269 ゴスピア国王との謁見
トルル村からゴスピア迄はほぼ一両日の位置にある
早朝に出発し、翌朝には到着する距離ではあるが国王との謁見が主題な為に少し行程には余裕を持たせて移動していた
「一旦ゴスピア国に入り一泊してから王城へと参内する予定です。流石に旅の埃を落とさねばなりませんからね」
アーチは今後の予定を日向子達に説明した
日向子はその前に聞かされたゴスピア国王の血筋について考えていた
「ゴスピア国はスラストア共和国の分国で他の国も国王は代々スラストア共和国王族と決まっている
現在のゴスピア国王はスラストア共和国国王の実弟でスラストア王の祖先は竜と誼みを結んだ竜の末裔と言われている」
アーチの話だとこの国を統治している王族は竜の末裔と言う事になる
まぁ血統に箔を付ける為の虚言という可能性もあるがそれならばわざわざ魔物と血脈が繋がっていると吹聴する意味はないだろう
「竜族の末裔という話はいつ頃から言われていたんですか?」
「そうだな…建国当時から既に言われていたそうだから初っ端からなんじゃないか?」
「でも今は繋がりどころか竜自体がいないんですよね?」
「あぁ、何世代前だかの国王が竜族を魔物として排斥しようとしたんだと。
それで争いを避けた竜族は凍てつく大地に居を構え以降絶縁状態に…って話だった様な?」
どうやらスラストアと竜族の諍いは相当前から存在していた様だ
。。。
「よーし、ゴスピアに到着だ‼」
丸1日馬車に揺られ漸くゴスピアの関所に到着した
「これはアーチ様‼此度は何用で?」
関所の兵はアーチを見ると要件を尋ねた
「国王直々の召喚命令でな、此方のお二方をお連れせよとの事だ」
兵は兵舎に顔を突っ込み通行許可予定表の様な冊子をめくる
「あ。ありました‼ではここからは我々が…」
「いや、今日は一旦宿を取り明日改めて参内する予定だから気にしなくて良いぞ」
「分かりました。では一応その旨を城兵に伝達しておきます」
「宜しく頼む」
アーチの顔でほぼスルーした関所だが本来はもっと厳しく詮索されたり時間が掛かるモノらしい、と後でペロンから聞いた
ともかく無事入国を果たした一行は城に近い宿で一泊する事となった
宿がある地区は貴族や重鎮が住む地区にあり高級ではあったが面白味に欠け日向子には不評であった
翌朝、日向子達は王城の通用門を潜り謁見の運びとなった
城の内部は流石豪奢であったが日向子とキメは興味もなくペロンとワンドだけがキョロキョロと落ち着かないお上りさん状態になって近衛兵に注意をされている
謁見の時間が来る迄日向子一行は控えの間で待機させられる
「…ペロンさん、ワンドさん、もう少し落ち着きましょうよ…」
日向子が窘める程舞い上がっていた二人は置かれた調度品を1つ1つ吟味しては感嘆の声をあげていたのである
…コンコン、ガチャ
「日向子様、マイラ様、謁見の準備が整いました。皆様謁見の間にご移動願います」
(あー…堅苦しいの、嫌なんだよなぁ…)
日向子は北半球でも自分のペースで王様達に会っていたので久しぶりの堅苦しさに嫌気が差していた
「では向かいましょう」
アーチの号令で一同が謁見の間へと移動を始めた
謁見の間は王の威厳を示す為に一層豪奢な造りになっているのが常であるが此処ゴスピア城の謁見の間は現在の国王による改修でどちらかと言うと実務的に造り変えられていた
「トルル村、日向子様、マイラ様、トルル村村長ワンド様、トルル村ギルド長ペロン様、兵士長アーチ殿が参りました」
親衛隊の声で謁見の間の大扉が開かれる
アーチや日向子、キメにとってはさして緊張する要素はないがペロンとワンドにとっては一世一代のイベントだ
パントマイムでもしているのか?と思う位ギコギコと手足を動かしてアーチについて行くが
後ろからワッ‼と言ったら気絶しそうな勢いで緊張しているのが見て取れる
カッ、カッ、カッ
日向子達の中で唯一正式な甲冑を身につけているアーチの足音が大理石の床を鳴らしている
カッ、カッ…ザシャッ
「うわっ⁉たっ、たっ、ブゴォッ⁉」
ドシャッ‼。。。
「ワ、ワンドさんっ⁉」
アーチの後ろを歩いていたワンドは前を一切見ていなかった
国王を直接見ては不敬だと思う一心での事ではあるが
アーチが立ち止まり跪いたのに気付くのが遅れ前につんのめった
手を前で組みつつ歩いていたワンドは顔面から大理石の床にダイブ、気付いた時には床に血溜まりが広がっていた
「衛生兵‼この者を治療室へ‼」
親衛隊は冷静に衛生兵を呼びワンドを搬送させる
床に広がった血溜まりは侍従が直ぐ様拭き取ってしまった
「…トルル村兵士長アーチ、王のご命令により日向子殿、マイラ殿をお連れ致しました」
「うむ」
「先程搬送された者はトルル村村長ワンド、此方はトルル村冒険者ギルド長ペロンでございます」
「…そうか。ワンドと言う者は心配ない。治療班が対応しておるだろう」
「有り難き幸せ」
アーチと国王のやり取りを聞いて更に緊張してしまったペロンは真っ青な顔をしたまま小刻みに震えている
(…ペロンさん、具合悪いなら下がった方が良いんじゃない?)
日向子は小声でペロンに問いかける
(だだだだ、大丈夫てすよっ⁉)
日向子はペロンが倒れない様に見守る事にしたのだった




