299 事務員さん大募集
神獣運輸の経営が日向子から離れシルグからドラコニアでの宰相を引き受ける事を告げられ大泣きした翌日、日向子達は復旧した執務室で顔を突き合わせていた
「うーん、ただの事務員さんとは違うし人選は難しいわよねぇ」
『そうだな…信服のおける者でないとおちおちドラコニアにも戻れぬ』
《でも…領主に近い権限を持たせても欲を出さず領民の為に働いてくれる上に俺達とも敵対しないなんて人、いますか?》
「《『…う~~ん…』》」
シルグは宰相職を頼んで来たワイトに条件が揃わぬ限り引き受けない、ときっぱり宣言していた
その条件は先程キメが言った内容である
あくまでも主である日向子の支えになる事がシルグの望みなのだ
それを割いてまでワイトに助力する義理はないがシルグはワイトの父には恩義を感じていたのだ
キメはキメなので日向子がいれば何だろうが何処だろうが関係ない
だが事務系が壊滅的に不得手なのだ
そこで浮上した事務系急募は要件が微妙過ぎてどう募集をかけたら良いモノか、これで躓いている
「…ふぅ~、一旦休憩しましょ?」
『うむ、そうだな』
《じゃあ俺は食堂で昼飯を貰って来る》
根を詰めても纏まらない時は纏まらない、日向子は気分転換にゴルドの街中を散歩する事にした
久しぶりに歩く街中は復興がより進んで以前より活気が出たと領民より喜びの声が届いていた
産業革命による雇用の促進は領民達の生活基準を大幅に向上させていたのだ
今では新しく転入してきた住民達も増えそれに伴い商店等も増えている
「らっしゃーい‼焼き肉串はどうだい?美味しいよー‼」
匂いに誘われつい買ってしまった串焼きもタレが抜群でとても美味しい
領民達の笑う姿を眺めながら歩いていると何かの行列に出くわした
「あれ?これって…」
その行列は一軒の怪しい館に伸びていた
【霊能の館】
それはラクルの兄、ドラク(改めドラ)が営む口寄せ(イタコ)で死者の言葉が聞けると評判の店だった
そういえば最近忙しくてドラの精神状態をチェックしていなかった
(たまには顔見せに行こうっと)
日向子は列の最後尾に並んだ
「うぅ…お母さん…」
「良かった、苦しまなかったみたいで…」
館から出て来る人達は故人との再会に泣きながら出て来る
カランコロンカラ~ン♪
〈いらっしゃ…おぉ、日向子殿ではないですか。お久しぶりです〉
ドラ(ドラク)は日向子を見掛けるとにこやかに挨拶した
「ドラちゃん元気?」
〈えぇ、ご覧の通り。それで今日は何用で?〉
「あ、うん。たまたま通りがかったからね、顔を見にきたのよ。それにしても大繁盛ね」
〈えぇ…ゴルド領内は目覚ましい復興を遂げていますが人の心は未だに癒えてはいない様ですね
…私が奪ってしまった命の償いは出来ませんがせめて心の支えにでもなれば、と思っています〉
「そっか…そうだ、折角会えたからちょっと体調チェックさせてね?」
〈どうぞどうぞ、あ。少々お待ち下さい、店を閉めますので〉
「え?ソコまでしなくても良いわよ?直ぐに終わるし」
〈あはは、私の能力の限界でもう寄せる事が難しいので丁度良かったんですよ〉
ドラは並んでいるお客にお断りと割引券を渡して店を閉めた
「割引券って…確か元々激安で受けてたわよね?大丈夫なの?」
ドラは立ったついでに紅茶を淹れて日向子に差し出した
〈えぇ、食費もかかりませんので消耗品位にしかお金は掛からないんですよ〉
「え?そうなの?」
〈はい、お客様のご要望を叶えるにはお客様のオド(生気)を頂かないとなりませんので…必然的にそれが食事になってます〉
苦笑いしながら紅茶を啜るドラ
「そっか、まぁあまり無理をしない様にしてね?じゃあ右手を出して」
〈はい〉
日向子はドラの右手に触手を這わせるとバイタルチェックを始めた
「ん…体調面は何の問題もないわね…あれ?ドラちゃんもしかして…」
日向子は苦笑いしているドラの顔を見上げた
〈お気付きになりましたか?日向子殿から受けた精神支配は既に解けております〉
「…気付いてたんだ?」
〈はい、まぁ偶然ではありますが…しかしあの切欠がなければ素直になる事は出来ませんでした
権力争いに巻き込まれそれが当然だと教え込まれ…私も実権を握るのが当たり前だと思っていましたが…本当は花を愛で自然と共に穏やかに暮らす、
ゆったりとした生き方がしたかった事を日向子殿に思い出させて頂いたのです〉
「そうなんだ…まぁとにかく良い方向でまとまって良かったわ。少し心苦しかったのよ、無理させてるんじゃないか?ってね」
〈ははは、それはそれは…〉
「さぁて、帰って事務員さん探ししなきゃ‼」
〈?…事務員さん…ですか?〉
「えぇ、今領内の書類が山積みでね。処理が追い付かないのよ」
〈成る程…その事務員とやらに私も立候補しても宜しいですか?〉
「えっ?ドラちゃん毎日忙しいんじゃ?」
〈はい、お陰様で。ですが力不足でこうして途中で店を閉めざるを得なくて空いた時間に副業しようかと思っていたのですよ〉
ひょんな所から事務員候補を発掘した日向子は執務室でシルグ達に怒られる前にこの偶然を報告して
「プラプラしてたんじゃないもん‼人材をスカウトしてたんだもーん‼」
と言い切り二の句を継がせなかったのであった




