263 日向子の素性
アーチは日向子の手を引いてカウンター奥にある部屋へと入った
「…日向子殿、お聞きしたい事がありますので此方でお待ちを」
案内された部屋はこじんまりとしているが反響音からして防音室の様だ
…コンコン、ガチャ
扉を開けて入って来たのは神妙な面持ちをしたアーチとギルド長ペロンだ
「…いやはや…大変な事態になってしまいましたな…」
訳も分からず連れて来られた日向子にとってクエスチョンマークが頭上に見えていてもおかしくない
「あの…やっぱりおかしいんですか?私…」
日向子は急に不安になったのかその瞳には涙が溜まっていく
「あっ⁉いやいや‼まぁ此処までではないにしろ前例がなかった訳ではありませんからっ‼」
ペロンは日向子の様子を見て慌ててフォローに入った
「…ステータスの表記はいずれにせよ先ずは種族の件について詳しくお聞かせ下さい」
さっきとは全然違う物言いでアーチは日向子に説明を求める
「えっと…どう説明したら良いんでしょうか?」
日向子はどう説明したら良いかが全く掴めていない
「そうですね…今までこんな種族属性は聞いた事がありません。魔物と魔族、人間とアンデッドが混在しているなどあり得ないのですが…判定で出た以上事実なんでしょう…ですが…」
あー、成る程。本来ならベースとなる○○族、と表記され以降は出ない筈なのに日向子の種族属性はえらい長い
これは種族を越えた存在の様に見えるのだろう、と日向子は判断した
ただこれを説明するとなるとなかなかに難しい
先ずはゾンビスタートという時点で魔物判定されかねないのだ
ソコで日向子は苦しい作り話をする事にした
「えっと…私は普通の人間だっんですけど…北半球で竜に襲われて食べられた後にゾンビになりかけたんですけど…その時丁度バンパイアに噛みつかれて…こんな感じ?で…す…」
もう自分で話していても無茶苦茶だ‼と分かっているので顔が真っ赤になりながらとにかく着地はした。
後はアーチやペロンの反応待ち。
異端児扱いされてしまったら強硬突破でトルル村を脱出、そのまま何処かに逃げてしまおう
俯いたまま反応を待っていたが一向に一言も返って来ない
(…いっその事バンパイアアイで洗脳しちゃえばこの場は切り抜けられるかな?
となったら今ギルド内にいる全員洗脳しちゃえばいっか)
日向子の気持ちは既に切羽詰まっているので超危険思考だ
だがいざとなればそれもやむを得ないだろう
「…分かりました。」
「えっ?分かって貰えたんですか??」
日向子はペロンの口から飛び出したまさかの言葉に驚きを隠せない
「えぇ。日向子殿は北半球から来られたお方ですし…ある意味理解の範疇を越えている、と言う事で落とし処にしましょう」
流石ドラ○もん、思考が柔軟だ
「…ギルド長がそう言うのであれば。…ただ日向子殿の種族は秘匿扱いにさせて頂きたい。
万が一漏洩すると混乱を来しかねないので」
「あ、はい。それで結構です」
(…ホッ、何とかなりそう…)
「それで…このステータス表記ですが…」
(…やっぱりこっちもか…)
「「∞」などと言う表記は恐らく世界初です。これも秘匿しないと混乱を招く恐れがあります」
「はい。…あ、でもそうなるとカードが真っ白になっちゃう…」
折角期待を込めて作った冒険者カードなのに秘匿事項がありすぎてまっさら状態なんて…
落ち込む日向子にアーチがこう提案する
「…これはある意味特権階級しか知らないのですが…貴族や王族の方々がカードを所望する時がありまして…
そういう時様に「ブラックカード」という特殊なモノを発行しております。
これは特別に身分や名前を秘匿せざるを得ない方用なのですが…国王に頼んで発行許可を貰える様に手配します
…これで納得して貰えるだろうか?」
「…えぇ、私は事を荒げるつもりは一切ありませんので宜しくお願いします」
「ではマイラ殿のカードもブラックカードとさせて頂きます。北半球ではどうかは分かりませんが流石にキマイラ種がカードを持つと…」
発行元であるギルドでは秘匿事項も可視化されている筈
マイラが魔物という事も驚愕した事だろう
「…色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません…」
日向子は二人に深々と頭を下げる
「あはは、いえいえ。日向子殿の様に善良そうな方であれば事を荒げる必要性はないと判断出来ますからね」
ペロンは漸く硬い態度を解して笑顔になった
アーチも本来は気さくな人物なのだろう、元の柔和な表情に戻っていた
「しかし世界は広いですな、此方ではキマイラと言えば災害級の魔物ですし竜族等と言えば王族の血縁者かと…」
「ペロン殿!」
アーチはペロンを急に諌めペロンは「あっ⁉」と言った表情で口を塞いだ
(王族は竜族と関係が?)
これは今後調べる必要性がありそうだ…




