223 地獄絵図
時間が空いたので1話追加投稿します
バチルス軍はラクルと日向子が生み出した幻覚の勝利を本物だと錯覚してデス・キャニオンに全軍を進軍させた
(ううむ、小癪な奴等め。早く追い付いて殲滅せんかっ!)
バチルスは自軍の進軍速度が遅い事に苛つきを覚えて激昂している
(まぁ慌てる事はあるまい。敵は傷病兵も連れて敗走しておるのだぞ?)
(ですが父君‼)
(王には忍耐も必要だ。耐えよ‼)
バチルシ先王に窘められ荒々しく椅子に腰掛けるバチルス
その先に何が待っているのかも知らず彼らは死地へと進む
。。。
『お?そろそろ来る様だぞ?どうする?』
ワイトは他のドラゴン達に相談する
『…確かドラウグルの軍勢は不死の軍団だったな、通常攻撃では止まらぬやも知れぬ』
『うむ、ではこうしてみてはどうだ?』
シルグの提案に他のドラゴンが同意する
『うむ、それで行こう』
四竜の戦略は後に地獄絵図を生み出し後世に語られる事となる
。。。
ザッッ、ザッッ、ザッッ、
(…おかしい…先程から一向に間が詰まっておらんぞ?)
流石にバチルスもその異常性に気付きだした
(む?こ、これはっ!?)
先程迄追い詰めていたラクル軍が突然目の前から消え代わりにドラゴン数体が現れたのだ
『良し、行くぞ‼』
ラルドが豊穣のブレスを吐きバチルス軍の足元をぬかるみに変える
一気に足を取られたバチルス達は腰迄埋まって身動きが取れなくなり進軍どころではなくなった
(なっ!?)
『次は俺だな』
ワイトがバチルス軍に向けて炎のブレスを吐くと先程迄ぬかるんでいた地面は干上がりスカルもゴーレムも抜け出す事すら叶わなくなった
『シルグ、今だ‼』『おう‼』
シルグが風の加護を使って創り出したのは日向子が以前キマイラ討伐に使ったナノ攻撃だ
ギャアァァァッ‼
グワァーーッ‼
ナノレベルの風の刃がスカルやゴーレム達を覆い灰塵に変えて行く
(クソッ‼撤退だ‼撤退するんだ‼)
バチルスはチェスボードの駒を慌てて後退させるがコントロールが効かずあっと言う間に9割の兵が消え去ってしまった
『残りは我が屠る‼』
オーシュは大量の海水を吐いて津波を起こす
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…ザパーンッ‼
(か、海水⁉何故だ⁉)
今までの攻撃とは異質な攻撃を食らいバチルス達は慌てる
だがその認識は甘かったのだと直ぐに思い知らされる事となる
…ボロボロボロ…
(か、体がっ‼うわぁぁ~⁉)
只の海水かと思っていたモノはバチルス軍の残党の体を崩していく
『…オーシュよ、ありゃ何だ?』
ラルドは不思議な光景に驚いている
『フッ、あの海水には「分解者」を大量に召喚してあるのさ』
分解者…本来は海中に沈む海洋生物の死骸等を文字通り分解するバクテリア等をそう呼ぶ
有機物を無機物に分解し塵芥に変えていく
オーシュは召喚したバクテリアに加護を与え消化能力を上げていたのだ
辛うじてドラウグルであるデスナイトとスカルキング、ゴーレムキングはバクテリアの分解酵素を免れたが気付いた時には数万の軍勢は全て消え去ってしまっていたのだった
《突撃ーーっ‼》
取り残されたバチルス達の頭上から号令が聞こえて黒い塊が一気に押し寄せる
今度こそ幻覚ではなく本物のラクル軍の一斉攻撃だった
最初こそ善戦していたバチルス達は次第に数の暴力に圧倒されていく
15対5千、開戦時とは立場が逆転してしまっていたのだ
バチルスは次第に追い詰められとうとう馬車から引き摺り下ろされる
チェスボードの盤上から手が離れた瞬間バチルシ以外の歴代の王達は糸が切れた人形の様にその場で崩れ落ちた
(クソッ‼何故こんな事に…)
バチルスは怨嗟の声を呪文の様に繰り返しているが本来バチルスは前線に出てはいけなかったのだ
傀儡である自軍を最大限に使役するのであれば自分は最後方で指揮だけに専念するスタイルじゃないとこの布陣は全く意味をなさないのだ
戦慣れをしていないバチルスの指揮の完全なる失態であった
〈…勝負あったな、バチルスよ〉
ラクルはいつの間にか膝をついて落ち込むバチルスの前に立っていた
ラクルの背後では先王バチルシがワーウルフの手によって捕縛されている
(ワシの…ワシの負けだ!)
(父君⁉)
バチルシの敗北宣言を聞き心が折れたバチルスは膝から崩れ落ちたのだった
。。。
〈さて、内通者が誰であったか…聞かせて貰おうか?〉
枷を嵌められたバチルス達は今ラクルの居城にて跪かされ尋問を受けている
(フッ…フハハハ‼貴様に語る口は持っておらぬわ‼精々謀反に怯えて暮らすがよい‼)
バチルスは最後の矜持とばかりに口を割る事を頑なに拒否する
〈…そうか。〉
ラクルが手を上げると衛兵が三人のバンパイアを連行してラクルの前に跪かせる
(なっ⁉貴様等は⁉)
バチルスの前に跪かされた内通者達は旧元老院支持派の貴族だった
〈…自白すれば多少の温情を、と日向子にも勧められたのだが無駄にしてしまったな、バチルス〉
バチルス親子、というよりデストピアの滅亡が確定した瞬間だった




