290 ファングと愉快な仲間達 part1
日向子達は現在ファングファミリーの根城に向かい飛行していたが縄張り荒らしと誤解され、現在竜達が日向子達の元に接近中だ
「あ。やっぱり警戒されちゃうかぁ~…キメちゃん、どうしよっか?」
《まぁこのまま接触して俺が話をつけるさ。主はなるべく竜達を傷つけない様にしておいてくれ》
「…何よ?私が何でもかんでも暴力で片を付けてるみたいに聞こえてるんだけど…?」
日向子から漏れた怒気にキメは気付かないフリで前に出た
妊婦竜さんもそうだがファングファミリーはどうやら東洋竜タイプの群れらしい
翼はなく体を蛇の様にくねらせながら飛ぶ姿は日向子にとっては親近感がある動きだ
「…坊やぁ~良い子だねんねしなぁ~♪」
《!?…何故いきなり歌いだした?》
「…ちょっとね」
日向子の脳裏には金太郎タイプの前掛けを着けた子供が竜の背に乗っているアニメが浮かんで思わず口ずさんでしまったのだ
日向子は改めて歌い直し、1コーラス歌い終わる頃には竜達は目前まで接近していた
ゴルアッ‼ガアァッ‼
竜達は日向子達を取り囲み臨戦体勢を取った
《ゴルル…ゴル?》
!?…グルル…グル。
(…グルルとゴルルで会話してたんだ…)
日向子は妊婦竜とキメの会話ではキメの言葉が聞こえていなかったがここに来て初めてキメと竜とのやり取りが聞けて納得したのである
《グル、ゴルル。グルッ》
…ゴルルル…ゴルル
どうやらキメと竜で話し合いが終わった様だ
《主、話しはついた。今からファングの下に案内してくれるらしい》
「そう、無駄な争いにならなくて良かったね」
若干上の空で返事をした日向子はウズウズしている
きっと竜語(の真似事)を話したくてウズウズしているのだ
ゴルル‼
竜達は踵を返し根城へと向かおうとしている所に我慢出来なくなった日向子がとうとうやらかした
「ゴルルル、グル?」
!!??
竜達が一斉に日向子に振り向き何故か首を振りだした
「え?もしかして会話が成立しちゃった?」
日向子は適当に真似をした竜語が伝わった事に喜んでいる
「で、私が言った竜語の意味って何だったの?何で竜達は首を振ったの?」
日向子は喜び勇んでキメに訊ねる
《…聞きたいか?》
キメは呆れ顔で日向子に問う
「勿論よ‼私何て言ったの?」
キメはため息と共に日向子の発言を翻訳してくれた
《「私はイカれビッチ、誰か遊ぼ‼」と叫んで竜達に拒絶されていたのだ》
「。。。え?」
突然竜語でビッチ宣言した日向子に竜達は(可哀想な子)を見る様な哀れみの視線を向けていたのだ
「…キメちゃん、後で竜語教えてね…」
《ああ、それは構わないが先程の様に見よう見まねで先走るのは止めてくれ。話が拗れるからな…》
キメの正論と自業自得だがイカれた発言にぐうの音が出なかった日向子は根城に到着するまで無言で飛んでいたのであった
竜達が降下を始める頃にはファングファミリーの根城の全容が眼下に見えてきていた
大岩の麓に簡素ではあるが民家が数十件程集落を形成している
その奥には大岩に穿たれた洞穴の様なモノが見える事から恐らく人化した時は手前の集落で、竜化した時は奥の洞穴で生活しているのだろうな、と推測していた
…ゴルル
《此処で降りろと言われている》
日向子達は竜と共に集落の入り口に着地すると竜達は人化して挨拶をした
『ようこそ、旅の人。』
「あ、ご丁寧にどうも」
日向子は竜達にペコリ、と頭を下げた
『ファング様の所に案内しますのでどうぞ此方に』
竜達は流暢な人語で日向子とキメを案内する
集落の空き地では竜の姿をした子供と人の姿をした子供達が一緒に遊んでいて微笑ましい
『あの幼さだと上手く人化出来ない子もいるのであんな感じなんですよ』
日向子が微笑みながら眺めているのを見て案内役の竜がそう教えてくれた
「いつから人化を覚えるんですか?」
『そうですね…早い子供だと生まれて直ぐに人化しますが遅い子だと百年経っても苦手な子はいますね』
まぁ人間とは時間の感覚が違いすぎるからだろう
百歳を「子」と言ってしまう辺りが長寿種族らしい
どんな種族でも無邪気に遊ぶ子供達は可愛いモノだ
日向子は竜の子供達がじゃれ合う姿をホッコリしながら観賞しつつファングのいる場所へと向かったのであった
案内役の竜が日向子達に制止を求めた
その先にある建物にファングがいるのだろう
「ふぁー、大っきい…」
洞穴の手前にあるその建物は集落の建物とは違いかなり大きな造りをしていた
造りの大きさから言って竜がそのまま入っても問題ない広さなのだろう
ちょっと神社っぽく見える建物の正面の大扉に向かって案内役の竜が竜語で何かを言っている
…ギギィィィ~…
すると大扉が内側から開け放たれた
日向子達は案内され建物の内部に招かれる
「え?これ一部屋なんだ?」
内部に入って直ぐに日向子は驚く
社殿造りに似た建物の内部は柱一本もない大広間だった
荘厳さすら感じる建物に日向子は目を奪われていたのだった




