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ゾンビーナ!  作者: とれさん
238/378

238 試練


始祖は日向子の説明に耳を傾けている


「…で弱体化した元老院は復権をかけて色々策を講じて来たから全部潰して処刑されたの」


日向子はかいつまんで今迄の流れを話した


【…成る程、ではもう余が手を下す必要もなくなっているのだな】


同族の裏切りに復讐する一念で復活してきたのだ、その仇が既にいない事は少なからず始祖の気勢を削いでいた


【なればこそ余は今世の王を試さねばならぬ。】


日向子は始祖の考えを察して新たに言葉を重ねる


「始祖さん、ラクルさんには恨みはない訳だしこうしたらどうかしら?

ラクルさんと戦って試すのは何も殺し合わなくても出来るわ。だから「試合」という形にするのはどう?」


ラクルも始祖もお互いに殺す理由がないのであれば力量を試す模擬戦闘に、という流れを提案したのだ


〈日向子、待たせたな〉


一旦退いて回復に専念きていたラクルが戦列に戻って来た


「丁度良かったわ。今始祖さんに殺し合いじゃなくて試合にしたら?って提案をしていた所なのよ」


〈…そうか。確かに我も「父」を殺さずに済むのであれば越した事はないが…〉


日向子は冷徹で精密機械の様なラクルが本当は優しい心根の持ち主なのは知っている

だからこその交渉でもあった


【む?「父」だと?…そうか、エレノアの子か】


始祖はラクルに亡き妹エレノアの面影を見つけて呟いた


〈そうだ、父よ。我は父と母エレノアの間に生まれた〉


【エレノアは息災か?】


始祖の問いかけにラクルは一瞬間を置いて答える


〈母は…我を産みし日に死んだ。我の命と引き替えに新たな力を得ようと企んだドグラ達に騙され我を殺そうとしてな〉


【…そうか。】


始祖は少しだけ悲しげな顔を覗かせたが直ぐに表情をなくした


【余の血を継ぎし者として死力を尽くせ、気を抜けば容赦はせぬぞ?】


〈…もとより加減をするつもりはない。〉


二人は間合いを取り構える


〈…一撃だ。一撃に我の全力を尽くす〉


…グゴゴゴゴゴ…


【流石余の血を引く者だな、受けてたとう】


…グゴゴゴゴゴ…


二人の殺気が音を立て色を成していく


(ラクルさん…)


日向子はいずれ訪れる決着の時を静かに見守っていた


日向子の視線を浴びてラクルは微笑みスッと気を抜いた


【!?】


「えっ!?」


〈何を驚く?始祖と同じ戦い方では越えられぬのは覆し様もない事実なのだ、我は我の力で始祖を…父を越える‼〉


ラクルは掌から触手を伸ばす


【…それは…何だ?】


始祖が狼狽えている目の前で触手は菱形に展開し、盾となる。片方の触手はそのまま鋭利な矛となった


〈…これは我の命を救いし日向子より受け継いだ能力。これで貴方を越える〉


…ギュギュギュギュッ…キュバッ‼


ラクルの出した矛と盾は高密度に高質化し、黒曜石の様な輝きを放つ


その刹那、ラクルは全速力を以て始祖に突撃した


…ガッッ‼シュバッ‼


。。。ザッッ‼


お互いの体が交錯し、立ち位置が入れ替わる


【…見事だ】


…ズリッ…ボトッ、


始祖の体は再び真っ二つになり上半身が地面に落ちる


「あれ?再生が…」


日向子に切り裂かれた時は即座に修復をしていたのに今度はいつまで経っても回復する気配を見せない事に日向子は首を傾げた


ギュッ、


日向子の千里眼が始祖の傷口を無意識にクローズアップする


「えっ⁉これって…」


始祖の傷口には恐らく修復しようとする細胞が蠢いていたのだがそれを阻むかの様に黒い欠片が結晶化していたのだ


「ラクルさん‼」


日向子はラクルの了承を得て治療を行った


傷口表面の結晶化した細胞を取り除くと阻まれていた細胞が急に活動を活性化させる


…グチュグチュ…グチャ


2つに分かれた始祖の体はあっという間に繋がり直ぐに傷口すらも消えるが鼓動は取り戻せていない


「‼…ショック与えないと‼」


日向子は始祖の胸に手を当て電気ショックを与える


…バツンッ!!


始祖の体はショックに合わせて大きく跳ね鼓動を取り戻す


【…日向子とやら、済まぬな】


「良かった‼死なせちゃうかと思った‼」


【忘れたか?余は不死である事を】


「…あっ‼」


日向子はすっかり忘れていた

始祖は生物で言う完全死からも甦る本当の不死者なのだ


「ごめんなさい…」


【謝る事はない。余が自力で復活するにはより多くの時が必要だった筈だ】


〈我からも礼を言う、加減が分からず深手を負わせてしまった〉


始祖とラクルは日向子に頭を下げる


「でも良かった、始祖さんが正気を取り戻してくれて」


〈始祖、復活なされたのであれば是非今一度バンパイア族の長になられて下さい〉


【…それは出来ぬ。今世の王はラクル、お主だ。それに余が再び王座に就けば過去の因習に戻るやも、と危惧する民もおろう】


始祖は立ち上がり埃を払いながら辞退したのであった

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