240 戻った日常
バンパイア領より戻って来た日向子は翌日から領主としての仕事に戻った
処理が追い付いていなかった数々の書類を一気に処理し、ウシャ爺を始め各部門の長に帰還を報告した
ドラク改めドラには始祖の復活を伝えその足でエレモス城に行き一連の報告を国王にしたのだった
そんなバタバタした日が数日過ぎ漸く日常的なレベルにまで公務が落ち着いて来た
「シルちゃん、今度は神獣運輸の事務所に挨拶に行ってくるね」
『分かった、気をつけてな』
努力はしていたがやはりシルグはドラゴンで人間の事務処理は慣れていなかった為に帰って来た日向子には迷惑をかける結果となってしまった事を悔いていた
キメも同様に二人がかりで四苦八苦していた書類の山を日向子がてきぱきと整理する様を見て少し落ち込んでいたのだった
《…シルグ殿、我々は主の役に立てたのだろうか?》
キメは飛んで行く日向子を見送りながらシルグに訊ねる
『得手不得手というモノだ、現に主殿は感謝していたではないか』
《…ですね。そういう事にしておきます‼》
バサッ、バサッ、バサッ、
「ただいま。皆元気にしてた?」
「あっ⁉日向子さんお帰りなさーいっ‼」
事務所を訪れた日向子を最初に見つけたのは荷物の積み降ろしをしていたスリとシャロンだった
「何か最近任せっ放しにしちゃってゴメンねぇ~」
「アハハ、仕方ないですよぉ~‼今日向子さん達はゴルド領主と側近のお仕事で大忙しじゃないですか」
「そうですよ、神獣運輸の方は私達スタッフがしっかりやってますので安心して下さいね」
二人は日向子の多忙さを気遣って元気に答えた
「ありがと、中に誰かいる?」
「はい、テロンさんとガンザさんがいますよ」
「じゃあ挨拶してくるね」
ガチャ、
「テロンちゃーん、いい加減食事の誘いに乗ってくれよ~」
「…断固拒否します。ガンザさん女性スタッフ全員に声掛けてたのを知らないとでも思ってるんですか?」
「そ、それはさぁ…ほら‼一番好きなモノは最後迄とっておくだろ?それがテロンちゃんなんだよ」
「…ちょっと何言ってるか分からないんですけど」
「だからぁ~本命がテロンちゃんだから誘うの一番最後にしてたって事なんだよ」
「え?それマジで言ってます?だとしたら相当イカれてますね」
「イカれって…だぁ~っ‼俺ぁ彼女が欲しいんだよぉ~‼」
「…とうとうぶっちゃけましたね?しかもソレ、相当ゲスいですよ?」
日向子はテロンとガンザの攻防戦にたじろいで声を掛けるタイミングを見失っていた
「…ただいま…」
「いらっしゃ…えっ⁉日向子さん⁉…お帰りなさーい‼」
テロンは日向子に気づくと抱きついて迎えた
「テロンちゃんごめんね、大変でしょ?」
「いいえ、お仕事の方は楽しくて大変なんて思った事はありませんよ。でも…」
テロンはガンザを一瞥して迷惑そうにしている
「ん。皆まで言うな、私がお仕置きしてあげるからね」
日向子が突然現れた事で固まっていたガンザは「お仕置き」の言葉に反応して我に返る
「あ、姉御‼お、お帰りなさいませ‼」
「…ガンザさん?何社内の空気気まずくしてるのかしら?」
日向子がガンザの方を向いて歩み寄る
「べべべべ、別にっ⁉た、ただテロンさんと食事に行こうとさ、誘っていただけで…」
…ポキポキポキポキ…
「へぇ~、私に隠し事するつもりかしら?」
指の骨を鳴らした日向子は人差し指をガンザに向ける
…ヒュッ‼ピトッ
「けぺっ⁉」
人差し指から伸びた触手がガンザの額にくっ付く
「ひ、日向子さん⁉」
テロンは初めて見る日向子の能力に恐怖を感じている
「あぁ、大丈夫よ。キメちゃんの能力を貰ったの、これで嘘はつけないわ」
触手に捕まったガンザは膝をガクガクいわせながら何とか立っている状態だ
「さぁて、先ずは洗いざらい教えて貰うからね?」
「けぴゃっ⁉くけけけっ‼」
触手のうねりに合わせてガンザが奇声を上げている様を見てテロンはブルブル震えている
「ほ、本当に大丈夫なんですか?…何かおかしくなってますけど」
普段男気をかざす熱いガンザが奇声を上げておかしくなっている姿にテロンはどうしても慣れない
「大丈夫大丈夫、ん?あらら、エリスやコロン達にまで…スタッフ全員にフラれ捲ってるじゃないの…」
ガンザは仕事の合間に女性スタッフ全員に声掛けして全員に断られていた
「えっ⁉そ、そのウネウネしたモノで読めるんですか?…頭の中を?」
「ん?あぁ、そうそう。幾ら隠そうとしても無駄なのよ?便利よねぇ…」
日向子の答えを受けてテロンがモジモジし始める
「あの、…ガンザさんが本当に好きな人は誰なのかって…」
(あら、テロンちゃんはガンザさんが気になっているのね…)
「よーし、ちょっと待っててね。…えいっ‼」
「うけけっ⁉…実はテロンが気になってたけど照れくさくて他に声掛けてた…」
「えっ⁉そうだったの?」
テロンはガンザの本心を聞いて満更でもなさそうだ
「よーし‼お姉さん二人の為に頑張っちゃうぞぉ‼」
日向子は照れるテロンをよそにガンザにちょっと洗脳を行うのであった




