291 ファングと愉快な仲間達 part2
恐らく東京ドーム程はあろうその空間はがらんどうの様に見えるがこんな巨大な建造物に柱がないと言うのは余程の建築技術がないと天井は張れないだろう
事実天井を見上げると湾曲した柱や梁が組み木細工の様に組んであった
感覚で言うとホームベースから外野のフェンス位の距離の先に一段高い台が置かれており、ソコに数名の人影と大きな椅子が置かれているのが見える
案内役の竜はスタスタと台の方へ歩き日向子達はその後に続く
数分後、漸くその台の近くに至りソコに用意された椅子に座る様に指示された
『ファング様はじきに参られますので少々お待ちを』
案内役の竜は台に向かって一礼すると下がり、代わりに横から別の竜が現れ日向子達に茶を出してくれた
日向子は出されたお茶に口をつけると感嘆の声をあげた
「これ、緑茶だ‼美味しい‼」
この世界に来て初めて味わった緑茶に日向子は思わず嬉しくなってしまった
『お褒め頂き光栄です。このお茶はファング様がこの里にもたらした一品です』
どうやらファングが来る前は緑茶が無かったらしい
同じ茶葉でも加工方法が違う緑茶はあまり普及していなかったのだろう
日向子が緑茶を十分に堪能していると台の奥が騒がしくなった
『何?我に会いに来た人族が来ているだと?…そんな奴いたかな?』
声が大きいので丸聞こえである
ドスドスドスドス…ドサッ
『よお‼…って誰?』
台の上にある大きな椅子にドサッと座った人化した竜は人懐っこい挨拶をしたが怪訝な顔をしている
日向子も同じく怪訝な顔をしている
何故ならばその人物は真っ裸にガウンを羽織り胡座をかいて椅子に座っているからだ
一段高い台の上、更に椅子に腰掛けているせいで胡座した足の付け根にある「モノ」が丁度日向子の目線の水平線上にぶら下がっている
日向子の視線を知ってか知らずかその人物は気にせず話を続けた
「で、誰なの?」
真っ赤になって目線を外している日向子に代わってキメが自己紹介を始めた
《ファング様初めまして。俺はキメと申します。此方は主の日向子、風のシルグ様からの依頼で北半球からファング様の安否を確かめにやって参りました》
キメの言葉にファングは驚いた様子で日向子達を見る
『何?北半球からか?どうやって南半球に来たのだ?』
ファングの問いにキメは例の境界線の話、洞窟の話をする
一通り聞いた後、ファングは驚いた様子で日向子達を労う
『そっかぁ…そんな苦労をしてまで俺を探しに来させるとは…シルグも酷い奴だな…』
《あの、ファング様はあの洞窟から越えたのではないのですか?》
キメは若干驚いた様子でファングに訊ねる
『ん?あぁ、そんな苦労しなくても「空間移動」すれば直ぐに来れるだろ?…確かシルグも使えた筈なんだけどなぁ…』
「。。。えっ?」
その言葉にビックリしたのは日向子だった
『ん?何だ、聞いてないのか?ラルドの馬鹿とオーシュは知らんがワイトとシルグは使えた筈だぞ?ってラルドとか知ってるか?』
「全員知り合いです…」
『お、随分顔が広いんだな‼若い身空で』
…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
《!!??あ、主っ!?》
日向子の体から物凄い密度の怒気が漏れ出していた
どうやら散々苦労して越えたあの境界線の日々はムダだったのだと気付かされたからに違いない
『に、人間の癖に何ちゅうオーラ出してんだ?…凄ぇな…』
ファングが気圧される程の怒気は近くにいた竜達を圧倒し更には建物の外に控えていた竜達にも届いていた
『ファ、ファング様‼ご無事ですかっ‼…って…ぐわぁっ!?』
人化を解き突入してきた外の竜が日向子の怒気に触れ弾かれる
『お?大丈夫だ‼それより近付くと危ないぞ?来なくて良いよ』
ファングは外の竜に注意を促すと日向子を諭しにかかる
『えっと…怒っている所申し訳ないがちょっと静まってくれるか?俺はともかく周りの竜がこのままじゃ死んじまうよ?』
「…えっ!?あっ‼ご、ごめんなさいっ‼」
…フッッ、
ファングの言葉で日向子は怒りを静めた
良く見るとファングとキメ以外は日向子の怒気に押し潰されたのかグッタリしている
「どどど、どうしよう⁉だ、大丈夫ですか⁉」
日向子はグッタリしている竜達の下に駆け寄り介抱を始めた
《…ファング様、申し訳ありません…主は決して悪気があった訳では…》
キメは日向子の不始末に対し土下座して謝罪していた
『あはは‼面白い奴だなぁ‼キメとか言ったか?お前も謝らなくても良いよ‼』
日向子のやらかしで説明も滞ってしまったがファングは日向子を気に入った様子だった
倒れた竜達を必死に介抱する日向子は持って来たウシャ爺謹製回復薬を飲ませた後に別棟にあるという寝所に運ぶ手伝いをした
ハプニングのせいで話は中断したが好意的に迎えられた日向子とキメはファングファミリーの里で泊まる事を許されたのであった




