295 照らし合わせ?
日向子が開いたサプライズバーベキューパーティーも大好評を収め日向子達は完全にファングファミリーに溶け込んでいた
ファングはお礼にと日向子に様々な魔法を教えてくれた
竜族に伝わる魔法は所謂アンシェントマジック(古代魔法)と呼ばれるモノで日向子の感覚で言うと魔法の素と言った感じだった
原始的、と言うと語弊があるがアニメで見たレベルや詠唱難易度による威力の差異と言う区分けではなく込めるエネルギーにより威力や出力形態が違う、という感じだ
「今のはメラゾーマではない…メラだ」というセリフがドンピシャな表現で日向子とキメ、同じ魔法を使っても威力が全く違っていた
威力負けして悔しそうにしているキメをファングは「コイツ何地団駄踏んでんの?」と日向子に聞いて来たが
「フッ…坊やだからさ…」と得意気に言い放ちファングを更に混乱させていた
一応社会人として立派に働いていた日向子がアニメ脳全開になる位魔法というワードは魅力的なのである
1週間程でファングの知る魔法をマスターした日向子はツヴァイ王から報酬として貰った数冊の本を取り出した
【基礎から始める魔法】【魔導教本】【あなたの知らない大魔法】…という要は近代(?)魔法書である
ツヴァイ王~ファング迄のイベントが連続して発生していた為にページを捲る程度で我慢していたのだが今なら心置きなく読める
人間覚えたら実践したくなるのが本性、街中で実践して失敗でもしようモノなら犯罪者になってしまう為に我慢していたのだ
日向子達が本を片手にブツブツ言っているとファングがヒョイ、と置いてある本を拾って読み始めた
『…へぇ、人族の使う魔法は面倒臭そうなモノばかりだなぁ…こんなモノ加減1つでどうにでもなるだろ、普通』
ファングはサラッと氷を出し塊を大きくしたり小さくしたりしている
「あはは…それは多分人間という生き物の知恵なんですよ、きっと」
『ん?どういう事?』
「例えば魔法によって生み出される現象1つを(こう念じればこんな風に出る)というざっくりとした表現ではなくて
(この過程を経てこれだけの力加減を加えるとこの程度の威力で魔法が出る)と言う風に細分化して記録しておくんです。
そうする事で全く知らなかった人でも過程から発現迄をイメージしやすくなるんだと思うんですよ」
『うーん…そんなモンか?』
「まぁそんなモンです」
ファングにはいまいち伝わらなかったが先程同じ魔法なのに日向子とキメの出した威力に違いが出たのが良い例であった
感覚のみで習得するとどうしても性能にバラつきが生まれてしまう
それは出力する側の感覚が一律ではないからで同じモノを食べても味の評価が違うのと一緒なのだ
魔法書に記されている過程、手順を踏めばそのバラつきを最小限に抑える事が出来る
要はレシピ集である
人間の強さは此処にあるのだと日向子は考える
1つの強大な魔法よりも数百・数千の弱い魔法を寄せ集めソレに打ち克つ
これが出来るからこそ人族が世界中に生息域を広げる事が出来た理由なのだ
これは魔法に限った事ではなく全ての面に於いてである
人1人では打ち克つ事が出来る内容などたかが知れている
1人より2人、2人より3人と克服出来る迄力を合わせ打ち克つ事が出来るからこそ人間は生態系の頂点に辿り着けたのだ
…最近全く読書をしていなかったからだろうか?思わず哲学的な発想をしてしまった日向子は自嘲していた
話は横道に逸れてしまったがツヴァイ王から譲り受けた書物によってキメの魔法出力が日向子のソレに近づいた
勿論個体差による疲弊度や発現までのタイムラグは出るがきちんと手順を踏む事で威力が増大したのだ
ファングはその威力を見てしきりに感心していた
『ほー、面倒臭いと思っていたけど成る程ねぇ…よっしゃ‼早速リリー達の修行にも取り入れよう‼』
人族の勉強法を取り入れたファングの指導によってファングファミリーの魔法レベルが格段に向上したのは言う迄もない
そんなこんなで日向子達がファングファミリーの根城に迎えられてから1ヶ月が過ぎた
そろそろ旅も終わりにしないとゴルド領で日向子の代わりに頑張っているシルグや神獣運輸のスタッフ達にも申し訳が立たない
そこで日向子は旅の締めくくりと称して南半球で知り合った人々の下へ行き挨拶してから帰る事にした
ツヴァイ王やアーチ王、ゴスピアやデスピアで知り合った人々
お世話になったトルル村の人達、覚えている限りの人々を空間移動しながら別れを告げていく
「またいつでも来いよ‼」
「グスン…」
「奢ってくれんのか?」
挨拶をした人達の反応は悲喜こもごもであったが皆再会を期して快く送り出してくれたのであった
『空間移動もあるしいつでも会えるからなっ‼』
ファングも強めの発言とは裏腹に目には涙が溜まっている
「それじゃまた来ます‼」
《お世話になりました》
ファングファミリー全員が見送る中、日向子達は北半球ゴルド領に帰宅した
涙脆い日向子のせいか到着場所に誤差が生じキメと二人でバンパイア領にいた始祖の真上に飛んで滅茶苦茶怒られたのはご愛敬である




