任を持ってご案内致しますっ‼」
息も絶え絶えな門兵は先程の失態を取り戻そうと必死になっている
「門兵さん、見知らぬ人が徒歩なんかでフラフラ歩いて近付けば不審に思うのが当然ですよ?
門兵さんの行動は全て正しかったのですから謝らないで下さいね」
「ははっ、お気遣い感謝致します‼」
「ちゃんとアーチさん…じゃなくて王様にも門兵さんは立派な方だと伝えておきますよ」
城下町ですら物々しい空気だったのだ、門兵が来訪者を厳しい目で見るのは城を守る兵として当然の職務なのだ
門兵は日向子達を謁見の間側に控えていた衛兵に引き継ぐと力なく引き返そうとした
「あ、ちょっと待って‼」
日向子は門兵を引き留めそのまま謁見の間に入る
「日向子殿‼」
アーチは王らしくない笑顔で日向子を出迎えた
「アーチさん、お久しぶりです。あっ‼王様でしたね、すいません」
日向子は気をつけていたのに一国の王を名前で呼んでしまった事を謝罪した
「あはは、日向子殿は私の恩人です。アーチで構いませんよ
ところで何故門兵を?」
アーチ王は所在なさそうに佇む門兵を見やって訊ねた
「王様、この門兵さんは不審な私達を引き留めてしまった事を悔いているみたいなんです。
でもその行為はこの国の兵として立派な事なのでどうか責めないでやって下さいね」
「成る程、日向子殿は私の兵の事を気遣ってくれているのですな?勿論です、誉める事はあっても責めはしない事を約束しましょう」
アーチ王は日向子に誓った
「そちの名は?」
アーチ王は門兵に名を訊ねる
「は、ははっ‼私は第2分隊兵長のカジムです‼」
「うむ、カジムよ。そちは今日より衛兵隊へ移動し私の身辺を警護せよ」
「えっ⁉…はは、有り難き幸せ‼」
日向子とアーチの計らいで門兵カジムは衛兵に昇格したのだ
意気揚々と退室していくカジムを見ながらアーチ王は日向子に語りかける
「これで良かったですかな?」
「ええ、あんなに任務に忠実な人はもっと重用されて然るべきです」
ちょっとしたドタバタで始祖を紹介し損ねた日向子は改めて始祖をアーチ王に紹介し、
ツヴァイ王に説明した内容を改めてアーチ王にも説明した
「うーむ…地震、ですか…」
やはりアーチ王は国内正常化に手一杯で地震の事迄は手が回らない様子だった
「今は忙しいでしょうから頭の隅に置いておいて下さるだけで結構です
あとツヴァイ王様に届いた報告書は此方に集めて貰う様にしましたので宜しくお願いします」
「あぁ、分かった。此方でも出来る限り協力しよう」
アーチ王は日向子に協力を約束し、その場はとりあえず解散となったのであった




