30 過去への後悔
「ご存知なかったんですね…」
リースはゴメリの問いに重い口を開いた
「…隊長が軍をお辞めになられた後、親衛隊と護衛兵のパワーバランスが崩れていた時期がありまして…
その時優位に立った親衛隊長ゴメスが護衛兵を大型魔物が出る前線に護衛兵を全て投入したんです」
「何だと⁉何故親衛隊がそこまで権限を持ったのだ⁉」
「当時ご存命だった先王の腹心、ゴンザがゴメスの父親なのは?」
「勿論知っているが」
「これは噂なのですが親衛隊に護衛兵を組み込む為にゴメスが父親に嘆願したそうです。それで…」
「…待て。そもそもはゴメスのお前に対する横恋慕が発端じゃなかったのか?
なのに兵を巻き込んでそこまでするのか?」
「…えぇ、私達も最初はそう思っていました。でもその憶測が誤りであった事を後に思い知らされたんです」
「ば、馬鹿な⁉幾ら傲慢とは言え100人からの護衛兵を犠牲にしてまでお前を手中に収めんとするとは…」
二人は沈痛な面持ちで後の悲劇を語る
「とにかく大型魔物討伐は腹心であるゴンザより先王に進言され発令されました。
王命とあらば私達に選択肢はなくそのまま前線に送られて…」
「?ではお前も前線に送られた訳だよな?何故手中に収めんとするお前を前線に送ったのだ?」
「それが…私と数名の隊員はその前にあった討伐で負傷をして出征出来なかったのです」
「それは…偶然じゃないのか?」
「私も初めはそう思っていました。ですが後に調べた所その討伐対象の魔物はテイマーによる遠隔操作が行われていたのです」
「…何故そんな真似を?」
「…多分私を孤立させる為に仕組んだんだと思います。現に私と出征したシジルや他の隊員は
全員負傷しましたが軽症で魔物が引いた為に助かったのです」
「そうか…お前達を負傷させるのが目的だった、と言う訳か…」
「はい。そしてその直後にかの遠征です。私達は参加を見送られ古参のアイク兵長を隊長格にそのまま出征して…全滅しました」
「な⁉ぜ、全滅だと?」
「…はい…その大型魔物の情報が間違っていて…最初はデビルファントという話でしたが
現地に到着して目にしたのはレッドドラゴンだったそうです」
「ドラゴン?それを何故デビルファントと?」
「ここも噂でしか伝わっておらず何の意図が働いたのかは憶測に過ぎませんが…
ゴメスが誤情報を敢えて流して護衛兵を全滅させる為の罠だったそうです」
「…ゴメスめ…」
「結局当時の護衛兵隊は壊滅的ダメージを受け撤退、主だった主力は全員死亡という結果で撤退を余儀なくされたそうです」
「くっ…俺が短気を起こして辞めていなければ…」
「隊長‼それは私を守る為に起こした騒ぎじゃないですか‼」
「だが…そんな事態になるのを予見していればアイツらは…」
「…もう終わった事です…私は彼等の死を無駄にしない為に先王に護衛兵隊の再建を嘆願しここまでやって来たのです」
「…そうか、助けたつもりが苦労を掛けてしまったな、リース」
「そんな…隊長がいたから私はここまで頑張ってこれたんです」
リースは唇を噛み締める
「知った以上ゴメスの横暴は俺が止める。お前や残った元部下達の為にな」
「隊長…」
「ははっ、今はお前が隊長だと言っただろう?俺は今何のしがらみもない一般人だ、だからこそやれる事でお前達を助けてやろう」
「…!まさか…」
「殺しはしないさ。ただ殺した所で死んだ奴等が浮かばれる訳はないだろう?」
「では…」
「アイツを社会的に抹殺してやるよ」
「そんな事が?」
「俺だけじゃ多分失敗するだろうが…日向子がいれば何とかなるさ」
「あの…」
「ん?」
「その日向子さんはゴメリさんの…」
「ワハハ‼彼女は俺の友だよ。あの娘はいつも俺の想像を遥かに越えた事をやらかすんだよ」
「…(ホッ…)そうですか。でも具体的にどうするんですか?」
「まぁ任せておけ!この斬撃の悪魔にな!」
「フフッ…久しぶりにその渾名を聞きましたよ」
「あぁ、俺も久しぶりに自分で言ったな」
重苦しかった二人の間に柔らかな空気が流れていた
ー日向子達の宿ー
「…と言う訳なんだ。ヒナちゃんを巻き込みたくはないがどうか手を貸してくれないか?」
ゴメリはテーブルに手をつくと頭を突っ伏した
「そんな事が…分かりました‼そんな女の敵みたいな奴はのさばらせておいても碌な事がありませんからね‼」
日向子はまるで自分の事の様に憤慨している
「ところで…ゴメスって人、親衛隊長なんですよね?」
「あぁ、親の七光りだがそうだ。」
「あの人かぁ…」
「ん?知っているのか?」
「えぇ、以前お城にピールさんを送った事があったじゃないですか?」
「ああ」
「その時私に難癖をつけてきて腕相撲させられたんですよ、その親衛隊長さんと」
「何だと⁉で、どうなったんだ?」
「そりゃもう瞬殺ですよ、瞬殺。そのお陰で王様から御用達の証文を貰えたんですけどね♪」
「そうか、あの証文はそう言う経緯で手に入れたのか」
「どっちにしても私も嫌いなのでやっちゃいますよぉ~‼」
日向子は鼻息を荒くして悪い顔をしていた




