219 ドラウグルの王、バチルス
本日は2話投稿です
…ガシャ、ガシャ…ドスッ
冷たい石造りの城に甲冑が擦れる音だけが鳴り響く
(…今世のバンパイアの王を滅せなんだか…)
傷だらけの兜の奥に覗く鈍い光を放つ瞳が細く歪む
(やはり生者のテイマー如きに策を授けたのは失敗だったのでは?)
玉座の横に控える法衣を纏う骸骨、スカルプリーストが下顎の骨を軋ませながら進言する
(…いや、あの策を成すには生者を介して吸血鬼の協力者に接触する必要があった。
それで誅せなかったのは恐らく今世の王の悪運が強かっただけであろう)
…ギギギ…ガシャン‼
玉座に座る甲冑の騎士、彼こそが東の死の大地を治めるドラウグルの王、バチルス王その人である
…ギギギ…ガシャン‼…ガシャン‼
(王様、お呼びでしょうか?)
玉座の前に膝をついたのは失われた秘術により生を受けた岩塊の体躯を持つ魔物、ゴーレムキングだ
(…うむ、例の計画は潰えた。デスナイト達に召集を)
(畏まりました)
ギギギ…ガシャン‼ガシャン‼
岩で出来た体に簡素化された鎧を纏ったゴーレムキングは恭しく頭を垂れると玉座の間から出て行った
(…王様、死の騎士様方をお集めになり如何するのですか?)
スカルプリーストの問いにふんっ、と鼻を鳴らしてバチルスが答える
(決まっておるだろう、疲弊したバンパイア共を叩くのよ)
司祭以外誰もいない玉座の間でバチルスの薄い笑い声だけが響いていた
。。。
『主殿、領内の税収が前ゴルド王国の260%を超えたぞ‼』
黒縁メガネにワイシャツ、黒の腕カバーをつけたシルグがそろばん片手に立ち上がり隣にいた日向子に報告した
シルグは領主代行により新しい趣味を見出だしていた
少しでも力になれば、と思い日向子から学んだ算盤で新たな境地を得たシルグは今や算盤王とも言われるらしい
「…ドラゴンが事務員姿で算盤弾くのってシュールよね…ま、まぁこの領地が発展して潤うのは良い事よね」
ウシャ爺始め各部門の領民達が頑張ってくれている証であった
「以前のゴルド王国より税率下げたのに税収が3倍近くになるって凄いわね」
『あぁ。以前の税率は一律で35%程、現在は部門により違いはあるが13%程だ。
税率の引き下げによって領民の向上心が上がりそれが消費等に繋がっているのだろうな』
以前より納める税金が3分の1になれば手元に残る金は当然多くなる
多くなった分が今は購買欲に繋がり更に税収が上がるという「好循環」になっているのだ
「好景気っていうのはいずれ負に転じるから油断はしないでね?」
『フフッ、ワシを誰だと思っているのだ?算盤王だぞ?』
(…あ、意外と気に入ってるんだ?)
日向子にしてみれば凌辱プレイ並みの激ダサニックネームだが流石何千年も生きているドラゴンだ、
センスが常人とはかけ離れているのだろう
まぁともかく領民が幸せならそれで良い。と日向子は満足気に微笑むのであった
。。。
〈む?バチルスの下にデスナイト達が召集されただと?〉
ラクルは斥候スカルからの報告書にあった一文に眉をひそめた
《ラクル様、それが一体…?》
衛兵にはその意味が理解出来ていない
〈…デスナイトとは十二体から成るデストピアの支配階級にして歴代の王なのだ
それらを全て召集すると言う事は…戦が近いのかも知れない〉
《い、戦が…?》
〈こちらもそれなりの用意をせねばなるまい。皆にこの事を開示して備えさせよ〉
《はっ‼畏まりました‼》
衛兵が慌てた様子で部屋を出ていく様を眺め戦は可能であれば回避したい、と思うラクルであった
。。。
(…ふん、今世の王め。既に我等の動きを察知したか…小賢しい奴よ)
バンパイア族の内部協力者からの一報を苦々しく受け取るバチルス
(さて、ここに集いしご歴々方。此度の召集の目的はお分かりであろう、
皆の悲願であり懸念であったバンパイア族の殲滅戦を開始したいと思うがどうであろう?)
バチルスは敬意を払いつつ言葉を進める
此処に座しているデスナイト達はバチルスが甦らせた先代の王達、要はバチルスの先祖達である
(…我等の悲願が…ついに…)
先代王、バチルスの父バチルシは感慨深げに呟く
初代から先々代迄は何の反応も示さない
そもそもデストピアの前身、東の国はバンパイア族との深い関係があって栄えた国だった
東の国で産出される純度の高い鉱物とバンパイア族の持つオーバーテクノロジー、
お互いの交易により東の国は他国を圧倒する国力を手に入れたのだ
故に先代以前の王はバンパイア族を敵視していなかった
今この場に座しているのはバチルス王にかけられた呪いによって傀儡と成り果てているからに他ならない
(父君、先代の王達よ、照覧あれ‼我が臣下達がバンパイア族を駆逐する様を‼)
…ザッッ、ガシャアッ‼
バチルスと12人のデスナイト達の眼下には数万の不死の兵が主の命令を待っていたのである




