243 自分探しの旅(準備編) part1
バサッ、バサッ、スタッ。
「こんにちは。王様はいますか?」
日向子はエレモス城のバルコニーに降り立つと衛兵に謁見を伝える
「これは日向子様。国王は現在執務室においでです。こちらにどうぞ」
日向子の姿を見つけた侍従長が小走りで寄って来て国王の執務室へと案内してくれた
…コンコン、失礼致します
国王は執務室の机で書類の束に目を通している所だった
「おぉ‼日向子か‼とうとうラクルからワシに乗り換…」
「違います‼」
「…そこまで食い気味に否定せんでも…」
イジける国王をスルーして日向子は用件を伝える
「この度自分探しの旅に出掛けようと思って挨拶に来たんです。領内はシルちゃんとキメちゃんに引き続き任せますのでご支援宜しくお願いします」
「む?自分探しとな?…一体どの様な心境の変化なのだ?」
「はぁ…まぁ今まで周りに流されて動いていたのでこれを期に自分がやりたい事を見つめ直したいんですよね」
「成る程?良くは分からんがワシはいつでも受け入れる準備はしておくぞ?」
「あ、それは大丈夫です‼じゃ宜しくー‼」
日向子は早々にエレモス城から退散した
バサッ、バサッ、スタッ。
「あ、日向子さん‼」
テロンは事務所のドアを開けた日向子に真っ先に気付いて挨拶した
「こんにちは、テロン。あれからどう?」
「エヘヘ…日向子さんには感謝しかありませんよぅ~」
「そう、良かった。けど何故かしら?爆ぜろって思いが沸き上がるのは…」
日向子から立ち上る怪しい雰囲気にテロンは慌てて冷静を装う
「や、やだなぁ~‼あっ‼ところで今日はどうしたんですか?」
「あ、うん。暫く旅に出ようと思ってさ、それで一応挨拶に来たの。」
「えっ⁉旅…ですか?休暇の旅行とかじゃなくて?」
「うん。今まで考えて来なかった自分が本当にやりたい事を探す旅に出ようと思ってるのよ」
「へぇ~、何かロマンチックですね。会社の事は皆に任せて下さい‼」
「何か任せっきりでゴメンねぇ~…」
「いえ、日向子さんは私とガンザさんを繋げてくれた恩人です‼粉骨砕身頑張らせて頂きます‼」
テロンが日向子の手を取って感謝と決意を述べていると他のスタッフが仕事を終えて事務所に入って来た
「ただいまーっ‼お?姉御じゃないっすか‼」
荷役を手伝っているガンザの子分達が日向子を見つけて挨拶してくる
「ドンガさん、ザボンさんお久しぶりー‼」
「何だ何だ?姉御が顔出すなんて珍しいじゃないですか?」
後から入って来たラーガ達も珍しい人に会えて嬉しそうだ
「あ、ちょっとね。自分探しの旅に出掛けようかと思って…神獣運輸の方をお願いしに来たのよ」
「姉御~、俺達に任せて下さいよ‼ガンザも彼女が出来たし俺達だって張り切ってる最中ですからねっ‼」
ザボン達はスリやシャロンを見て握り拳を作っている
「あはは…ぎょ、業務に支障が出ない程度にね…」
何事かと首を傾げている女性スタッフに聞こえない様に日向子はドンガ達にお願いした
「大丈夫っすよぉ、俺達だって仕事とプライベートの区別はしてますって‼」
何故かイケメン風にものを言うザボン達を生ぬるい目で見つつ日向子は事務所を後にした
バサッ、バサッ、バサッ、スタッ
〈日向子、どうした?〉
ラクルの居城に降り立った日向子をラクルと始祖が迎え入れる
「こんにちは。今日はちょっと言っておきたい事があってお邪魔しました」
〈む?そちが殊勝な物言いをすると何故か鳥肌が立つな…何事か?〉
始祖は能力を使わずとも感覚で身の危険を察知する能力が備わっているらしく次に出される言動に警戒している
「あ、あはは…そんなに身構えなくとも…実は私、自分探しの旅に出掛けようかと思ってるんです」
〈…旅、か?〉
〈それだけなのか?〉
日向子の言葉にラクルと始祖は呆気に取られている
「全く…お二人は私を何だと思っているんですか?」
〈わ、わはは⁉余はてっきり敵わぬ敵と戦わされるのかと思っていたぞ…〉
〈…我は何か理不尽な願い事を聞かされるのかと…〉
「ひっどーい‼私だってそこまで酷い事言いませんよ‼」
思わず出た不用意発言でプリプリ怒る日向子をラクルは宥める羽目になってしまう
〈と、ところで目的は分かったが何か目処があっての事か?目的地や予定は?〉
ラクルは話題を変えようとしどろもどろになりながら日向子に言う
「…ううん?別に?」
〈〈…やっぱり…〉〉
始祖もラクルも頭を抱えている
〈ふむ…ではこうしてはどうか、余の生きた世代では南半球にも陸地があり国があった筈なのだが…
今世を聞き及ぶにその情報かないのだ。であれば南半球を調査して欲しいのだが〉
「え?それは「依頼」という事ですか?」
〈うむ。まぁ旅のついでに、と言う事だが無闇に旅をするよりは有益であろう?無論依頼であるから報酬も用意するが〉
始祖は不安に思っているラクルの気持ちを察して日向子に鈴を付けた形にする様だ
ラクルは始祖の思惑に直ぐに気付いて感謝しつつも日向子を説得する
〈そうだな…月に一度生存報告を兼ねて調査内容を伝えてくれ。これは連絡用のファイアーバードだ〉
…ゴウッ‼ピピィー‼
ラクルは掌から雀サイズの火の鳥を出して日向子に渡す
「…そうね、ただ休んで旅に出るよりは依頼を受けて出る方が気まずくないわね…」
ファイアーバードを肩に乗せた日向子が少し逡巡し、手をポンと打つ
「…じゃあ始祖さんの依頼をお請けしますね‼」
日向子はラクルと始祖に挨拶をしてゴルド領に飛び去った
〈…始祖様、我の心中をお察し頂き感謝致します〉
〈フッ、今はそちの父として出来る事をしただけだ。
日向子が旅に出ている間、この国を更に繁栄させる為の方策を練る為に必要な人材への配慮でもあるがな…〉
始祖の言葉にラクルは無言で頭を下げるのだった




