209 日向子の構想
人違いの誘拐事件も落着し、自身の在り方を考え直した日向子は国王に挨拶をするとゴルド城へと戻った
「ただいまー‼」
執務室ではシルグが沢山の書類の山に埋もれて孤軍奮闘していた
『ん?おぉ、主殿か。誘拐事件はどうなったのだ?』
恐らくこの書類の山の中には今回の誘拐事件の報告も置かれている筈なのだがこの状態では発見する事も難しそうだ
「あらら…随分溜まっちゃったわね」
日向子は雪崩が起きそうな書類を整えながら代行してくれていたシルグを労う
『…すまぬな。ワシが代行すると大見得を切ったが細かい報告迄目を通すとなると時間が掛かってしまって…』
現在日向子が治めるゴルド領は日向子のトップダウンに近い状態で復興が進んでいる
商業部門のドルネ、工業部門のナクル・ミグル、薬剤部門のウシャ爺達には独立した権限を与えてはいるが
ここまで復興が進むと行政を担う人材が圧倒的に不足していたのだ
『ワシもやってみて主殿の苦労が骨身に沁みた。これではいずれ体を壊してしまう』
良く見るとシルグの目の下には隈が出来ていた
人型に変態している状態で隈を作るとは器用なドラゴンだ
「うん、それを踏まえて誰か雇おうかと思っているのよ」
日向子はゴルド領再生の次の段階として行政再生を考えていた
『では以前のゴルドの二の舞にならぬ様な人選をせねばな』
「問題はそこなのよねぇ…」
人間は欲が絡むと変わる者が必ず出て来る
その見極めは古来から統治者の悩みの種であり身の破滅にも繋がる重要なファクターなのだ
《お?主、帰っていたのか?》
ソコに領内で発生していた魔物討伐依頼を終えたキメが戻ってきた
「キメちゃんただいま。今ね…」
日向子はシルグとの話し合いを大まかに説明した
《…なるほど、確かに人手は欲しい所だな》
キメも日向子と同じ様に今の生活に窮屈さを感じていた1人である
「人選をどうするか、信用の置ける人をどう見つけるかにかかって来るのよねぇ」
第一候補はエレモス国王の甥、ピール辺りと言った所か?
だが流石に王家に関わる者を次期領主に据えるとなると他国から物言いが入るだろう
今のゴルドはそれ程魅力的な経済域に変貌しつつあるのだ
((日向子様、ゴメリ殿から早馬が…))
衛兵のバハムートが執務室に飛び込んで来た
「え?バンパイア領内で何かあったのかしら?」
ゴメリは今リースと共にバンパイア領内の交易地区に駐屯し人間とバンパイアの交易を管理している
日向子はキメを連れてゴメリの元に急ぎ飛び去った
ーバンパイア領内交易地区ー
バサッ、バサッ、バサッ、
「ゴメリさん、どうしたの?」
「おぉ、ヒナちゃんか。忙しいのにすまないな」
ゴメリはリースとバンパイア領の地図を拡げて会議していた様だ
《バンパイア達に何かあったのか?》
キメの質問にゴメリは首を横に振り地図に記された赤い丸を指差して説明する
「ここ最近ワーウルフの間に奇病が蔓延しだしていてな、
ラクル王や元老院も原因追求に動いているのだが全く収束せんのだ」
「奇病って?」
「うむ、涎が止まらなくなり凶暴化しいずれ狂い死ぬ奇病なのだ」
「えっ?それって狂犬病じゃないの?」
日向子の言葉にゴメリが鋭く反応する
「何っ⁉ヒナちゃんはこの奇病を知っているのか?」
「うーん…本当にそうかは分からないけど私の国では似た症状があるのよね、犬に」
「…犬にか?」
「まぁ噛まれて発病すると人間も伝染るわよ、それに他の動物でも発病するわ」
ゴメリはリースと顔を見合わせて渋い顔をしている
「…とにかくラクル王の所に行ってみてくれんか?城内にも感染したワーウルフがいて大変らしい」
「了解。ゴメリさん達はなるべく室内にいてね、あ、あと生水生肉は禁止ね」
「分かった。ヒナちゃん達も気をつけてな」
ーラクルの居城ー
バサッ、バサッ、
…バキッ‼ゴリッ!
「ラクルさん大丈夫?」
〈む?日向子か〉
日向子とキメがラクルの下に到着した時、ラクルは新生元老院の面々とワーウルフを始末している最中だった
「ラクルさん生きたワーウルフいるかな?病気に掛かっている個体」
〈…それなら別室に繋いでいる。何か分かったのか?〉
「あくまでも仮定だけど…一緒に来てくれる?」
日向子はラクルと元老院を連れ立って発病したワーウルフが繋がれている部屋に向かった
…ウガルルルッ‼ガウッ‼
日向子は目の前で威嚇しているワーウルフをじっくりと観察した
「…ラクルさん、お水貰える?」
〈うむ、水を。〉
元老院のメンバーが水を日向子に手渡す
…バシャ‼
!?キャウゥッ‼
発病したワーウルフ達は日向子が浴びせた水を異常に怖がりのたうち回っている
「あー…やっぱり狂犬病かも?」
〈狂犬病?知っているのか?〉
「…まぁ前世でね。これはかなり厄介なのが出て来たわね…」
日向子は腕を組んで深刻な表情をしていた




