213 死の病 part4
日向子をはじめウシャ爺達の必死の努力で発病前のワーウルフであれば8割を回復させる事が可能になった
「ふぅ~、これで一応は拡散は防げそうね。後は発病者の治療薬が完成すれば良いんだけど…」
狂犬病は神経に作用するウイルスで進行具合は比較的緩慢だが発病した段階で脳神経迄侵している為にどうしても根治が難しい
元老院の下部組織が一度脳を破壊してから再生させれば除去出来るのでは?
と提唱し実践してみたがウイルスごと再生してしまい頓死してしまった為に却下された
現在はキメの細胞を培養する事によって出来る謂わばナノマシン的な治療薬の開発をメインに進められている
《ラクル様、我が国の7割が狂犬病の終息を報告して参りました。発病後は現時点では処理案件になっておりますが如何致しますか?》
今回の狂犬病は都市部から外に向かって拡散した様で遠隔地であればある程被害は軽微なモノとなっていた
その為各領主に配布された試験薬と試薬26号でほぼ全ての罹患者者を回復させていたのだ
重篤な患者や発病した患者はラクル王の命令で全て城内に連れて来る様に厳命されている
残ったのは発病後の患者問題である。
治療法が確立していなかった前世では動物は殺処分されていたが日向子がその選択をしなければならない状況はまだ先の話である
〈現状では拡散を食い止められている。このまま維持だな〉
ラクルは報告に来たワーウルフに告げて目を閉じた
漸く終息への目処が立った事で国内の騒乱も落ち着きを取り戻しつつある
未だラクルの治世に反感を持つ貴族もいる中でこの事は大きな安寧に繋がるのだ
そんな思いを馳せていたラクルに再びワーウルフからの火急の知らせが届く
《ラ、ラクル様‼城下の南西で狂犬病を発病したワーウルフ達が暴動を起こしております‼》
…ガタッ‼
〈…何だと?〉
狂犬病は発病すれば発狂する程自我を失う筈だ
なのに今回の騒動で暴れているワーウルフ達はまるで誰かに操られているかの如く統率された暴徒と化しているらしいのだ
〈…出るぞ‼日向子に伝えておくが良い‼〉
《ラクル様‼》
ラクルは衛兵の制止も聞かずに飛び出して行った
。。。
…ガルルッ‼ガウッ‼
《ギャアァッ‼》《キャアッ‼》
ラクルが現地に到着すると確かに暴徒化したワーウルフが同族や人間達を襲っていた
…ギュルッ、カシュッ‼カシュッ‼
《ガッッ⁉》《ギッ⁉》
ラクルは上空から体を反転させると暴徒達目掛けて直滑降し、頭をもぎ取った
〈大丈夫か?何があったのだ?〉
ラクルは逃げ惑う人間を引き留め状況を訊ねる
「ラ、ラクル様⁉…突然街外れからアイツ等が襲って来て…次々に衛兵達が倒されて此処まで攻め込んで来たのです‼」
〈衛兵達が?此処は確かバンパイア達もいた筈だが?〉
城内の外壁には若いバンパイア達も衛兵を指揮する為に護衛に就いていた筈である
「その方達は…真っ先に襲われて…」
〈…良し、分かった。皆安全な場所迄避難する様に伝えてくれ〉
ラクルは事情を説明してくれた人間に避難指示を頼むと再び暴徒の中に突撃して行った
一方ラクルの居城で衛兵から事情を聞いた日向子は焦っていた
「おかしい…おかしいわよ?何故今になって集団で現れたの?」
日向子達は発病したワーウルフが集団で現れた事に違和感を感じていた
《確かに。発病リスクが高い個体は全てこの城に収容した筈だ。何らかの作為を感じるな》
発病者の治療にあたっていたキメも同様の疑念を抱いた様だ
「もしこの騒動がラクルさんを狙ったモノだとしたらラクルさんが危ないわ‼私、行ってくる‼」
《ま、待て‼俺も行く‼》
キメが慌てて出ようとしたが日向子は既に部屋から飛び出してしまっていた
《くっ、せめて俺の分体を連れて行け‼》
キメはオオススメバチ2匹を体から出すと日向子の後を追わせた
ウウッ…ウググ‼
キメはどうしても手を放せない発病したワーウルフの治療に仕方なく戻った
《…主…》
キメは何か嫌な予感を感じて心中穏やかではいられなかった
バサッ、バサッ、
「あ。あそこね?」
日向子が現場上空に着くとラクルが暴徒化したワーウルフ達と闘っているのが見てとれた
日向子が降下を始めた時、異変が起こった
それまで一方的に屠られていた暴徒達が急に何かの指令を受けた様に統率された動きをしたのだ
〈…クッ⁉〉
前後左右、上からの同時攻撃
ワーウルフ達はそれを波状攻撃でラクルに突進していったのだ
「ラクルさーーんっ‼」
第3波迄は対応出来たラクルは次の攻撃で捕まった
背後からの攻撃に反応が遅れ肩口を咬まれてしまったのだ
〈チッ、しまった‼〉
咬まれた肩を抑えながらラクルが波状攻撃の輪から一瞬で退く
ソコに日向子も降り立った
「ラクルさん‼」
〈…日向子か、大丈夫だ。〉
「後は私に任せて一旦退いて‼」
日向子はラクルを庇う様に前に立ちはだかった




