253 行きはよいよい
《はぁ…はぁ…あ、主、ちょっ、ちょっと待ってくれ‼》
キメは延々と続く登り階段にバテ気味だ
因みに日向子は息一つ切らしていない
「そりゃそうよね…途中何泊も挟む程階段降りて来たんだもん、次は同じ位登り階段があっても不思議じゃないわ」
同じ動作をずっと続けたせいか凝り固まった筋肉を解す様にストレッチを始める日向子
「まだ先は長そうだし一気に飛んじゃおっか?」
日向子達は飛べる事をすっかり忘れていた
《…主》
「ん?」
《もう少し早くソレを言ってくれ…》
「…あはは☆」
日向子はヘトヘトになったキメの為に近くの広場で夜営する事にした
マウ・エレファントの脂身がパチパチと焼けて行く中、日向子は調理を始める
今日は一夜干ししておいたマグロ擬きの切り身と硬いパン、島の森で摘んだ柑橘系と思われる果実だ
日向子が調理している間、キメは先程収集しておいた砂をマジマジと見つめている
「何か分かった?」
《ふむ…》
そう言うとキメは小瓶から砂を取りだしペロッと舐めた
「ちょっ、大丈夫なの⁉」
キメは一瞬難しそうな顔をしたが
《問題ない》
とあっけらかんと答えた
《砂についているのは塩の結晶だと思ったが…違うな。味はしない、ただ舌がピリピリする》
そう言うとキメは砂が接触した部分の舌を噛み千切りペッ‼と吐き出した
…シュウシュウ…
唾液の水分と反応したのか砂は先程よりも激しい音を立てながら舌を干からびさせる
「うーん…塩じゃないのか…」
グロい光景ではあるが既に見慣れていた日向子はさして驚く事もなく仮説を考えるのに必死だった
「そう言えば…前世の小説とかに出て来たなぁ…魔力結晶とか…」
《魔力…結晶だと?》
キメは日向子の口から飛び出て来た聞き慣れない単語に食いついた
「うん、まぁ架空のお話なんだけどね。魔法がある世界には魔素が満ちていて…
その濃度が濃い地域には魔素を含んだ鉱物が出るのよ
それが魔力結晶とか魔鉱石とかね…そんな風に書かれていたわ」
《うーむ…主の世界は文明的にかなり進んでいたのだな。そんな研究迄していたとは…》
「あはは、研究というよりも空想、おとぎ話の世界ね。
今の私だってまさか死んでこの世界に転移するなんて思ってなかったわよ?
実際体験しちゃったからあながち嘘って断定出来なくなっちゃったしね」
日向子は燃え盛る焚き火に目を落として今の状況を思い返していた
「空想科学、確かこんな言葉もあったわね」
《それは?》
「うーん、説明するのは難しいんだけど要は(こんなのがあったら良いなー)とか(こんなモノがあれば便利なのに)っていう物や機械を想像するの。
それがヒントとなって後に実際商品化とかしたりするからバカに出来ないわね」
《ん。イマイチ分からん》
「あはは、でしょうね。…そうね、キメちゃんは何か欲しいモノとかある?」
《うーん…そうだな。ゴルド領内からの陳情書が多言語過ぎて解読に時間が掛かるから何か解消出来るモノがあると良いとは思っていたが…》
「あ、それ良いサンプルね。キメちゃんがこんなのがあれば便利なのに…と思っていたモノが実際具現化したりするの。それが空想科学」
《出来るモノなのか?》
「そりゃ現実的に出来るモノと出来ないモノはあるわよ?でもね、そう言う発想力が新しい技術や認識を作っていくのよ」
《…そう言うモノか…》
「うん、そう言うモノよ」
二人は焚き火の炎に目を落としてそれぞれの思いに耽っていく
日光が当たらない為に何となく一晩過ごし、いよいよ再出発となる
「じゃあキメちゃん行くよー」
バサッ、バサッ、バサッ、
日向子とキメは翼を広げ洞窟内を上へ上へと登って行く
階段を歩いて登るよりも遥かに早いペースで上昇はしているがそれでも尚出口が見えない
《門を潜ってからの方が高低差があるのか?出口が全く見えないが…》
「そうね…ちょっとこっちの方が階段も多いみたい」
出口の先に何が待ち受けているのかも不明なので念の為もう一泊を洞窟内で過ごし翌日再び飛び立って半日、とうとう頭上に光が差し込んでいる場所を発見した
《主、光が‼》
「うん、もしかすると出口かもね」
飛びながら会話を済ませつつ光の差す場所に辿り着くとソコは外界と繋がっていた
「やっと出られたわ…」
やはり高低差を感じたのは間違いではなかった様で出口は高い山の頂にぽっかりと口をあけていた様だ
「…綺麗ね」
日向子は眼下に広がる森が夕日に染まってオレンジに見える光景に見とれている
《主、とりあえず下に降りて夜営地を探そう》
「うん、そうね」
二人は出口付近の棚で休憩を挟み日が落ちない内にと森上空へと飛び立った
とりあえず探索は明日以降と決めて夜営地を探すと大きな川のほとりに少し広場が出来ていたのでソコに降り立ち夜営の準備をした
明日からはいよいよ南半球の探索だ。
日向子もキメも新たな冒険に昂ってなかなか寝付けなかったのだった




