25 神獣運輸、大繁盛!
「はい、他国への物資輸送ですね?それですと現在1ヶ月待ちとなりますが…」
ここは村外れに建てられた神獣運輸の事務所
あまりの繁盛ぶりに急遽雇った受付嬢のテロンさんが行列となっている依頼主達を捌いている
日向子とゴメリは依頼の為に日夜ニルやハク達を操り西へ東へ奔走していた
「1ヶ月後でも構わん、予約を頼む!」
「はぁ、ではこちらの用紙に必要事項をお書きになって列に並んで下さいね」
テロンは予約でも良いという依頼者に予約票の記載を促した
初めは物珍しさから依頼をされるパターンだったのだがそのコストパフォーマンスに気付いた商人が殺到しているのだ
通常、馬での輸送だと1週間は掛かる道程をハク達は2日とちょっとで往復してしまう
日数の短縮にも着目するが真の利点は輸送費のコストダウンにあった
一般では運ぶ為に必要な頭数の馬、荷馬車、道中の食料、護衛、護衛達の食料、
夜営道具又は宿泊費と利益を出すのには高額商品を積むか積載量を増やすかしかなかった
だが神獣運輸は護衛を必要とせず道程も短いので従業員の食料も少なくて済む
人件費と滞在費コストが5分の3を占める運送業にとって激安且つ安全なプランとなっていたのだ
「ふぅ、ただいまぁ~」
日向子は次の依頼の確認に事務所に戻ってきた
当初ペースが違う為に独立させたスレイプニルだったが今では少量の荷物を更に迅速に届ける
《特急便》として人気を博していたのだ
ニルの特急便はハク達が2日掛かる道程を半日で往復してしまう
更に手紙等の軽量物に絞れば数時間で往復可能だ
この為各国の密書や親書を運ぶメッセンジャー的な仕事がひっきりなしに舞い込んできていたのだ
「えっと…次はエレモス城から隣国のサルバ城へ親書の配達とその返事を持ち帰る依頼ですね、
あ、それとウシャさんが帰りしなにサルバの町の問屋から薬草を持ち帰る依頼もついでに」
「了~解‼じゃあ行ってきまーす‼」
日向子はニルに跨がるとエレモス城へど飛んで行った
「お待たせ致しました、次の方どうぞ~」
テロンは依頼者の行列を処理する為に再び業務に戻ったのである
ーエレモス城ー
「おぉ、日向子か?どうだ、商売の方は?」
王様は親書の受け取りに来た日向子に気付き訊ねる
「あはは…大繁盛どころか捌ききれてませんよ。それも王様のご配慮のお陰です」
「ワハハ、であるか。軌道に乗ったら人員を増やして事業を拡大するが良いぞ」
「それが出来れば良いんですけどね…使役させるスタッフとなると難しいし運べる車両(魔物)も足りていないので予約に対応出来ていないんですよ…」
「成る程な」
日向子の顔には明らかに疲れの色が見えていた
「おぉ、そう言えば日向子の下には魔物もおったではないか。それらを輸送業務につけてはどうだ?」
「それも考えたんですけど…やっぱり魔物を街中に出すのは住民達の不安を煽る結果にもなりかねませんしね」
「ふーむ…確かに魔物に家族を殺された人間もいるだろうしな…」
「あ!そうか!魔物じゃなければ良いのか!」
「ん?何か思い付いたのか?」
「はい!じゃあ早速ご依頼を済ませてから試してみますね!じゃっ!」
そう言うと日向子は一礼して城を飛び立って行った
ーその日の夕刻ー
「ただいまー、ちょっとウシャさんの所に行ってきまーす‼」
「あ、えっ?はい」
テロンは慌ただしく出て行く日向子の目的が分からなかったがとりあえず見送った
「…本当に良いのかの?」
「はい、シロ達にはきちんと了解を得ましたからね」
「うむ…ではこの薬を…」
ウシャ爺と日向子は何やらこそこそと薬の受け渡しをしていた
ー数日後ー
「な、何だべか?こりゃあ?」
ゴメリの驚く声にテロンと日向子が駆け付けた
「どうしたの?ゴメリさん」
「…シロ達が…シロ達が変態してるだ⁉」
元々短毛で筋肉質だった体が今では長い体毛に覆われフサフサしている。超ゴツいアフガンハウンドみたいだ
「あ、やっと効果が出たんだね♪」
「効果?」
「うん、ブルピットのままじゃ恐怖心抱かれて配達とか出来ないからね、シロ達と相談してイメチェンしたの」
「イメチェ…?」
「イメージチェンジ。要は印象操作ね、これならブルピットとは思われないでしょ?」
「あ、あぁ。まぁブルピット「には」見えないけんど…」
「ワフン♪」
シロ達も何だか嬉しそうだ
今までの様に時折入る討伐依頼では家計のお荷物だったのをシロ達は内心気にしていたのだ
「でも…見慣れないせいか違和感が…」
「そう?これも中々可愛いと思うんだよなぁ、モフモフだし☆」
日向子はシロ達に囲まれてモフモフパラダイスを堪能中だ
「と、とにかくこれで大丈夫か村人に聞いてみんべ。」
「じゃあ試してみましょう。でも村じゃなくて町でね。変な先入観があると判断が鈍るから」
と言う訳で日向子達はシロ達にリードを着けて町へと繰り出した
「これは…何と言う犬種なんだい?」
「ゴツゴツしてますわね…」
「キャー☆可愛い♪」
町の住民はシロ達の姿に賛否両論ではあったがこの行動によりあるブームが巻き起こった
若い女性から「キモカワ」扱いされ釣られた男性陣達も評価を改めたのだ
日向子は二次産業としてシロ達のマスコットを販売したのもブームの過熱に拍車をかけたのであった
こうしてロン毛ブルピット、シロ達は市民権(?)を得られ
小口の配達業務に無事就業出来たのだった




