284 懐かしい風景
謁見の間の隣室で日向子から報告を受けたツヴァイ王は彼女の境遇に俯き、日向子もまた報告の仕方に失敗感が募って押し黙る
その静寂を破ったのは他でもない、ヒルダ本人だった
「お久しぶりです、王様…」
スカートの端をつまみ軽く会釈をするヒルダを見てツヴァイ王は更に打ち震えた
「そ、そんな他人行儀な…ヒ、ヒルダ殿、美しい名だ…さ、さぁ此方へ‼」
ガッチガチに緊張したツヴァイ王はギクシャクした動きでヒルダをエスコートし、椅子に座らせる
「ヒルダさん、お加減は如何ですか?」
日向子はヒルダの容態を気遣い声を掛けた
「え、えぇ…空を飛んだのも初めてだったので…体がビックリしちゃっただけですよ。心配してくれてありがとう」
ツヴァイ王も早くヒルダと話したくてウズウズしている
「それを聞いて安心しました。では私は一旦下がらせて頂きますのでお二人でご歓談下さい」
「ま、待て‼ひ、日向子も居ても差し支えはないのだぞ⁉」
「私は人の恋路に邪魔をする程酔狂じゃありませんよ?どうかお互いの想いを大切になさって下さい」
日向子は不安で縋りつきたそうなツヴァイ王に一礼してさっさと部屋を出た
「はぁ~、あんな所にいたら息が詰まっちゃうわよ…」
廊下で大きく伸びをしてたまたま通りがかった兵士に何処か時間を潰せる様な場所がないか訪ねるとそれなら、と中庭を勧められた
教えられた通路を進むと突然目の前に英国風の庭園が姿を現した
手入れの行き届いた芝生や刈り込まれた庭木、小鳥達が集う噴水などのんびりとした時間を過ごすにはなかなか良い雰囲気だった
日向子は庭に置かれたベンチに横になると空に浮かんだ流れる雲をぼんやりと眺めている
(…そう言えばこんなまったりとした時間を過ごしたのって久しぶりじゃないかしら…)
雲を追って視線を動かしていたつもりだったがいつの間にかその瞼は閉じられていたのだった
。。。
(…あれ?…此処は…?)
ふと目を開くとソコは公園だった
ゴスピア城の中庭…ではなく前世で訪れた事のある普通の公園。
日向子はその公園のベンチで寝転んでいた
(何故?)
日向子はスッと身をお越し周囲を見渡した
ブランコ、滑り台、鉄棒…そして公衆トイレ
この公園は日向子が生前たまに訪れていた所だった
看護師として忙しい日々を過ごしていた日向子はオペ看になってから更に多忙を極めてていた
シフトにより表向きは休みが取れている様にはなっていたが仲間の都合でシフトを変わったり
休みにはオペ看としての知識を高める為に病院に行って先輩オペ看達のスムーズな所作を見学させて貰ったりと予定通りには休めなかった
そんな中、たまたま訪れる本当の意味での休日
土壇場でポッカリと空く時間に友人や知り合いで都合がつく人間なぞ滅多にいない
そんな時、日向子はこの公園のベンチで今と同じ様に雲を眺めていたのだった
「…向子様、…日向子様」
誰かが自分を呼んでいる声が聞こえて日向子はバッ、と身を起こす
「…日向子様、王様がお呼びです」
中庭で寝ていた日向子を見つけて侍従が呼びに来ていたのだ
日向子は「うーん…」と伸びをすると促されるままにツヴァイ王が待つ部屋へとついて行った
(…夢、か。懐かしい様な切ない様な…どうせ見るなら楽しい思い出を見せてくれたら良かったのに…)
楽しい思い出?とふと考える
日向子がこの世界に転移する前の数年はオペ看として看護師として多忙な毎日を過ごしていたが
楽しい、と思える思い出がなかなか出て来なかった
楽しい思い出…それはこの世界にやって来て出会えた人々、魔物、神獣達とのふれあいの方が沢山思い出せる
(私、充実した日々を送っているのね…)
ふふっ、と笑って侍従に不思議そうな目を向けられながら扉をノックする
「日向子です、入ります」
日向子が扉を開けると対面で座る二人の姿が見てとれた
(良かった…対面で)
横同士で座られていたらちょっと気まずいでしょ?こんな時は。
しかしヒルダの目は泣きはらしていたのか赤かった
「王様…」
ツヴァイ王は慈しむ様にヒルダを見つめ何処と無く神妙な面持ちだった
(…もしかして…お互いの都合で離れ離れに?)
となると横同士に座られていなくても気まずい
日向子は逃げ出したい気持ちをグッと堪えてヒルダの横に座った
「…で、どうなったのでしょうか?」
そう言ってツヴァイ王の方を見ると膝の上に置かれた両手はブルブルと震え全体からは何かを固く決意した様な雰囲気を醸し出している
(あ~~~…ヤだなぁ…ダメだったのかなぁ…)
…ガタッ‼「ひ、日向子殿っ‼」
「は、はひぃっ⁉」
「よ、余はこの度ヒ、ヒルダ殿を余の正妻に迎え入れる事を決意したっ‼
ひいては余等を引き合わせてくれた日向子殿に介添人をお頼みしたい!返答は如何にっ⁉」
ツヴァイ王は日向子に詰め寄った




