23 セントエレモス城に来ました
ーエレモス城正門ー
「ま、待て!何だその異様な生き物は!」
城の門兵は彼方より走り来る異様な生物の来訪に警戒して10人程で正門を固めて待ち構えていた
「良いのだ、私だ。」
「こ、これはピール様‼しかしこれは一体?」
「どうだ、珍しいであろう?これこそ伝説の神獣スレイプニルだよ」
「し、神獣?」
「今日はこれを伯父上に自慢してやろうと思ってな。アハハハ!」
「そ、そうですか。では王に伝令を、誰か‼ピール様が来たと王に伝えよ!」
ニルの異様な立ち姿に畏怖していた門兵の1人が慌てて城内に駆けて行った
「あの…「伯父上」様って…」
「お、伝え忘れていたか。私の伯父は現国王だよ」
「は?」
「私は現国王の弟の子供、と言う事だな」
「そうなんですか?ドルネさん何にも言ってくれないんだから…」
「ドルネには私から頼んだのだよ。変に畏まられても困るからな」
「成る程…でも私、誰でも態度は変えませんよ?」
「アハハ、それが良い。人は肩書きを外せばただの人間だしな」
日向子もピールも笑っていた
どうやらピールは肩書きで人を選ぶ人物ではなかった様だ
「ピール様、王より許可がおりました。このまま中庭までお進み下さいとの事です」
「では精々自慢してやろう」
日向子達は護衛の騎馬に連れられて城内に入る事になった
「うわぁ、素敵…」
日向子の目の前にはかつて映像でみた中世の城が見える
何となく某ネズミの国のシン○レラ城を思い出しながら前に進む
「この城は世界で最も美しい城だと言われている。なかなかに荘厳であろう?」
「そうですね、とっても綺麗」
ピールはキョロキョロしている日向子に色々と説明してくれた
そうこうしている間に中庭に着いた様だ
噴水を中心とした美しい庭園の前で護衛達は此処で待つ様に指示をする
「ピール!お主は我に神獣を自慢したいと申したそうだな!」
大きな扉が開いて護衛が跪くと親衛隊と共に恰幅の良い人物が馬車に向かって歩いてきた
「これは伯父上。お久しぶりです」
「何を他人行儀な!して何処に神獣がいるのだ?」
王様はニルに気付かなかったらしく馬車の後方を見ている
「伯父上の目は節穴ですか?神獣なら伯父上の目の前にいるではないですか」
「む?…おおっ⁉こ、これは確かに神話の中にある絵のままじゃ!」
王様は感動したのかニルにフラフラと近づく
「あ!王様!近付かれると危険ですよ?」
日向子は近づく王様を制止する
「ヒヒーン!」
ニルは近付かれたくなさそうに一声鳴いた
「おっと!これは言い伝え通り…」
「アハハ、私も先程危うく噛み付かれる所でした」
「うーむ…神獣スレイプニルは主と決めた者以外誰も寄せ付けぬと聞く…そなたが主か?」
「はい、王様。私、神獣運輸の日向子と申します」
「ん?「神獣運輸」とな?…では他にも神獣がおるのか?」
「今村にはユニコーン達がおります」
「…何と、ユニコーン迄もが実在するとは…そなたは何処でその神獣達を捕らえたのだ?」
「えっと、東の高原です」
「うーむ、あの高原なら我も時折狩に出るが…一度も見た事など無い。これも人の運、かの」
「さぁ、伯父上。伝説の神獣を見ながらお茶会でも開きましょう」
「おぉ、それは良い。早速用意させよう!」
王が目配せするとお付きの者が配下に指示してテーブル等が手際良く運ばれてくる
「さあ、日向子殿も一緒に」
ピールは日向子にも同席を求める
「え?でも…」
「良い良い、我もそなたの話を聞きたいのじゃ!」
王様もご機嫌で日向子を茶会に招待した
「じゃあ…お言葉に甘えて失礼します」
日向子は御者席から降りると執事が引く椅子に腰掛けた
「さあ、日向子とやら。我に神獣との出会い等を聞かせてくれ!」
王様はどうやらこの手の冒険譚が大好物らしく上気した顔で日向子をせっついた
「あ、はい。ではニルちゃん達との出会いから…」
日向子は最初荷役用の魔物を探して東の高原に行った事、
なかなか見付からずあちこちシロに乗って探した所ニル達を見つけて捕獲した事等を細かく話した
「「シロ」?それはどんな動物だ?」
「えっと、動物じゃなくて魔物です。種類はブルピットですね」
「な、何と⁉そなたは魔物をも使役するのか?」
「あはは、これにも理由がありまして…討伐に行ったら懐かれちゃって…」
「…ピールよ、魔物とは懐くモノなのか?」
「…いえ、今まで聞いた事はありませんね…」
王様もピールも首を傾げている
「うーむ、そもそも討伐とはな。そなた程美しい女性がその様な荒事をするとは思えぬのだが…」
「王様は誉めるのがお上手ですね(///」
日向子は急に褒められ顔を赤らめる
「これは世辞ではないぞ?その様な細腕で魔物の討伐など誰が信じるものか。」
「えー?そうですかぁ?」
日向子は急にクネクネし始める
「僭越ながら…私と手合わせを願えますかな?」
王の背後に立っていた騎士が割り入ってきた
「うむ、先代の頃より親衛隊長をしておるそちなら日向子の力量も推し量れよう。どうかな?」
「あ、はい。それは構いませんけど?」
「では「腕相撲」でもしてみるか、日向子殿」
「えー?勝てるかなぁ?」
「ははっ‼この小娘は…勝てる気でおるとは」
親衛隊長は日向子の言葉に思わず吹き出す
「では日向子殿、申し訳ないが勝負してやってくれ。この者は血の気が多くてな、
どうも武勇伝を聞かされると血が騒ぐらしいのだ」
ピールの言葉に日向子は改めて頷く
「負けても当然なのだ。全力で打ち倒すが良い」
親衛隊長は用意されたテーブルに丸太の様な二の腕をドンッと置いて日向子を挑発する
「日向子、もしそちが勝てば我から褒美を出そう」
王も実はこういうノリが好きなのかノリノリで余興に興じる
「じゃあ…お手柔らかに」
日向子は細い二の腕をテーブルにつけて親衛隊長と手を組む
「それでは…始めっ!」
王の掛け声と共に日向子は全力を叩き込む
ードンッ!ドンガラガッシャーーン!ー
。。。
次の瞬間、目の前の光景に誰しもが言葉を失った
日向子が腕に力を入れた瞬間親衛隊長の体が腕を支点に一回転しその勢いで地面を転がって
壁際にあった茶道具を乗せたワゴンに激突していたのだ
「…嘘であろう?」
ピールと王が親衛隊長を見ると彼は何が起こったのか分からぬまま失神していたのだった




