251 地下に続く階段
ドドドド…ゴゴゴ…ゴガンッ‼
日向子達は洞窟内にある細い道を慎重に歩いている
《流石に魔物にも出会わないな》
洞窟内は轟音に包まれているせいか、はたまた境界線の影響なのかは分からないが魔物の気配は皆無である
「やっぱり昔話の人は此処を伝って帰って来たのかもね、所々削れてるけど歩く分には問題がないもの。」
先頭を行く日向子は昔話で帰還を果たした男の帰路を推測している
《となると問題はおかしな死因となるが…何が待ち受けているか分からないから注意しよう‼》
途中で用意していた松明が燃え尽きてしまった為、キメが先頭になって再び歩き出した
キメは額の形状を変えメロン器官を生み出した
これによりキメはイルカ同様アクティブソナーを発揮し、暗闇でも問題なく行動が可能となっている
「へー、それ便利ねぇ。ちょっとおでこがアレなのが難点だけど」
日向子の目線の先にはでこっぱちになったキメが全方向に向けて注意を払いつつ進んでいる
(イルカだとでこっぱちになっちゃうけど…確かバンパイアってコウモリに化けられるわよね?)
日向子はバンパイア細胞も取り込んでいる為にコウモリをイメージして自分でもエコロケーションが出来ないか?と模索する
「あ‼ボンヤリだけど出来そう⁉」
周囲の轟音に遮られ音による反響定位は無理そうだが逆に周囲の反響音を利用する事で少しではあるが視界が開けた様な気がした
《主、これを使え》
キメが触手越しに渡して来たのはおそらく電気うなぎの遺伝子だった
《音の反響は無理だが電位反響ならハッキリ見える様になるぞ》
「えっと…これをどう使うの?」
日向子はイマイチピンと来ていない様だ
キメは日向子にお手本を見せるべく一旦休憩を取る事を提案した
…ビリリリ…チッ、チッ、チッ、
《こうやって一定の感覚で電流を飛ばしてその反響を拾うんだ》
キメは超音波代わりに電流での定位測定をしていたらしい
「成る程…こう…かな?」
…チッ、チッ、チッ、チッ、
「あ‼見えた‼」
先程までボンヤリとしていた視界が今はかなりクリアに開けている
(そう言えば前世の視覚障害でもクリック音でエコロケーションする方法があったわね…)
日向子はオペ看をしていた時の光景を思い出していた
たまたま通りがかったリハビリ室で視力を失った患者が舌打ちによるエコロケーションのトレーニングをしていたのだ
(普通の人間だって訓練すれば出来る様になるんだもん、変じゃないよね?)
遺伝子の直受け渡しや背中に生える出し入れ自由な翼、どう考えても普通とかけ離れてはいるのだが
日向子の中の何かの基準が取得したエコロケーション能力に羞恥心の様なモノを抱かせた
恐らく日向子の目の前にいるでこっぱちキメがその感情を助長させているのだろう
《さ、見えたなら先を急ごう‼》
キメは反響定位を教え終わると休憩を切り上げた
この先何処まで行けば良いのか全く予測がつかない
手持ちの食料で間に合うのかが不明な以上出来るだけ距離を稼ぎたかったのである
…ドドドド…ザザザァーー…
三時間程歩くと激流の音に変化が出て来ていた
次第に近付くその異変は日向子達を驚愕させた
「…階段?何でこんな所に??」
海水はゴウゴウと音を立てて流れ、その先にある滝から落ちて行く
疑問なのはその小脇、今歩いている道の先がまるで階段の様に下っている事であった
《…理由は分からないが都合が良いな、崖を伝う必要性がない訳だし》
誰が作ったのか、何の目的なのかは分からないがその階段は滝の流れに沿ってつづら折りに伸びている
日向子達は何者かの作為的工作物に警戒を強めながら進むのであった
ドドドドドドドドドドドド
相当な高低差を下って来た様な気がするが一向に終わりが見えない
「キメちゃん、とりあえず食事にしましょ?時間的にはもう夕食の時間よ」
日向子はキメに食事休憩を提案する
先が見えない以上何処か広場を見つけて夜営する事も考えなくてはならない
《そうだな、丁度此処は少し拓けているから夜営の準備もしようか》
キメはマウ・エレファントの脂肪の塊を着火剤代わりに手際良く火を起こした
視野が復活すると床に大量の骨が散乱しているのが見える
「…魔物だけじゃなくて人骨もあるわね…」
今は気配すらないがもしかするとこの洞窟は北半球と南半球を結ぶ唯一の通路なのかも知れない
果てしなく続く洞窟内であれば人も魔物も行き倒れになってもおかしくはない
狭い階段では休む事も叶わず、となればこうして多少でも拓けた場所が休息地に選ばれるのだろう
まさか永遠の休息地になるとは思っていなかっただろうが
「キメちゃん、毛皮とか薪代わりに出来ないかな?」
《出来なくはないが匂いがキツいぞ?食欲が失せる位にな》
我ながらナイスアイデア‼と思って提案したがきっちり返されて少ししょげた日向子であった




