3 体の秘密
訳も分からず連れて来られたピレネー村で日向子はカントお婆さんの家に泊めて貰う事になった
「お婆ちゃん、このシチュー美味しいです」
「あはは、ありがとねぇ。お代わりはどんどんしなよ?」
「はいっ‼」
日向子は気付けば空腹だった
いきなり草原で目覚め怪我をしていて…ゴメリさんに背負われてピレネー村に来てウシャ爺の治療を受けて…
目まぐるしさについ忘れてしまっていたのだ
「あの…お風呂を貸して頂けますか?何か泥だらけで…」
「あん?フロ?そりゃ何だい?」
「あ、体を綺麗にしたいんですけど…」
「あぁ‼そりゃそんだぁ。若い娘っ子が汚れたまんまじゃの‼洗い場はこの家の裏手にあるで自由に使い。」
「ありがとうございます。ご馳走さまでした」
日向子は食器を片付けようと辺りをキョロキョロする
「あれま、片付けてくれるんかぃ?そんじゃ洗い場まで持ってっとくれ」
(ん?「洗い場」??)
同じ名称が2つあるとは思えない
日向子が教えられたドアから出て裏手に回ると…井戸と竈、そして流し台の様なモノと「洗い場」があった
「あはは…確かに洗い場だわ…」
掘っ立て小屋程度の壁に水瓶と手桶が1つずつ。これがこの村の「風呂」だった
ージャバッ…ザァー…ー
「はぁ~…お風呂に入りたいなぁ…」
日向子は日本が如何に水に恵まれていたかを実感していた
「あ、そう言えば…」
日向子は自分の手首に指をあてる
「…やっぱりない…」
そう、日向子の体には「脈」がないのだ
次に豊満な胸にも手をあててみるが…心臓は鼓動している様には感じられない
(私の体、どうなっちゃったんだろう…)
一瞬不安が体全体に広がるが直ぐに落ち着く
「幾ら考えても私、こうして生きてるしね」
日向子は仕事(オペ看)で鍛えられた度胸とズボラさをフルに発揮した
細かい事にイチイチ拘っていたらオペ看なんか勤まらないのだ!
「あれ?鼓動がないって事は…新陳代謝もない?…じゃあお肌なんか荒れっ放しじゃないの⁉」
日向子は肝心な事は忘却出来たがお肌の荒れは許せなかったのだった
「ふぅ。水浴びだけでもさっぱりするモノね」
日向子はカントさんに貸して貰った「布」で体を拭く
「これってサラシじゃないの?ゴワゴワしてて水も吸わないし…ここの人はこんなので皆満足してるのかしら?」
タオルが日本に入ってきたのは明治初期頃だと言われている。
海外より輸入され今ではあって当然のモノのなっているが
それまでは「手拭い」がバスタオル代わりであった
手拭いとタオル、どちらも綿製品だが確か縫い方が違った筈だ。
縦糸と横糸で構成される手拭いとパイルというループ状の縦糸をもう一本追加して織られるタオル
出来上がりの柔らかさはそのパイル糸のループ構造にある筈…
日向子は柔らかいタオルを求めて今治タオルに行き着いたがその時仕込んだ知恵を思い出していた
(あーぁ、タオルが懐かしいな…)
「あの、これありがとうございました。後で洗ってお返ししますね」
日向子は手拭いの他に女性モノの衣服や下着まで借りていたのだ
「おやまぁまぁ、私の若い頃の衣服だけんどキツくないかぃ?」
「えぇ、あ…ちょっと胸の部分が…それとこのスカートの丈、短くないですか?」
実は日向子、意外とナイスボディなのだ
豊満な胸は少し窮屈そうに衣服からはみ出し短いスカートの下からは健康そうな太ももを覗かせている
「私の若い頃ぁ皆こんなのを着とったんじゃよ。懐かしいのぅ」
「へぇ。普段からこんな衣服着ていたらさぞかし男性は喜んだでしょうね?」
「いんやぁ、こんなこっ恥ずかしい服なんざ普段使いに出来るモンかね。これは村祭りで男を漁る時の衣装じゃよ。ホホッ」
「えっ?やけに際どいと思ったら…勝負服だったんですか?」
「ふぇっ⁉誰と勝負せにゃならんのか…まぁアレは勝負みたいなモノじゃがの☆」
「ハハハ…」
カントさんの渾身の色ボケに乾いた笑いしか出せなかった日向子は遠い目で窓の外を眺めていた
ゴンゴン、ガチャ‼
「カント婆さん、ヒナは…オゥフッ⁉」
「何じゃゴメリ、藪から棒に。鼻血まで出しおってからに…」
ゴメリは日向子の衣装に思わず鼻から流血してしまったのだ
「…これを持って来たんだぁよ。娘の服じゃから着られるかもってな」
「ゴメリさん、ありがとう」
「ええって事よ。今着とるのは早く脱げ?男共に襲われても文句言えないだよ?」
「あ…(///」
日向子は胸元と太もも辺りを手で覆い頬を赤らめる
「オゥフッ‼ん、んじゃカント婆っちゃ、頼むの」
ゴメリは鼻の穴に指を突き立てながら帰って行った
「やっぱりこっちでもこの衣装は過激だったんですね?」
「あっははは‼まぁ男漁り用じゃからの」
カントは悪びれずにそう言い放つ
「着替えますっ(///」
ゴメリさんの持って着た服は普通のワンピースだった