211 死の病 part2
日向子の指示によって取り敢えずは被害の拡大を抑えていたバンパイア族は感染源の探索に必死になっていた
…ドカ‼バキッ‼
〈…ダメだ。此処は既に息絶えているぞ‼〉
バンパイア族は自身が治める領地に住まうワーウルフ達の家屋を丹念に回り感染者を探していた
〈くっ、我が領にも此処まで感染が拡がっているとは…〉
此処で一度バンパイア族の領土の構成を説明しておく必要があるだろう。
バンパイア族はラクルを王として掲げその下に元老院、貴族で構成されている
その下には隷属として仕えるワーウルフ、人間も僅かにいるがそれはバンパイアを崇拝している者達と「血袋」として隷属する奴隷のみだ
ワーウルフの人口が領地の大半を占め生産等も担っている為にその損失は領土の危機をもたらすのだ
〈早く感染源を探せ‼奴隷共は一旦屋敷で保護して感染を防ぐのだ‼〉
貴族達は非感染のワーウルフ達を急き立て処置を急がせる
グルァァァッ‼ガブッ‼
《うわっ!やられた!》
家屋を探索していたワーウルフが発病したワーウルフに襲われ傷を負った
〈早く咬まれた箇所を焼くんだ‼〉
…ジュウゥゥゥ~…
《ウガァーッ‼》
他のワーウルフが焼きごてを傷口に当て焼き切る
シュウ~…
痛みは伴うが治癒力により傷は一瞬で癒える
〈まさか屈強なワーウルフが病魔に侵されるとはな〉
その光景を見ていたバンパイアはいずれ自分も感染するのではないか?という恐怖に駈られていた
ーラクルの居城ー
《ラクル王、貴族方から報告が上がっております。現在6割は掌握、しかしながら未だ感染源は発見出来ずとの事です》
報告を聞いたラクルは静かに頷いた
〈…未だに見つからんとはな〉
感情を表に出さないラクルも焦りは感じていたのだ
〈…日向子は今何処にいる?〉
《は。日向子殿は現在感染者の隔離部屋にて治療と処分を行っております》
〈我も向かうぞ〉
ラクルは自国の危機を日向子に任せている事を恥じて自らも隔離部屋に向かった
コツコツコツコツ…ガチャ、
〈日向子、入るぞ〉
「あ、ラクルさん」
ラクルが隔離部屋に入ると想像以上の光景が拡がっていた
体育館程の広さに檻が3つ設置されその前には「疑感染」「感染」「発症」と看板が掲げられ元老院の下部組織に属する者達が忙しく動き回っている
「疑感染」の檻の中ではベッドが数十床置かれワーウルフが幾つかのグループに分けられ横たわっている
「感染」の檻でもベッドはあるが其処にいるワーウルフ達は全てベッドに拘束されている
「発症」の檻では口枷をされたワーウルフがより強固な拘束をされ動きを封じられ唸っていた
それぞれの檻には絶えず患者が搬送され各々の部屋をスライドしていく形で移動していく
〈…これ程とはな…〉
ラクルは感染被害の多さが自身の予想を大幅に上回っていた事を実感していた
〈日向子、我に手伝える事はないか?〉
「じゃあ私と一緒に感染者の感覚遮断をお願いします‼」
ウシャ爺達の治療薬開発を待つ間、感染者達の苦痛を取り除く為に日向子はバンパイアアイによる感覚遮断を行っていた
「…せめて苦しまない様にしてあげないと…」
発病を防げないのであれば、という慈悲しか与えられない現状に日向子は無力感を味わっていたのだ
〈気落ちする事はない。お前の気持ちはワーウルフ達に十分に伝わっているぞ〉
一時的とは言え苦しみや痛みから解放されたワーウルフ達は感情こそ表せなかったがその目からは涙が流れていた
「発病」エリアではキメが一体一体回って「処理」をしている
細胞の集合体であるキメも取り込んでしまえば感染の恐れがあり危険を避ける為に分体を出してワーウルフを静かに処理するしかなかった
「どう?キメちゃん」
《…まだ細胞に及ぼす因果関係が掴めていないな…もう少し時間をくれ》
キメが処理を担当しているのには理由がある
分体を感染者に潜らせる事で細胞・遺伝子レベルでの抗体作りを模索させているのだ
但しやはり感染リスクが高い為に二重三重の保護を施さねばならず処理時間と労力は大幅に増大していた
「今の所後の先的な対処しか出来ていないから…早くウシャさんの薬が完成すると良いんだけど…」
日向子の願いは未だ先の見えぬ闇に儚く消えていった
〈…む?〉
自身の瞳力を使って日向子の作業を手伝い出したラクルはその作業の困難さを実感した
バンパイアアイは直接接触して相手の感覚に作用している訳ではなくあくまで対象者の思考操作により無意識下で強制力を以て促す能力だ
〈お前…こんな精密なコントロールを施しているのか?〉
良く見れば日向子の額には大粒の汗が滲み出ていた
「…治してあげられないからね…せめて楽にしてあげないと」
ラクルは日向子の情の深さに驚き別の感情が芽生え始めていた
今日は5話一気に投稿してみましたが如何でしたでしょうか?
反応があれば明日も頑張っちやいますかね?




