249 洞窟発見
日向子達は砂浜づたいに探検を開始した
鬱蒼と茂る森はもしかすると魔物が出て来る可能性もある為に後回しだ
事実砂浜を歩いていると森からブルピットや巨大な猪の魔物が日向子達に襲い掛かって来た
「ふぅ。この島の魔物は全部大きいわね…」
ブルピット数体を倒した日向子は横たわるブルピットを眺めてため息をついた
シロ達と同じ種類にも関わらず体格が2、3倍はある
《何が原因かは分からないがこの島の生き物は全て巨大化していそうだな…ほら、》
キメが空を指差すとソコにはドドラゴンか?と勘違いする程大きな鳥が鳴きながら飛んでいる
「日が落ちる前に捜索を終えないと危険そうね」
日向子は日没を目処に探検を終える事をデン達に伝えそのまま探索を続行した
《主、向こうに何かあるぞ?》
キメが僅かな音を聞きつけて指示した先にはどうやら入り江がありそうだ
30分程歩くとソコにはキメが言った様に小さな入り江が存在した
…ドドドドドドドド…
島の奥に向かって海水が流れ込んでいっている
「もしかしたら…此処が境界線を越えられるポイントなんじゃないかしら?」
海水が吸い込まれていく先にあったのは岸壁にポッカリと口をあけた洞窟だった
「…まぁこの潮の流れがあれば迷った船が吸い込まれてしまうかも知れねぇけど…」
デンは激流と化した海水を辿って沖を眺めている
「でも…これ戻れんのか?船じゃ無理だぞ?」
昔話では帰って来たとは伝えられているがどうやって帰って来たか迄は語られていない
「確かに流れに逆らって戻る事は無理そうよね…もう少し洞窟に近付いてみましょ?」
もし昔話が実話だとすれば帰る手段が何かしらある筈なのだ
日向子達は周囲を注意深く観察しながら洞窟の入り口に辿り着いた
《これは…》「凄ぇな…」
キメとデンは口をあけたまま洞窟の中を覗いている
ゴウゴウと流れていく海水の脇に人1人がやっと歩ける程度の小道が洞窟の奥の方に伸びていた
「…もしかすると此処を通って戻って来たのかも知れねぇな」
暗くて先がどうなっているのかは分からないが先程迄の手掛かりすらなかった状況を考えれば大きく前進した形だった
「…進んでみよっか?」
日向子は恐怖より興味が勝ってしまっている様でソワソワしている
「ヒ、ヒナちゃん、そんな慌てる事ぁねぇよ。今日は一旦此処で野宿しようや」
デンは行き急ぐ日向子を宥めて夜営の準備を始める
《ここまで数日掛かったんだ、十分に調べてからでも遅くはないだろ?》
キメも性急な日向子を何とか押し留め今晩の食材を探しに海岸へ向かった
「そうね…じゃあ朝イチで探検再開しようね‼」
二人の言葉に日向子も漸く諦めがついた様で火を起こす為の薪を拾いに森へと歩いて行った
…ギャグゥッ‼ゴバンッ‼ズズーン…
日向子が森に消えて直ぐに何かの叫び声と争う音が響いて来た
…ズルッ、ズルッ、
「デンさーん、手伝ってぇ~‼」
布をテント代わりに張っていたデンは日向子の声を聞いて慌てて駆け出した
「な、なんじゃそりゃあ⁉」
日向子の声を頼りに歩いて行くと山が動いていた
いや、正確には「山の様な魔物を抱えて日向子が歩いて来ていた」が正解だった
「うーん…良く分からないけどいきなり襲って来たのよ。晩御飯になるかな、これ…」
日向子が抱えて来た魔物は象の様な体躯にフサフサと毛が生えていてまるでマンモスの様だった
ただ大きさが半端ない。サザンスで見る魔物の10倍はありそうだ
《お、それはマウ・エレファントだな。俺が見た中でも最大級だが肉は旨いぞ》
砂浜から帰ってきたキメも巨大なマグロの様な魚を抱えてやって来た
「…遭難しても二人がいたら太りそうだな…」
デンは呆れて開いた口が塞がらないと言った体で二人の獲物を眺めていたのだった
キメの指示通り捌いたマウ・エレファントは少し歯ごたえのある牛肉と言った風味でとても美味しかった
日向子はキメが捕って来たマグロの様な魚を手甲剣でササッと三枚におろし刺身にして皿代わりの葉っぱに乗せたが醤油もない、生食で食べる習慣のないデンとキメには不評で散々文句を言われて拗ねてしまった
「…醤油とワサビがあったら最高に美味しいのにな…」
結局柵切りにして串焼きにした魚に塩を振って食べながら日向子は文句を言い続けていたのだった
マウ・エレファントとマグロ擬きで腹を満たした三人は交代で見張りに立つ算段をして眠りについた
夜の森からは活発になった魔物達が発する鳴き声と争っている様な音で騒がしくなかなか寝付けない
「…明日もし行けそうならそのまま境界線を越えるけど…キメちゃんは帰っても良いよ?」
巻き込んでしまうかも?という不安から日向子はキメに帰りを待つ様に促している
《主が行くなら俺も行くさ。ラクル様にも頼まれたしな…》
どうやらキメは一緒について来られなかったラクルに日向子の護衛を頼まれていた様だ
「…そっか、ラクルさんも心配してくれてたのか…」
焚き火に照らし出されたキメの横顔を見ながら日向子は眠りについたのであった




