278 救世主伝説の誕生 part2
約1年前、呪術者集団にとある依頼が舞い込んだ
「デスピア国を襲い国王以下城にいる全ての人間を滅ぼせ」
通常であれば即座に断る依頼だが依頼主は成功した暁には術者集団に破格の待遇と法外な報酬を確約した
報酬はいずれにせよ集団の長はその破格の待遇に惹かれた
「無事デスピア国を乗っ取った暁には貴下一族を王宮唯一の宮廷魔導師の地位を与え永年の加護を約束する」
呪術という世間から疎まれ蔑まれる世界に生き、常に世間の闇に潜んでいた一団にとって
表舞台に踊り出る千載一遇の機会である
闇の盟約により自らに呪いを背負う運命に生きてきた長にとっては報酬よりもその待遇が何よりも眩しく思え、二つ返事で依頼を受けたのであった
初撃は奇襲したせいで大成功に終わる
依頼主から受けた情報で城内でパーティーが行われ警戒も緩くなると分かっていたので
ラプトルを使ってかなりの数の被害者を生み出したのだ
それからは一方的な襲撃を幾度となく行いあと少しで目的も達成出来るとほくそ笑んだ
状況が膠着状態に陥ったのは今から数ヶ月前の事だった
周辺に展開していたデスピア軍が何故か城周辺を固め籠城の構えを見せたのだ
それまでは国外から使役した魔物に襲撃させると討伐に向かっていた軍が城周辺から一切動かなくなってしまったのだ
理由は分からないがこの籠城戦で城内の襲撃が困難になってしまった
撹乱をしようと城下町を襲わせたが軍は住民達の悲鳴に耳を貸さなかった
動かない軍に住民達も外出を控え街は人1人いなくなった
そんな膠着状態を打破したのが先程の事件、城の周辺にいた兵士が一瞬で組伏せられた
そしてその直後城内も全て行動不能に陥ったのだ
この機を逃す手はない、長は総力戦を決意し使役ラプトル全軍を城に向かわせたのであった
だが結果はどうだ?
千里眼・鑑定眼を持つ配下達の口からは信じられない報告が続きラプトル全軍を失ったと報告された
「な…何だ‼一体何が起こっているのだ!」
長は天を仰いで運命を呪った
(太陽が落ちて来た)
長は最初そう思った
目を焼かんばかりの太陽の光から黒い点が生まれそれが物凄い速度で大きくなったのだ
「あっ!?」
そう思った時にはその黒い塊は術者の集団のど真ん中に落ちていた
土埃を上げて衝撃波が術者を襲う
木の葉の様に散り散りに吹き飛ばされる術者達
長は経験から防御壁を咄嗟に作り衝撃に耐えたが他はほぼ壊滅状態だった
「なっ、何が落ちて来た…!?」
土埃の中心に人の影がゆらり、と立ち上がる
女…女だ。
およそ戦闘には向かなそうな必要最低限を隠した軽装甲を纏いその両手には逆に無骨な剣がギラついた1人の女
たった一瞬、たった一撃で長が精根込めて育てた呪術集団が壊滅状態にされたのだ
「おまっ!?」
ギンッッ!
これは…バンパイアアイだ…
長は自らの呪術を極める為、過去様々な呪いをその身に受けて来た
あるモノは弾きあるモノは共生させ我が身に取り込む
その中にはバンパイア族固有の能力、バンパイアアイによる魅力、洗脳もあった
だが…今女から発せられるバンパイアアイはその比ではない
抗う事も自決すらも許されない、絶対強者からの呪い
長は自身の非力さを呪い意識を手放した
。。。
「キメちゃん、こっちは終わったよー‼」
《こっちも粗方片付けたぞ》
「じゃあアーチさん達に連絡して。終わったから安心して出て来て良いって」
《分かった。主は大丈夫か?》
「うん、でも…予想以上に人数がいるから運搬が難しいかな?」
《ならアーチ殿に頼んで荷馬車をそっちに持って行こうか?》
「あ、そうね‼じゃあお願い‼」
《了解》
日向子は抉られた大地に転がる大勢の人間を見てため息をつく
「あーあ、こんなにいるならそっと近付いて洗脳した方が良かったなぁ…」
やってしまった事は仕方がない、日向子は持って来た縄で1人1人縛り上げ始めた
ー30分後ー
「日向子殿ー‼って…えっ?」
キメに運ばれて飛来した荷馬車の上から日向子の身を案じて飛び降りたアーチとチャント
その目の前に累々と縛り上げられた呪術者集団に二人は開いた口が塞がらない
「…日向子…殿?こ、これは一体」
チャントは漸く言葉を絞り出した
「この人達が実行犯だけど…黒幕がいそうね」
「いや、そういう事じゃなくて…」
「?」
チャントはどうやったら一瞬でこれだけの数をほぼ無傷で無力化したのか、それを聞きたかったのだがそもそも日向子自身がその行為を大した事がないと思っているから意思の疎通が出来ていなかった
「…いいです…」
「あ、そう?」
チャントは諦めた。
日向子の顔がそんな事より黒幕が誰か?を探し当てるのに興味が移っている事に気がついたから…
日向子達の黒幕探しは今始まったばかりであった




