217 死の病 part8
「えっと…ラクルさんは…始祖と同じ体になっちゃった☆」
!!??
日向子の衝撃発言に皆が狐につままれた様な顔で固まった
《…主、一体どういう事だ?》
キメがハッと我に返って日向子に説明を求める
「んーと、要はこういう事ね…」
その後話された日向子の説明は常識では考えられない奇跡が起こった事を証明する形となった
バンパイアの始祖から始まる血の系譜は代々受け継いでいく間で薄れ、または異種が混ざり劣化していった
今回日向子が行った治療は結果的に劣性遺伝子を駆逐し純粋なるバンパイア細胞でラクルの体を構築する結果となったのだ
これにより失われていた始祖の能力の全てが覚醒し現在のラクルは始祖と同等、いや下手をすると始祖以上に「純粋なバンパイア」として再生を果たしていたのだ
〈まさか…そんな…〉
治療班のバンパイア達はラクルの神々しさに跪き崇める姿勢をとった
ワーウルフ達も直感でラクルの神気に触れ平伏していたのだった
〈…これが始祖の力か…〉
ラクルは体内から迸る覇気を全身で感じて驚く
「まぁ経緯はともかく結果オーライなんじゃないかな?」
日向子は持ち前の楽観視でサラッとその場を締めくくったのであった
。。。
「よし、これで大丈夫‼」
日向子がラクルに施した治療方法が成功した事で発病したワーウルフ達の治療法が確立した
要は神経細胞を侵し続ける狂犬病ウイルスを攻撃する細胞と正常な細胞を増殖させればいずれウイルスが駆逐される事が分かったのだ
日向子は連絡係として控えていたドラゴネットのドラに頼んでウシャ爺に事の経緯と新薬への提案を伝えて貰い2日後には新薬が治療室に運ばれて来た
投与されたワーウルフは副作用としてより狼の要素が濃く現れる形とはなったが全快したのだった
新薬はウシャ爺率いる薬学班と助力していた元老院達の手によって大量生産されバンパイア領の隅々にまで配布されていった
対狂犬病予防の不活性細胞ワクチンと新薬の普及により今回のバイオテロはその後2週間程度で沈静化した
ラクルはバンパイア領全土に向けて安全宣言を行い住民達の不安を取り除くと共に
今回最大の功労者である日向子とキメを大々的に讃えたのであった
。。。
〈…で、此度の一件は敵対的存在からの侵略行為なのだな?〉
領内の落ち着きを見届けたラクルはゴルド領に戻っていた日向子を訪ねてゴルド城にやって来ていた
「…えぇ。あのウイルス、特にラクルさんを襲ったワーウルフ達とキメちゃんを襲ったキマイラは確実に操られていたし
ウイルス自体も自然発生したモノじゃなくて恣意的にデザインされたウイルスだったわ」
日向子はここまでに分かった事をラクルに全て話した
「それでラクルさんには思い当たる節はあるのかしら?」
日向子は単刀直入に犯人に宛はないかを訊ねた
〈…我の周りは敵対者が多いが…同族や僕達ではないのは確かだろう。そうなると…彼奴等しか考えられないのだがな〉
恐らくウイルスの蔓延には同族、つまりバンパイア族の誰かが加担しているのは事実だろう、
だがその蔓延はいずれ自身の破滅を招く結果で終結していた筈だ
となると真の首謀者は同族でもワーウルフ達でもなく協力者を操りバンパイア族の滅亡を望んだ者がいた事を指し示していた
「彼奴等って?」
〈…東の死の大地に住まうドラウグルの王、バチルスだな〉
日向子は初めて聞く言葉に目をパチクリさせている
「え?東って高原がある所でしょ?」
〈死の大地、「デストピア」はその高原より遥かに東にある不毛の大地だ。
始祖の生きていた時代、他を圧倒する戦力で強国を築いていた〉
「そんな国が何故滅びたの?」
〈我がバンパイア族の始祖との覇権争いをし、始祖達を北に封じ込めた迄は良かったが
バチルスの国も疲弊し荒廃が進んでな、ソコで彼奴等は禁術に手を出して滅びたのだ〉
「「禁術」って何?」
〈他国より伝来した「不老不死の霊薬」だそうだ。詳しくは我も知らぬ〉
「えーっと、要するにその禁術に手を出して失敗、滅んじゃったって事?」
〈そうだ、霊薬を飲んだ全ての民は確かに不老不死の体を手に入れた。アンデッドとしてな〉
日向子はラクルの説明に頭を抱えた
何千年も前にも権謀術数が入り乱れ国が滅んでしまった
おそらく罠を仕掛けた国は既に絶えてしまっているのだろう
だがその企みで滅びた筈の国は死者の楽園追放として今も尚君臨しているとは何という皮肉なのだ
怨みの連鎖は断ち切る事が出来ないのか…これが日向子が頭を抱えた理由であった
〈ともかく死者であるバチルス達であればウイルスを使った侵略を行っても問題はない。これがデストピアを疑った最大の理由だ〉
ラクルの説明で日向子の疑問は全て晴れた
死して尚敵対する事でしか存在出来ない者達、ドラウグル率いるアンデッド集団が次の敵となるのか?
先ずは確証を得る為間者を放つ事を決めた二人は冷めてしまったお茶に口をつけたのだった
これにて終了。
如何でしたか?
投稿はあっという間ですが生み出す(書く)のは苦行ですね




