222 敗走
今日も2話投稿してみました
「良し、日向子。此所で降下するぞ‼」
ラクルの指示により日向子も合わせて降下を始めた
「…ラクルさん、本当に大丈夫なの?」
作戦を聞いた日向子は不安で一杯だった
〈どのみちまともに当たれば一時間持たないだろう、これは賭けだ〉
「ラクルさんも意外と行き当たりばったりなのね」
その言葉を日向子に言われたら終わりだと思うが今回の作戦は規模が違う
数万の軍勢に「効かなければ」バンパイア領もゴルドも終わりなのだ
日向子は覚悟を決めてラクルの指示を待った
…スーー…
ラクルと日向子は風の加護で音もなく降下を続けている
〈日向子、そろそろだ。準備せよ‼〉
ラクルの指示に従い日向子は右目に意識を集中する
…〈今だっ‼〉
ギンッッ‼
ラクルと日向子のバンパイアアイが大きく見開かれバチルス軍は幻覚に陥った
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(バチルス様‼前方にバンパイア軍約五千が接近中です‼)
(五千?…五千だと?協力者から聞いていた全軍の数に匹敵するではないか‼
まさか自殺しに来たとでも言うのか?)
バチルスはバンパイア領の軍勢が五千しかいない事を予め知っていた
ソコにゴルドの軍勢が加わっても六千が関の山だろう、とも
なのに今、五千の兵が正面切って討って出てくるとは思ってもいなかったのだ
(ククク…今世の王は余程無能と見える…数万の軍勢にたった五千で挑むとはな…)
(バチルス様、生体加粒子砲の準備を致しますか?)
(バカな⁉この状況で加粒子砲など使えば後世迄の恥だ‼せめてもの敬意を払ってこちらも正面から戦ってやるわ‼)
バチルスはチェスボードの駒を日向子達の周りに取り囲む様に配置する
(殲滅せよっ‼)
バチルスが駒をまとめて動かすと日向子達の軍勢に向けて一斉に攻撃を始めた
先鋒三万に対しラクル軍五千、数分も経たずにラクル軍は敗走を始めた
(如何致しますか?)
(分かりきった事を。相手の主力部隊が敗走しておるのだ、追撃し殲滅せよ!)
スカルキング率いる先鋒に加えゴーレム達も追加投入し万全を期す
(他愛ない…相手を過大評価していた様だな‼これでは手応えがないではないか?ハハハハッ‼)
実質バチルス軍の損失は先鋒の5%程、対してラクル軍は30%程先の攻防で失った様だ
ラクル軍は一ヶ所に固まり徐々に兵を減らしながら逃げていく
(バチルス様、この先はデス・キャニオンですが…如何なされますか?もし伏兵がいれば挟撃の可能性もありますが)
(クハハハッ‼烏合の衆が幾ら寄り固まっても我が兵達の進軍を阻む事は出来ぬ‼
城に籠城されても面倒だ、籠られる前に一気に叩くぞっ!)
(はっ‼)
渓谷に向けて速度を上げるラクル軍をバチルス軍も全速力で追っていく
(あと少し…あと少しで我等の勝利だ‼父君、この戦に勝ったらそのまま地上を平定しデストピアの名を世界に轟かせましょうぞ‼)
バチルスは盤上の駒を縦列にして突撃していく
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〈…上手くいったな〉
「えぇ、予想以上にね」
バチルスの進軍を上空から見つめていたラクルと日向子は作戦が成功した事を確認する
始祖と同等の瞳力と日向子の瞳力でバチルスに気付く隙を与えず数万の軍勢を一気に幻覚に嵌めたラクル達は
自軍の敗走する姿を見せてデス・キャニオンに誘い込んだのだ
「谷に追い込んだは良いけどシルちゃん達、上手くやってくれるかな?」
〈…日向子はドラゴンを舐め過ぎだ。「四竜」が揃えば天変地異も起こせるのだぞ?〉
「えー?皆良い人(竜)なんだけどな…」
〈…それを言えるのは日向子だけだ…〉
ラクルは日向子の言葉に頭を抱えた
ーデス・キャニオンー
『しかし四竜が揃って戦うなぞ何千年ぶりだろうな?』
『まぁ日向子の要請がなければ一生なかっただろうがな』
『ドラウグルだか何だか知らないがチャッチャと片付けて酒盛りでもしよう‼』
『…先の失態を此所で取り戻さなくては…』
ドラゴンの頂点にいる四竜、風のシルグ、炎のワイト、地のラルド、海のオーシュが何故か此所デス・キャニオンに勢揃いしていた
切欠はラルドがシルグと日向子の所に出産の挨拶に来た所迄遡る
。。。
『日向子‼シルグよ、我が妻黒竜が無事出産を終えたぞ‼』
「おめでとうございます‼」
『竜にしては早産だったな、母体は息災か?』
『あぁ、何の問題もない。所でこの騒ぎは何だ?』
「あ、丁度良かった‼ちょっとお手伝いしてくれますか?」
『ん?日向子の頼みであれば何でも叶えるぞ?』
「じゃあ折角だからワイトさんやオーシュさんも呼んでお祝いしましょうよ‼」
『む?それは名案だな‼では早速使いを出して呼ぶとしよう』
シルグはいそいそと配下に連絡を取る様に指示を出す
「あ‼シルちゃん、ついでに皆に手伝って貰おうよ‼」
『ん?おぉ、それは良いな。ならば負ける事はなくなるしな』
。。。
こうして四竜は「黒竜の出産祝い」(のついでに)バチルス軍殲滅作戦に参加する事となったのであった




