286 情報集めの日々
何だかんだ言いながらツヴァイ王とヒルダの仲を取り持ってボルピアに戻って来た日向子
今回の依頼の旅は余白が多過ぎて困っちゃう…と言いながら依頼要件も本人の意図しない所で解決してしまっている
《…主は素晴らしい女性だな》
ボルピアの宿屋近くの酒場で二人だけのお祝いの席でキメは日向子の行動に最大限の賛辞をした
「…ありがと。誉めてくれるのはキメちゃんだけよ?」
世話好きな性格の為にあれやこれやと世話をやいてしまう日向子
その結果に感謝する人は多いが過程を誉めてくれる人は少ないのだ
「あはは…何か湿っぽくなっちゃったね、よーし‼今日此処の飲み代は全部私持ちねー‼皆じゃんじゃん飲んで楽しく騒ぎましょーっ‼」
杯を高々と上げて宣言した日向子を訝しく思っていた冒険者や呑兵衛達は「驕り」の言葉に一気に歓声を上げた
「ヒューッ‼姉ちゃん太っ腹だぜ‼」
「俺達も姉ちゃんの前途に乾杯‼」
「くぅ~‼俺もあの位気っ風の言い事やってみたいぜ‼」
その夜突然始まったどんちゃん騒ぎは騒ぎすぎて数名の逮捕者が出る位盛り上がった
その主犯格?である日向子は宴の途中で駆け付けた衛兵に捕縛され詰所でこんこんと説教される羽目となった
ー翌朝ー
「もうあんな騒ぎを起こすなよ‼」
「…はい、ご迷惑をおかけしました…」
しょんぼりと肩を落としトボトボ詰所を出て来た日向子を腰に手を当てて迎えるキメ
《…主…羽目を外し過ぎだぞ》
「…はい、ご迷惑をおかけしました…」
一晩中壊れたテープの様に繰り返したのだろう、迎えに来たキメにも同じ謝罪を繰り返す日向子
《危うく騒乱罪で投獄される所だったんだぞ?アーチ王から貰ったカードで何とか誤魔化せたけどな》
「…はい、ご迷惑おかけしました…」
《。。。》
「。。。」
はぁー…とキメは大きなため息をついて項垂れている日向子の手を引いた
昨晩の乱痴気騒ぎはあっと言う間に一部の男達に広まった
主に酒場に入り浸っている冒険者や荒くれ者、呑兵衛達に大好評である
翌日から数日は反省と称して酒場に行かなかったのが逆効果となってしまった
ファング捜索の手掛かりを求め多種族が利用する酒場に日向子達が立ち寄ると
「おい…あれって例の「姉御」じゃねぇのか?」
「…絶対そうだよ…あのナイスボディ、後ろに控えるいかつめの男…噂通りだぜ…」
等というヒソヒソ話があちこちから聞こえて来る
「(…ねぇ、ナイスボディって私の事かしら?♪)」
《(いかつめの男…俺の事か…?)》
喜怒が二分した面持ちでファングについて聞き回っているとへべれけに酔ったならず者が日向子にちょっかいをかけだした
「よぉ、姉ちゃん。オメぇ今巷で噂されてる「姉御」じゃねぇのかよ?なら酒の一杯も奢ってくれや」
…ピクッ…
「…え?誰ですか?「姉御」って。その人はきっともっと美しくて優しい聖母様みたいな人ですよ?人違いです」
適当に躱そうとした日向子にならず者は更に絡む
「ん~?んな調子言い事言って逃げるんじゃねぇよ‼このアバズレがっ‼」
…ピキキッ…
「…アハハ、オジサンオサケノミスギナンジャナイデスカ?」
「ああん?このメス豚が何言ってやがる‼良いから黙って酒を奢りゃ良いんだよっ‼」
。。。シュッッ‼
絡み酒の過ぎるならず者がとうとう日向子の肩を掴んで暴言を吐いた瞬間、糸の切れた操り人形の様に縦に崩れ落ちた
「て、てめえっ⁉俺のツレに何しやがった‼」
どうやら床でノビているならず者には仲間がいた様だ
「エッ?コノヒトハカッテニヨイツブレテタオレタダケデスヨ?アハハ、コンナカヨワイジョセイニナニカデキルワケガナイジャナイデスカ?」
日向子の口から出て来る音はまるで抑揚のない機械の様だった
《お、おい主‼…証拠が残らん様にな…》
横にいた「いかつめの男」は説得を諦めて少し離れた
「さっきから何ごちゃごちゃと言ってやがる‼良いから金を出しなっ‼」
。。。シュッッ‼ゴッッ‼
…ドサッ、ドサッ…
最初に倒されたならず者の仲間は日向子に近付いた途端同様に声を発する事も出来ずに崩れ落ちた
。。。
一瞬その場にいた全員から殺気とも怒気ともとれる気配が漂ったが次の瞬間、日向子に浴びせられたのは称賛と歓声の嵐だった
「ヒューッ‼やるねぇ‼」
「こいつらいつもカツアゲしてる様なクズだったんだ、天罰さ‼」
「ささ、こっち来て一杯やりなよ。奢るぜ‼」
誰かが通報したのか衛兵がすっ飛んで来たが捕縛されたのはならず者達だけだった
酒場にいた全員が
「そのならず者達は酔っ払ってか弱い女性に絡んで金をせびり、酔い潰れて勝手にぶっ倒れた」
と証言したからだ
衛兵達がならず者達を店から連れ出すと騒ぎは一気に最高潮に達した
チヤホヤされて悪い気はしない日向子は再び「無礼講祭り」を宣言し、どんちゃん騒ぎが開始された
翌朝、詰所からトボトボ出て来るうら若き女性とそれを迎えるいかつめの男が目撃された、とかされないとか噂がたったがその噂の真贋は未だに謎である




