232 国王再び
元気になった長老に見送られ日向子は再びラクルの下に飛び立った
「思いつきでやった事だけど元気になって良かったわ…あ、ラクルさんの所に戻る前に
シルちゃんの所に寄る必要があるわね、相当心配してたから」
日向子はシルグの事を思い出し反転した
バサッ、バサッ、
「シルちゃーん、ただいまー」
日向子の姿を見たシルグは慌てて駆け寄って来る
『ちょ、長老はご無事なのか⁉』
シルグにとって最悪な事は日向子が行った事により長老が死に責任を取らなくてはならない状況だ
そうなれば日向子は弾劾裁判を待たずに死刑を言い渡されるかも知れない
万が一の時はシルグが身代わりになり死を受け入れる覚悟だったからこそ詰め寄ったのだった
「あはは、長老さんは超元気になっちゃったわよ。ワイトさんが毎晩酒盛りに付き合わされて迷惑なんですって」
『…は?』
「いずれシルちゃんとも酒を酌み交わしたいとか言ってたから押し掛けるんじゃないかな?」
シルグは日向子の言葉が信じられず目を丸くしている
長老はシルグが知る限りドラゴン族の中でも最も永く生きているドラゴンだ
シルグなどは長老に比べれば3分の1も生きていない筈なのだ
その長老が復活し、元気になったと聞かされても瞬時には理解出来ないのは当然の事だった
『…酒盛りとは…動けるのか?』
シルグが初めて長老と会った時、既にあの洞穴で大樹がその背中に生える程動いていなかった
体は石化し、苔むしていた程だ
「うん。私が行った時には元気に筋トレしてたわよ」
『…何と…主殿、長老に一体何をしたのだ?』
日向子は知識を与えてくれたお礼にキメラ細胞をプレゼントし、それが肉体と精神の活性化を促した事を伝えるとシルグは更に驚愕していた
『…キメの細胞が竜核の活性化を…?聞いた事がないぞ…』
「あはは、私だってあそこまで元気になるとは思っても見なかったわよ。ただ少しだけでも何とかならないかな?って思っただけ」
《ん?俺の細胞がどうしたって?》
所用で出掛けていたキメが戻り様に小耳に挟んで訊ねる
「キメちゃんの細胞をね、色々教えてくれた長老さんに分けてあげたの。
そしたら元気になりすぎちゃったって話なのよ」
《…何だそれ?》
キメも初耳な状況に驚きを隠せないでいる
「まぁともかく長老さんが元気になった事は喜ばしい事じゃないの。良かったわ」
日向子は深く考えても仕方ない、と言う事を暗に伝えたかった様だ
《…そうだな。俺達がいくら知恵を絞っても不可思議な事は起こるモノだ。
それより主、エレモスの国王が何か主を呼んでいるぞ?何かしたのか?》
キメの所用とは長老やラクルの所に飛び回っていた日向子の代わりにエレモス領に行き国王の要請を受けて来る事だったのだ
「…すっかり忘れてた‼…どうしよう…」
ラクルの復調と長老の復活という嬉しい出来事でつい忘れてたいたが国王から妃にならないかと打診されていたのだ
《?どうしたんだ?》
『エレモス国王とも何か問題を抱えておるのか?』
シルグとキメは不安げに日向子を見つめている
「うん…何か求婚されてるのよね…」
『《…は?》』
「でしょ?そうなるよね、普通」
日向子はここ最近の忙しさにすっかり忘れていた怒りが甦ってきたらしく次第に機嫌が悪くなって来ている
「奥さんが死んだからって直ぐ次の奥さん求めるなんて…国王の責任とは言え女としては許せないわ‼」
日向子の怒る様を見て二人は心底呆れている
《…あの国王は一体何を考えているんだ?》
『親子程も年の離れた主殿に恥ずかしげもなく求婚するとは…王としての矜持はないのか?』
国王の理不尽発言を聞いて二人も次第にヒートアップしてきている
「ソコで考えたんだけど…私、ラクルさんと婚約しようかと思ってるの」
。。。『《…は???》』
「だから‼ラクルさんと…」
『ちょっ、ちょっと待て。何処からそんな結末に至るのだ?』
《そ、そうだ‼どうしてラクル殿なんだ⁉》
日向子の衝撃発言に二人の思考は全くついていけていない
「あはは、王様を諦めさせる為のフェイクよ、フェイク。…まぁラクルさんが求めるなら本当になっても良いんだけど(///」
日向子はサラッと満更でもなさそうな発言を重ねて恥じらっている
『…良く分からないが主殿は偽装して国王の求婚を退けるつもりなのだな?』
《…後半は聞き捨てならないが》
主従という垣根とは別に好意を抱いていたキメにとって後半の言葉は認められず憮然としている
「うん、とにかく王様に諦めて貰わなきゃゴルドに何かされてからじゃ遅いでしょ?」
『流石にそこまで愚かではないと思うが…確かにギクシャクはしてしまう可能性は秘めているな…』
理屈は分かるがどうもしっくりと来ないシルグとキメであった




