237 反撃の狼煙
ドドッ、ギャッッ‼ガキィン‼
ラクルの攻撃は更に速くなり流石の始祖も受けざるを得なくなるがそれでもその動きには余裕が見える
同族、しかも同系統の能力では一日の長があると言う事だろう
【ふむ、余に此処まで受け身を取らせるとは流石王を名乗るだけはあるな。】
始祖はラクルの手刀を受け流しながらその攻撃を讃える
〈クッ、まだ余力はありそうだな〉
ラクルの攻撃が次第に空を切り始め始祖はその都度カウンターを返していく
【どうした?それで終わりか?】
辛うじて始祖のカウンターを躱していたラクルに焦りの色が見え始める
元々病み上がりで本調子ではない以上スタミナが切れる算段が高いのだ
グバッ‼ガッ‼ドスッ‼
次第に押されていくラクルは考える
(何処が始祖より劣っているのだ?)と
バンパイアの攻撃能力は基本的にその身体能力の高さに依存している
その脚力はスレイプニルより速く膂力はワーウルフを圧倒する
だが始祖のラクルには純然たる力の差が出ているのだ
始祖は逡巡しているラクルを嘲笑うかの様に強烈な攻撃を仕掛けて来る
〈クッ、何故だ⁉〉
【フフッ、それが分からぬ貴様には勝機はない‼】
始祖が更に力を込めた攻撃を繰り出した時、ラクルは固有能力である時空間操作を行った
…ドスッ‼
〈グハッ⁉〉
時空を割いて逃げた筈のラクルの溝尾に始祖の拳がめり込む
【余は始祖だぞ?忘れたか?】
「あ、そっか‼」
ラクル達の頭上で戦いを見ていた日向子は始祖の言葉でラクルの敗北を悟った
始祖は「バンパイア全ての源」なのだ、遺伝で能力を得たとしてもそれは始祖の能力の欠片でしかない
となれば幾らラクルが始祖に近い能力を持っていたとしてもそれは始祖の劣化版でしかないのだ
「…ちょっとこのままじゃ不味いわよね…」
日向子はラクルを助ける為に降下を始めた
ギュッ‼…ドガガッ‼
〈日向子‼〉
「ラクルさんは少し休んでいて‼」
日向子は始祖に飛び蹴りを食らわすとラクルの手を引いて一旦距離を取った
「バンパイアの能力では始祖には敵わないわ‼私が相手をしているからその間に打開策を考えて‼」
日向子はラクルを置いて始祖に向かって突進する
〈分かった、死ぬなよ‼〉
ラクルは始祖の攻撃により傷ついた体を回復させつつ考える
【…ほう。今度は小娘が相手か、良いのか?総がかりでも構わんのだぞ?】
「ラクルさんが貴方を倒す策を思い付く迄の時間稼ぎよ‼私が倒しても何もならないもん‼」
【…時間稼ぎとはまた滑稽な、人間風情がそ…!?】
ギャッ‼シュバッ‼
たかが人間に何が出来る?と余裕を見せていた始祖は日向子の手甲剣により真っ二つにされていた
ブシュウゥゥ…ビチビチビチ…
日向子により真っ二つに裂かれた始祖の体は一瞬で元通りになってしまった
【…甘く見ていた様だな。そちの名は?】
「…日向子」
【日向子、か。異郷の者だな?】
「私が倒す訳にはいかない、だから時を稼がせて貰うわ」
日向子の言葉の真意を得た始祖は構えを解き殺気を消した
【…良かろう、では余と少し話そうではないか】
日向子は始祖の突然の提案に真意を量りかねている
【なに、難しく考える事はない。何せ余は復活して間もなくどの位時が過ぎているのかも分からぬのだ、今の世を教えてくれぬか?】
日向子はそう言葉を紡ぐ始祖を見て先程とは違う雰囲気を感じていた
「…一つだけ聞いて良いかしら?」
始祖は日向子の言葉に頷く
「貴方…もしかして…」
【正気を取り戻したのか?という質問であれは答えは「是」だな】
始祖はラクルとの戦いで少ないがラクルの流した血を吸収していた
微量な為ラクルの記憶迄は手中に出来なかったがラクルの持つ純血の力により正気を取り戻していまのだ
「…今なら話を聞いて貰えそうね、じゃあラクルさんが何故貴方に敵対しているかは分かる?」
【…成る程、彼奴はドグラ達の為ではなく領土を守ろうと自衛をしているに過ぎない。こういう事だな?】
始祖は先程吸収した血液からラクルの持つ記憶を取り出して答える
「そうよ、貴方がバンパイアの領内に魔物と共に出現したから討伐しに来ただけ
これでもラクルさんと戦う意味はあるのかしら?」
日向子は始祖を説得し始める
【うむ、正気を取り戻しつつある余には子孫と戦う理由はないな。ドグラ達を根絶やしにする事のみで今こうして復活して来たのだからな】
「なら引いて貰うって選択は?」
【笑止。余が復活を成した今、王は二人要らぬであろう?】
日向子は言葉を選びつつ先ずは始祖に現状のバンパイア領内を伝える事にした
「貴方が元老院の策略に嵌まって殺された後、ドグラ達は貴方の血肉を食べて力を得ようとしたけど失敗したわ」
始祖は失敗したと聞いてさもありなん、と言う顔をして日向子の言葉に耳を傾けた




