247 いざ出発!
夜明け迄続いた酒盛りは最後漁師達全員が酔い潰れて幕引きとなった
考え事をしていた日向子と酒の分解吸収を早めたキメは潰れる事もなく
最終的に漁師達全員を担いで自宅に送り届け、彼らの家族に感謝された
「全く‼このぐうたら亭主はっ‼ヒナちゃんに担がれてご帰宅とは随分良いご身分だね!」
酒が抜けた後、彼らがどういう行く末を辿るかは知らないがきっと悲惨な事態を招くであろう
「あはは…たまには羽を伸ばすのもストレス発散になるんじゃないんですかね?」
「ゴメンねぇ~、後で亭主にはきっちり説教しておくからね‼」
「…お手柔らかに…じゃ‼」
君子危うきに近寄らず
日向子は適当に愛想笑いを残し最後に残ったデンを担いでチルの待つ家へと戻って行った
「…ただいま帰りましたぁ…」
「ちょっ、ヒナちゃん大丈夫⁉」
体の2倍はありそうなデンを担いで帰った為、チルは驚いて日向子を労った
「あはは、大丈夫ですよ。何か起こしたんですけど無理そうなので寝かせてあげて下さい」
「じゃあこっちの部屋に連れて来て貰える?本当にゴメンね」
チルは呆れてモノが言えない、と言った感じで日向子にそのまま寝室に運んで貰った
「女の子に担がれて帰って来るとは漁師の風上にもおけないね、全く…」
…あー、そういう気風があるから他の奥さん達も呆れてたのか…
日向子は漸く送り届けた先の気まずい雰囲気を理解した
飲み明かすのは日常茶飯事だが正体を無くす迄飲んでしかも女性に担がれての帰宅、
海の男としてのプライド?を折る行為だったのかも…と思い日向子はチルに謝罪する
「あの…何かごめんなさい…」
頭を下げた日向子にチルは慌てて手を振った
「そ、そんな⁉何でヒナちゃんが謝ってるのよ?」
「だって…デンさん達のプライドを傷つけちゃったかも知れないし…」
チルはポカンとした顔で日向子を見つめると突然笑いだした
「あはは‼そっか、プライドね‼そんなちっぽけなプライドなら折って貰って清々するわ」
昼頃目覚めたデンは夕飯になる迄正座説教を食らってすっかりしょげてしまったがそれもまたいつもの事なのだ、と後でチルはこっそり教えてくれたのだった
デンの足が紫色になる位説教を食らって小鹿状態になった翌日、ファイヤーバードが返事を貰って帰って来た
《で、何と書いてあるんだ?》
小脇で手紙を覗き込んでいるキメは気難しそうな表情で手紙を読む日向子に内容を訊ねる
「…うーん、始祖さんは境界線の事自体を知らなかったみたい。
シルちゃんは知ってはいたけどまさかそんな障害があるとは思っていなかったみたいね…」
始祖はともかくシルグからは何らかの情報が得られると思っていた日向子は肩透かしを食らって気落ちしていたのだ
《ならやはり行くのを延期してもう少し調べてから行った方が良くないか?》
生物が通過出来るか分からない障壁、例え越えたとしても時空が歪んでいるのか浦島太郎状態になるリスク
キメはそこまで危険を冒して迄南半球へ行くメリットを感じていなかった
「でも未踏の地なら行ってみたいって気持ちはあるんだよね…
それにその原因が分かれば自由に行き来出来る様になるかも知れないじゃん?」
漢のロマン…いや女の浪漫をくすぐっているのか日向子は結局行き当たりばったりながら旅に出る事を決めた
「じゃあ行ってきまーす‼」
「お、おい…本当に行くのかよ?」
「幾ら何でもヒナちゃんを向こうに行かせるなんて…」
漁師達は日向子を最後迄引き止めようと努力したが徒労に終わってしまい不安を通り越して沈痛な面持ちで見送っている
「あはは、大丈夫ですって‼本当に無理そうなら諦めますから」
お通夜にでも出てるかの如く沈んだデン達とは正反対の明るい笑顔で日向子は皆を宥めている
「…ヒナちゃんが決めた事だ、俺らは出来るだけ協力してやろう」
日向子の決意を見てとったデンは覚悟を決めて送り出す事にした様だ
「じゃあせめて境界線迄送らせてくれ。ダメだったら直ぐに戻って来られる様にな」
「はい‼」
こうして日向子とキメはデンの船で境界線迄行く事になったのだった
…ザザー…
デンの船は境界線に向かってゆっくりと進んで行く
「デンさーん、そう言えば海で魔物って出ないんですか?」
日向子は船の甲板で訊ねる
「んー?そりゃ出るさ、境界線の近くに行けば行く程デカくて狂暴な魔物が出て来るけど普段漁をしている辺りじゃそれほど狂暴なのはいないな」
デンの話によると漁師が行く漁場付近では日向子が知っている様な普通の魚が獲れるらしい
たまにサメに似た魔物やイカの魔物等が現れるがその都度漁師全員で退治するか
手に負えない様であれば領主経由で討伐隊を要請して駆除しているらしい
「だがなぁ…境界線に出て来る様な大型魔物が現れたらお手上げだ。その時はいなくなる迄漁は休みになってこっちは大損害って訳だ」
「そっか、なら出ない様に出来ると嬉しいですよね」
日向子は頭のリストに大型魔物襲来予防を足したのだった




